第20話 三の村での日常。
僕は誰も居なくなったのでスパートをかけてビッグベアの解体作業を終わらせる。
全ての解体が終わったので作業場の掃除をしてから裏手に回り、おじさんの奥さんに終わったことを伝えた。
おばさんは僕の仕事を見て気に入ってくれていて「うちの子にならない?」と言っていて、このノリがジチさんを喜ばせたのだなと思った。
そのジチさんは家の中でフィルさんと料理をしていて、和気あいあいとした空気感で平和そのものだった。
急いで終わらせたものの、ご飯まではもう少しかかるそうなので僕は待つことになった。
おばさんは出来たらおじさん達が帰ってくるのを待ちたいとのことだったので本格的に手持ち無沙汰になってしまった。
おじさんたちが帰ってきたのは太陽の位置からして昼を少し過ぎたころだった。
毒竜は持ちやすい大きさに切られていたので、死ぬと柔らかくなるのか、内側から切れば簡単に切れるのかもしれない。
ガミガミさんが僕に毒竜の頭を見せながら「帰ってきたぞ」と言ってきた。
僕がガミガミ爺さんに「おかえりなさい」と言っている横でおじさんがすっかり綺麗になった作業場を見て驚きながら「なんだ坊主、もう解体作業は終わっていたのか?」と言う。
ガミガミ爺さんは僕と作業場を見ながら「まったく、休めと言ったのに…」とブツブツと不満を表している。
ガミガミ爺さんが周りを見渡して「ところでフィルはどうした?家で休んでいるのか?」と聞くので僕は「ジチさんとおじさんの家で料理を作っていますよ」と教える。
ガミガミ爺さんが「全く、フィルも小僧も休めと言うのに…」と更にブツブツと言っている。
この姿だとブツブツ爺さんでもいいのかもしれない。
おじさんがそうおばさんに「帰ったぜ」と声をかけた。
おばさんは「丁度いいタイミングだよ」と言うと、大人数だからと外にテーブルと椅子を並べだして、痩せたメガネの人やほかの人たちにも「手伝っておくれ」と声をかけていた。
僕も手伝おうとしたのだが、ガミガミ爺さんに腕を掴まれて睨まれてしまった。
…何もできない時間が辛い。
お昼ご飯は、熊のシチューと熊とイノシシのハンバーグだった。
熊のシチューはフィルさんが作ったものかと思ったが、朝からジチさんとおばさんが作っていたものらしい。
フィルさんの料理は仕込みまでで食べられるのは夜になるので、僕は夜ご飯をガミガミ爺さんの家で食べることになった。
ジチさんが「さあ、お姉さんとおかみさんの力作だよ。食べて食べて!」とせかしてくるので僕はシチューから食べた。
やはりジチさんの料理はおいしい。
僕が素直に「おいしい!」と言うとジチさんは「でしょう!良かったー」と言ってニコニコと喜ぶ。
フィルさんも「本当、美味しいわ」と言って美味しそうに食べている。
ガミガミ爺さん達は山で疲れたのだろう、ものすごい勢いでご飯を食べている。
「沢山作ったからーって言いたいけど、この勢いは凄いねぇ。お姉さんもびっくりだよ
ジチさんは口ではそう言っているけど顔はニヤニヤしている。
「無くならないうちに私も食べようっと」と言って食べたかと思えば、今度はおばさんとお互いの腕を褒めあっている。その姿を見ていると本当に親子みたいに見えてきた。
このまま、この三の村がジチさんの探す安住の地になるのなら僕との旅は二日で終わる事になる。それは少し寂しい気もするが、僕にとっては安心して先に進めるので喜ばしいのだろう。
お昼ご飯を食べた僕はガミガミ爺さんに捕まる前に片づけを手伝う。
後ろから「こらっ!」「くそっ!」と言う声が聞こえてきた。
ジチさんは僕を気遣って「あらあら、片付けを手伝ってくれるの?お姉さん嬉しいけど、別に無理しなくていいのよ?疲れているでしょ?」と言ってくれるが、僕は動いていたいので手伝う事にした。
フィルさんは僕の代わりにガミガミ爺さんに捕まって休むように説得されている。
目が合った時に「助けて」と聞こえた気がしたが、行けば僕まで捕まるので「ごめん!」と手で謝って片付けに逃げた。
片付けの後、僕はガミガミ爺さんに呼ばれた。
休まない事に怒られるのかと思ったがガミガミ爺さんが「恩返しの件だけどよ」と言うとフィルさんが僕の横にやってきた。
フィルさんは「ちょっとごめんね」と言うと紐で僕の身体を測りだした。
僕が「何をしてるの?」と聞くとガミガミ爺さんが「採寸だよ」と言った。
「毒竜の鱗と鉄で、軽量の鎧を作ってやろうと思ってな。戦っている所は見た事ないが剣を見た感じ、細かく動き回って戦っている風に思えたから動きを邪魔しない鎧にしてやる」
「お爺ちゃんにその為の採寸を手伝うように言われたの。後は着替えの上着を貸してくれる?大まかなサイズは服に合わせちゃうから」
2人はそう言うと僕の身体を「次は首だ」「次は肩」と採寸していった。
一晩で作れるのか疑問だったのでガミガミ爺さんに聞くと「俺を誰だと思っていやがる」と怒られてしまった。一晩で終わらせてくれるのなら鎧はあった方がいいかもしれない。
そう言えば、勝手に僕の泊まる場所が決まっていた。
僕は野宿でも構わなかったのだが、フィルさんが是非うちにと誘ってくれた。
だが、直後にジチさんが「今日はフィルと女の子の話をしながら寝たい」と言ってジチさんがフィルさんの家に止まる事になって僕がおじさんとおばさんの家に泊まる事になった。
おばさんは「そのままうちの子になってしまいなよ」とまた僕を誘っていた。
猟師の親元を離れて他所の家の猟師の家にお世話になるのは変な話だとおじさんがおばさんに言ってくれたが「でも1か月くらいなら手伝いに来ても変じゃないよな!」と肩に手を置いて冗談に聞こえない声で言っていた。
…ガミガミ爺さんの家にしておけば良かった。
そんな事を思っていた僕はガミガミ爺さんに「どうしても暇なら手伝え」と言われたので風呂場についていく事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
三の村のお風呂は村人全員が使うのは一の村と同じだったが村の外れではなく村の中にあった。
大きな家を一軒建てて中に川から水を引いていて、玄関は一緒だがその先は男の人用と女の人用に別れているのでお湯さえ用意できていれば何時でも入れるらしい。
一の村と違って家の中なので雨の日も問題なく入れる。
お風呂に屋根はいいかもしれない。
一の村では木々が屋根替わりではあったが完ぺきではない。帰ったら皆に家を作ろうと相談しようと思った。
お風呂場で掃除をするのかと思ったが掃除はほかの人が済ませてくれていた。
僕は何をするのかガミガミ爺さんに聞くと「毒竜の角を細かく砕いて粉にしろ」と言われた。
村人も少なからず毒竜が出していた毒霧の影響があるのでお風呂に粉を入れる事で入浴した村人の体内から毒を追い出すことにするらしい。
ガミガミ爺さんに聞いたら昨日ムラサキさんに相談していたらしい。
僕が粉にしている間にガミガミ爺さんがお湯を沸かしている。
お湯は一か所で作っていて、そこには水門のように戸が付いていて外すと浴槽にお湯が入っていく仕組みになっていた。
誰も居ないとはいえ女性用の風呂場に行くのは気が引けてしまうのでこれには助かった。
粉にした量は角一本分で最初に僕が取った3本の角と今回跳んだことでもう一回取れた3本の角があるので残りは5本になった。
お湯に入れた量はフィルさんが3回に分けて飲んでいる量と同じくらいの量で残りの粉は村にまいて草木や田畑に撒いて解毒に使うらしい。
僕が砕いた角をお湯に混ぜているガミガミ爺さんが僕に「小僧、お前ここに住まないか?」といきなり言い出した。
僕は「どうしたの急に?」と聞くとガミガミ爺さんが「いやな、フィルも楽しそうだし、あの賑やかな姉ちゃんもこのまま行けばこの村に住むだろう?」と、だから一緒に三の村に住まないかと言ってくれる。正直嬉しかったが「でも、僕には一の村が、帰る所があるから…」と言って断る。
「そうだよな。すまねえな。急に自分が年寄りだからフィルより先に死んだ時の事とか考えちまってよ。フィルの為にどうにか何か出来ないかって思っちまってよ。それに小僧は俺が認める人間だから、そういう奴が居てくれればフィルも安心だろうなって思ったんだ」
ガミガミ爺さんが神妙な顔で話す。
確かに親子ではなく祖父と孫なのだからガミガミ爺さんは自分の死後の心配をしてしまう。
そういう事か、昨日の件でいろいろ不安になって考えてしまったのだろう。
「大丈夫、住むところは違っても僕たちはきっと友達になれるから。それにガミガミ爺さんはまだまだ死なないでしょ?」
僕の言葉にガミガミ爺さんは「違いねぇな」と言って笑った。
もう一度ガミガミ爺さんは「色々と…ありがとうな」と言うので僕は「どういたしまして」と言った。
お風呂の用意が終わり、僕はガミガミ爺さんの家で過ごす事になった。
おじさんの家に居ても良かったのだが、ジチさんもあちらにいるし、また子供に来ないかと誘われても困るのでガミガミ爺さんから「ウチで過ごせ」と誘ってもらったのをこれ幸いについていく事にした。
ガミガミ爺さんの家に行くとフィルさんが窓辺で日向ぼっこをしていた。そんなフィルさんは僕を見て一瞬の間の後で「え!?え?なんで?」と言って慌てている。
もしかすると家の中での寛いだ姿を見せるのは抵抗があったのかも知れない。
フィルさんは顔を真っ赤にして立ち上がると「やだ、お爺ちゃん。家に呼ぶなら一声かけてよ!」と怒る。
ガミガミ爺さんは呆れた顔で「夕飯食いにくるんだから変わらねえだろう?ちょっと早いだけじゃねえかよ」と言って僕に「そこ座れ」と言っている。
フィルさんは家中を見渡しながら「1か月掃除してないのよ!」と言うとバタバタと掃除を始めた。
…悪い事をしてしまった。
僕がフィルさんを見て「今更だけど僕が外に行くって言うのは…」と言うと「キヨロス君はそんな事しないで!」と言ってガミガミ爺さんを見て「お爺ちゃん、お手伝いしてよ!」と言う。
「俺はこれから小僧の鎧作りだよ。別にそんなにウチは汚くはないし、小僧はそう言う事を言う奴じゃねえだろう?」
ガミガミ爺さんは呆れ顔でフィルさんに「そう慌てなさんな」と言っている。
フィルさんは「わかっていない」とか「これだからお爺ちゃんは」と言いながら掃除をしている。
手持ち無沙汰の僕も「フィルさん、僕も手伝うよ」と言うのだが「ダメよ!キヨロスくんはお客様なのに!」というやはり想像通りの答えが返ってきた。
「いいじゃねえかよ、小僧もやりたいって言っているんだからよ」
「いいわけないでしょ?わからない?わからないのお爺ちゃんは?」
おお…あのフィルさんが怒っている。
祭壇みたいな所に置かれたムラサキさんが「フィル…。私は汚い部屋を見せるより、怒っているあなたを見せる方のが恥ずかしいと思いますよ?」と声をかけると一気に顔を赤くしたフィルさんは「え?ヤダ!と言うと泣きそうな顔をして大人しくなった。
呆れ顔で「お前は怒ったり泣いたり忙しいなぁ」と言うとムラサキさんが「ドフ、あなたはもう少し女心と言うのを意識しなさい」と言う。
その声にガミガミ爺さんが「ぐう…」としか言えなくなっていた。
ムラサキさんが「キヨロス、もし良かったらフィルの手伝いをして貰えませんか?」と言ってくれるので僕は「はい、やります」と言う。
フィルさんが「ムラサキさん!」と言うのだが「いいから、僕も手伝うから早く終わらせてのんびりしよう」と言うとフィルさんは諦めてくれたようだった。
ガミガミ爺さんは「俺はこれから鎧作りだから邪魔すんなよ」と言うと左の部屋に行ってしまった。
「フィルさん、僕はどこを掃除しようか?左はガミガミ爺さんが邪魔するなって言っていたから真ん中の部屋か右の部屋かな?それともこの部屋にする?」
ガミガミ爺さんの家は、台所とテーブルのある部屋の他に3部屋ある。
僕が部屋を指さしながら聞くとフィルさんから「右の部屋はダメ!」とすごい勢いで断られた。
そのまま「そこ、私の部屋だから恥ずかしいの…」とフィルさんが言う。
危なかった女性の部屋に入るのは僕も抵抗がある
「じゃあ真ん中の部屋なら手伝えるかな?」
「うん。そこはベッドの置いてある部屋だから大丈夫だけど、本当に手伝ってくれるの?」
「うん。窓開けて空気を入れ替えしながら箒がけしてシーツを取り替えればいいかな?」
「それで大丈夫。お願いしちゃうね」
ベッドの部屋は本当にベッドしか無かった。
ベッドは3つ。恐らくフィルさんのご両親のものとガミガミ爺さんのものだろう。
4つ分のスペースはあるので4人で暮らす事も考えて家を作ったのだと思う。
ベッドしかない部屋はとても掃除が簡単であっという間に終わった。
台所のある部屋に戻るとフィルさんはお皿を洗っていた。
そして僕に気付くと「え?もう掃除終わったの?」と驚く。僕は「うん。ベッドの部屋は掃除しやすかったよ」と言った後で「次はどこを掃除しようか?」と聞く。
フィルさんは「え?悪いよ」と言うのだが僕が「いいって、この部屋を掃除すればいいかな?フィルさんはフィルさんの部屋を掃除してくれば?」と言うと、僕の申し出にフィルさんは申し訳ないと言っていたものの、最後には「お願いしてもいいかな?」と言ってくれた。
僕は目につく埃を取ってから椅子とテーブルの水拭きをして床に箒をかけた。
そこでフィルさんが戻ってきた。
「うわぁ、綺麗になってる。キヨロスくん。ありがとう!」
僕は「いいえ」と言った後で「もう後はないのかな?」と聞く。
フィルさんは「うん」と言った後でお皿は夜ご飯の前まで乾かすから後はゆっくりして。今、お茶淹れるね」と言って沢山のお湯でお茶を淹れてくれた。
ガミガミ爺さんの分を用意しないのかと聞いたら、作業中は話しかけてはいけないらしい。
相手がフィルさんでも話しかけると怒鳴られることがあるそうだ。
本当はフィルさんの両親が生きていたらガミガミ爺さんはこの家をフィルさん達にあげて近くに1人で住む気だった事とかを聞いた。
僕の事を聞かれたので両親と3人暮らしをしている事や、村には同時期に生まれた子供が後2人いる事、2人のアーティファクトは村で初めてのB級だった事を話した。
途中、ガミガミ爺さんが部屋から出て来て、毒竜の鱗で作ったカブトをフィルさんに渡していた。
カブトは顔を殆ど隠す作りのもので、確かにフィルさんの美貌を守るにはこれしかないかもなと思った。
フィルさんが僕の鎧はどうしたの?とガミガミ爺さんに聞いていたが「今は乾燥中だよ」と言って部屋を指さして「乾燥中はなんも出来ねえから空き時間でフィルのカブトも作っているんだよ」と言っていた。
ガミガミ爺さんは僕のお茶を勝手に飲むと「混沌の槌」で肩を叩きながら作業に戻っていった。
「ごめんね、お茶…お爺ちゃんが飲んじゃったね」
「ううん、いいよ」
「今もう一回淹れるね」
「ありがとう」
「今度、キヨロスくんのカップもウチに置こうか?」
僕は驚いて「え?」と聞き返してしまった。
フィルさんは照れながら「ほら、お爺ちゃんもキヨロスくんの事は気に入っているし、私も来てくれると助かるかなーって…」と言いながらポットにお湯を入れている。
そうか、これがジチさんの言っていた話だ。
フィルさんは僕と友達になろうとしてくれている。
なので僕はきちんと応える事にした。
「ありがとうフィルさん」
「え?置いていいの?」
「うん。迷惑じゃないならありがとう!」
そう言うとフィルさんは上機嫌で「どんなカップが好き?」「大きい方がいいかしら?」と色々と聞いてくれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
夜ご飯は熊肉のミートパイとイノシシ肉を使った野菜スープだった。
毒竜のせいで貴重になっている野菜をわざわざ使ってくれていてありがたいやら申し訳ないやらだった。
お礼を言ったら、命の恩人なのだから気にしないで、それに熊肉もイノシシ肉も僕が獲ったものなのだからと逆にお礼を言われてしまった。
料理の味はジチさんの料理とはまた違った、そう…優しさを感じる。
食材の大きさや柔らかさに形、それに味のどれを取ってもフィルさんらしくて美味しい。
ミートパイを食べた僕にフィルさんが「どうかな?」と恐る恐る聞いてきた。
ガミガミ爺さんが「美味えよ」と言っていたが「お爺ちゃんは何でも褒めるだけでしょ」とフィルさんが言い返していた。
僕は「うん、凄くフィルさんらしい味がして美味しいよ」と率直な感想を伝えた。
フィルさんは「良かった!」と言ってパァっと明るくなった顔が「でもジチに比べるとあんまりでしょ?」と言ってすぐに不安げになる。
「そんな事ないよ。ジチさんの料理も美味しいけど、フィルさんの料理はフィルさんらしい料理で美味しいよ!」
この答えに「本当?良かった!」と喜んだフィルさんが「もっと食べて」「好きな食べ物は何?」と沢山話をした。
この旅でまさかこんなに穏やかな時間が流れるとは思わなかった。
そう言えばトキタマはムラサキさんと一緒の部屋が嫌だと言ってベッドのある部屋で過ごしている。
そのムラサキさんはむやみに会話には入ってこないので気にすることもないと思う。
食後のお茶を飲んでいるとガミガミ爺さんが「小僧、風呂行こうぜ」と誘ってきた。
僕が「フィルさんの洗い物を手伝ってからはダメかな?」と言うとガミガミ爺さんが「小僧、あんまり女の仕事を奪うもんじゃねえ」と呆れながらに言う。
僕がガミガミ爺さんの顔を見ながら何だろうその理屈?と思っていると「わかんねえか?3人分の皿を洗った時に嬉しくなるって事よ、死んだ俺の嫁さんだってな、俺と結婚した時は随分と皿を洗っては喜んでいたもんよ」と言う。
そうなのかな?
「フィルさん、ガミガミ爺さんはそう言っているけど大丈夫?」
「うん。大丈夫だから行ってきて。私も洗い物が終わったらお風呂に入りに行くから」
そう言うフィルさんの顔が赤い。
ガミガミ爺さんのガミガミ理論はあながち間違いではないのかも知れない。
ただ、明日の朝には僕は三の村を発つのだけどこれで大丈夫なのかな?引き止められそうな気がしてきた。
しかし一番は一の村なので僕は引き止められても明日の朝は絶対に四の村を目指す。
風呂に着くとおじさんが帰るところだった。
おじさんが「爺さん、今日の風呂は気持ちいいな」と言うとガミガミ爺さんはドヤ顔で「そりゃあ毒竜のツノ入りのお湯だから、今までの疲れた身体にはよく効くぜ。だからみんなに今日の風呂はきちんと入るように言ってくれよな。お湯が足りなくなったらツノの粉はまだあるから足せるから言ってくれよ」と言う。
おじさんとガミガミ爺さんの話が終わるまで僕は待つ。
話が終わるとおじさんは僕の方を見た。
「坊主、風呂出たら直接うちに来るかい?」
「うーん…」
トキタマを連れてきてないからフィルさんの所に戻る事も考えなきゃ行けないのだけど、あまり遅くなるとおじさんに失礼だ。
そんな事を考えているとガミガミ爺さんが睨んできた。
「荷物がガミガミ爺さんの家にあるから一度取りに行きます」
「そうかい、わかった。母ちゃんにはそう伝えておくよ」
僕が「今晩はよろしくお願いします」と言うと「あいよー」と言っておじさんは帰って行った。
ガミガミ爺さんはニコニコと僕を見ている。
ガミガミ爺さんも可愛いところがある。
寂しいのかもしれないな。
風呂に入ってしばらくすると急に外がうるさくなった。
女性のお湯の方から声が聞こえる。
「あー!フィルが居る!」と言った声はジチさんだ。
フィルさんも片付けを終わらせてお風呂に来ていたらしい。
ジチさんはフィルさんの元に駆け寄ったのだろう、ジャブジャブとお湯の音が聞こえてきた。
そして楽しげに裸の付き合いだ、フィルさんの肌が綺麗だと騒ぎ出した。
姿は見えないがフィルさんは困っているだろう。
見かねて…否、ガミガミ爺さんが堪らず「うるせえぞ姉ちゃん!」と怒鳴る。
怒鳴られても懲りずに大声で「あれー?ドフ爺さんも来てるのー?」とこちらに話しかけてくるジチさん。
ここで終わる訳もなく、「と、言うことはー?キヨロスくんも居るのかなー?」と聞こえてくる。
バレた…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
僕が男湯に居る事がジチさんにバレた。
頑張って黙っているのに僕に向かって「おーい!聞こえてるー?照れてるのかなー?」とジチさんが言う。
「こっちにはフィルとお姉さんしか居ないんだよー。おかみさんはねえキヨロスくんが泊まりにくるから布団を取り替えたりしてるんだー」
それは本当に申し訳ないことをした。
聞いていていたたまれない気持ちになる。
そしていよいよ黙っていられなくなった僕は「もしもーし、照れないで返事してよー」と言う声に色々と諦めて「はい」と返事をした。
「あー、やっぱり居たー!」と楽しそうに言ったジチさんは「こっちは今フィルとお姉さんだけだから来るー?」と言う。
!!?
あの人は何なんだ?
とんでもないことを言っているぞ?
困惑する僕にガミガミ爺さんがものすごい目で「小僧…」と言って睨んできた。
僕はガミガミ爺さんに「行かないですよ。それよりなんとかしてくださいよ」と頼み込むとガミガミ爺さんからは「はぁ……」と深いため息をつかれた。
「おい姉ちゃん!小僧は行かねえよ!」
ガミガミ爺さんはため息をついても僕を助けてくれた。
だがジチさんは負けてないで「あー、また若い2人の邪魔をしてるな!野暮なお爺ちゃんだ!お姉さんはそう言うのは良くないと思うわよ!」と言う。
「良いも悪いもあるか!嫁入り前の娘が男の前で肌を晒すんじゃねえ!!あんたもだぞ姉ちゃんよ!」
ガミガミ爺さんはまだジチさんと戦ってくれている。
「もういいもん!頑張って毒竜を倒してくれたキヨロスくんにお姉さんがご褒美あげちゃうもんね!」
正直もう勘弁して欲しい。
僕は「ガミガミ爺さん、そろそろ出よう」と言うのだがガミガミ爺さんも頑固で「ダメだ、小僧は湯につかって体を癒せ、あの姉ちゃんが黙れば良いだけだ…!と言った後で女湯のジチさんに向かって「黙れってばよぉ!!」ともう一度怒鳴る。
いい加減ジチさんも諦めるかと思ったが「ふーんだ!いい、キヨロスくん」と言うと「今のフィルはねえ、髪をまとめ上げてて凄くうなじが色っぽいのよ!それでね!肌なんてもうスベスベで凄く綺麗なの!!」と言い出して実況中継を始めた。
流石の展開にガミガミ爺さんが声にならない声で唖然としている。
ジチさんはガミガミ爺さんが黙っている事をいいことに止まらない。
「スタイルだってすごく良いのよ!出るところは出てて、引き締まるところは引き締まっているの!」
壁の向こう側からは「ジチ、ちょっと」とフィルさんの困った声が聞こえてきた。
ガミガミ爺さんは真っ赤になってプルプルと震えている。爆発寸前という奴だ。
そして止まらないジチさんは「そして!このお風呂には女風呂だけに許された特殊機能!」と言うとハッとなったガミガミ爺さんが「…!!?おい姉ちゃん!まさか!?やめろ!!」と言うのだが壁の向こう側から「ガコッ、ガカッ、ゴッ」と閂が外れるような音がしてた。
僕は何事かと思っていると「家族風呂!!!」と言うジチさんの声とともに男風呂と女風呂の間にあった壁が動き始める。
ガタンガタンという音の後、壁が動いて1つに集まる。
壁の向こうには胸元と腰にタオルを巻いたジチさんが仁王立ちして「ふんっ」と鼻で息をしていて、湯船の中ではフィルさんが「嘘、ヤダ!何で?」と真っ赤になっていた。
「おいおい姉ちゃん!何してくれてんだよ?てか、なんで姉ちゃんがこの家族風呂を知っているんだよ?」
ガミガミ爺さんが慌てて問いただすとジチさんが「昨日、おかみさんと一緒にお風呂に入った時に聞いたんだよね、これなーに?ってって聞いたら教えてくれたよ」と言う。
この事に「本当かよ…と言うか若い姉ちゃんが自ら肌を晒すか普通?」と言ってガミガミ爺さんは度肝を抜かれている。
僕は慌てて顔を隠したが、ジチさんの身体も湯船から出ている所だけだがフィルさんの身体も見えてしまった。
ジチさんの「ふふーん、どうかなキヨロスくん?お姉さん達は綺麗かな?」と言う声につられて見てしまいそうになる。
その時に聞こえる「小僧、見るな!」と言うガミガミ爺さんの声が僕を現実に引き戻す。
ジチさんの「そういう事言うんだ、どうして?」という声にガミガミ爺さんは「どうしてって、そりゃあ若い娘が肌を晒すもんじゃねえだろうが」と怒る。
「お姉さんは、キヨロスくんは村の為に毒竜を退治してくれたのにみんな感謝が足りない気がするのよね。だから背中を流してあげようかなって思ってー」と言うとジチさんはこちら側に来てしまった。
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