第33話 再び行う成人の儀。

前回は雪道だった箱庭の中、今回は猛吹雪だった。


猛吹雪で前が見えない。


このチョイスは何なんだ?


とりあえず前回同様に前に進んでいき、最初の分かれ道。

前回きた時に気になっていたので前回と同じ土で出来た上り坂を上る事にする。


今回もしばらく行くと、後ろから足音が聞こえてきた。


…出た。

3匹の鬼だ。


僕の今回の狙いはこの鬼だった。



剣を抜いて鬼を見る。

見ても黒い影が見えるだけで口も何も見えない。

だがそこに居るのはわかる。


前回は逃げるだけだったが今回は違う。

剣を用意しているので僕は鬼に向かう事にした。


箱庭の中でも能力は使えるのであろうか?

試してみようと思い「兵士の剣」の能力を使ってみた。

不発だとみっともないが「【アーティファクト】!」と掛け声とともに振り下ろしは無事に放てた。



能力は使えた。そして当たった感触がした。

影のような姿なので実際に当たるかどうかは怪しかったが剣は当たる。

そして1匹の鬼が吹き飛んで苦しんでいる。


続けて剣を振る。

確実に2匹目の鬼の体を捉えていたが攻撃がすり抜けた。


…?


もう一度剣を振るが…何故か当たらない。

もしかして能力で攻撃をしないと通用しないのかもしれない。

剣を見ると小さな石がうすぼんやりと光っている。

能力は使える。


僕は再び「【アーティファクト】!」の掛け声で剣を振るうと僕の剣は鬼を捉えた。


やはりアーティファクトの一撃なら当たる。

2匹目の鬼も吹き飛んで苦しんでいる。


剣に火を纏わせてみたが上手く剣に火が行きわたらない。

それはここが箱庭だからか?


分からないことだらけだ。

そして剣は剣でおかしい。

能力を使った後なのに光が消えない。

これは連発が出来ると言う事か?


試しにもう一度剣を振るうと剣撃は無事に出た。

そして3匹目の鬼も吹き飛び苦しんでいる。


勝てた。

これで何かこの鬼達はアーティファクトになったりするんだろうか?

だが、何も起きない。

この考えは間違いだったのか?


そう思った時「オボエタ」と聞こえてきた。


声の先には先ほどの3匹の鬼が居てこちらを見ていた。

3匹の鬼は「キィィィィィッ」と鳴き声を上げると後ろの道から次々に鬼が出てきた。


1、2・・・、6・・・9。

全部で9匹の鬼がやってきた。

これで鬼は12匹。


鬼たちは「タタカオウ」と言うと全て重なり混ざり合って一つになった。

その鬼の姿かたちは影ではあったが僕だった。



鬼の僕は僕と違うのは鬼らしく額に角があった事。

後は持っている剣が僕の「兵士の剣」とは姿かたちが違った事。


それ以外は手足の長さや仕草も何も僕だった。


突然、鬼の僕が「【あーてぃふぁくと】」と言って兵士の剣で放つ一撃と同じ攻撃をしてきた。

僕はかわせるかと思ったが、鬼僕の剣は思いのほか速くて回避しきれずに僕の鎧に斜めの切り傷が付いた。


「よくも僕の鎧を!【アーティファクト】!」

僕も兵士の剣で攻撃をするが、僕の剣は鬼僕の身体には通用しなかった。


どういう事だ?

何か条件が変わってしまったのか?

わからない。


「ドンドンイクヨ」

そう言うと鬼僕は剣を構えると「【あーてぃふぁくと】」と言って斬りかかって来た。


今回は何とかかわすことが出来た。

その後も何回か攻撃をしてみたがどの攻撃も通用しなかった。

火の攻撃も何もかも通り抜けてしまった。


正直困った。

そんな時、鬼僕が「ソウジャナイ、ソウジャナイヨ。チャント真ッ向勝負ヲシヨウヨ」と口を開く。


真っ向勝負?

何だそれは?


悩んでいる僕を尻目に鬼僕は「イクヨ!」と言うと剣を構えて「【あーてぃふぁくと】」と唱えながら振り下ろしを放ってくる。

そう言えば、鬼僕はさっきから必殺の一撃以外を放ってこない。


真っ向勝負?


そう言えばまだ試していない攻撃がある事に僕は気が付いた。



「やってやる!来い!」

「イクヨ…」



「【アーティファクト】」

「【あーてぃふぁくと】」


ほぼ同時に放たれた攻撃。

僕と鬼僕の剣が真正面からぶつかり合う。


ようやく攻撃が当たった事に喜んでいると、鬼僕は「モットヤロウ!イクヨ!」と言って剣を構えるので僕も慌てて剣を構えなおす。


「【あーてぃふぁくと】」

「【アーティファクト】」


今回は僕の方が一瞬遅かった。

だが何とか反応することが出来た。


今回も鬼僕は「スゴイ!スゴイ!!モットダ!!」と言って剣を構える。

僕も合わせてすぐに構えを取る。


「【アーティファクト】」

「【あーてぃふぁくと】」


今回はほぼ同時に発動した。

剣と剣がぶつかり、僕の「兵士の剣」からは嫌な音がする。


もしかすると剣を痛めてしまうかもしれない。

僕は思わず剣に目配せをする。


その姿を見た鬼僕は「ヘェ、優シイネ。剣ノ心配ヲスルンダ」と話しかけてきた。

僕は「長い間一緒に戦ってくれた剣だからね」と言いながら、構えを取ると打ち込んでくる鬼僕の剣に反応をする。


「【あーてぃふぁくと】」

「【アーティファクト】」


また嫌な音がする。

僕が「くそっ」と現状に悪態をついていると鬼僕が「ソノ子ハ満足シテイル。君ト戦エタ事ニ満足シテイル」と言った。そしてそのまま斬りこんでくるので僕も慌てて迎撃をする。


「【あーてぃふぁくと】」

「【アーティファクト】」


「【あーてぃふぁくと】」

「【アーティファクト】」


「【あーてぃふぁくと】」

「【アーティファクト】」


剣が痛みそうと心配する僕を馬鹿にするように、更に鬼僕が連続で切り込んでくる。


僕も「クソッ」と悪態をつきながら回避ではなく迎撃を行っていると再び鬼僕が「ソシテ悔シガッテイル。君ノ役ニコレ以上立テナイ事ヲ悔シガッテイル」と言った。


「【あーてぃふぁくと】」

「【アーティファクト】」


「【あーてぃふぁくと】」

「【アーティファクト】」


二連撃を撃ち合って剣がミシっと嫌な音を立てる中、鬼僕が「君モ、ソノ子モ悪クナイ。悪イトスレバ戦ウ相手ダ」と言いながらまた斬りこんでくる。


「【あーてぃふぁくと】」

「【アーティファクト】」


僕が「だったら何だ!」と返すと鬼僕は「ソノ子はワカッテ居ル。ダカラ最後マデ振ルッテ欲シイト願ッテイル」と言いながら戦闘態勢は解除しない。


「【あーてぃふぁくと】」

「【アーティファクト】」


「【あーてぃふぁくと】」

「【アーティファクト】」


「【あーてぃふぁくと】」

「【アーティファクト】」


「【あーてぃふぁくと】」

「【アーティファクト】」


くそ、ここにきて四連撃。

鬼僕は剣を破壊するつもりなのかもしれない。

剣からは一撃受けるたびに嫌な音がする。


目を離す訳にはいかないが剣を見ると鬼僕が「僕タチニ後ヲ任セタイト言ッテイル」と言った。僕が「何を!?」と聞き返すと「モウ後少シ…」と言って再び斬りかかってくる。


「【あーてぃふぁくと】」

「【アーティファクト】」


「サヨナラヲ言ウトイイ」

「さよなら!?」


僕は再度「兵士の剣」を見た。

剣はかなり痛んでいて、もう折れる間近だと言う事が素人の僕にもわかった。


兵士から奪い取った後もずっと一緒に戦ってくれてありがとう。

王に一撃が届かない事で悪く言ってしまってごめん。

今までありがとう。

この訳の分からない戦いで君を失う事になってしまって申し訳ない。

さようなら!!


僕は最後まで本気で剣を振るう。

最後は僕が先にワザを放つ。


「【アーティファクト】」

「【あーてぃふぁくと】」


物凄い轟音の後、僕の「兵士の剣」と鬼僕の剣は両方砕けて折れた。

僕は粉々になった剣の破片を見ながら「ありがとう。「兵士の剣」」と声をかけた。

鬼僕が僕を見て「コレデ、ソノ子ハ最後マデ戦イ切ッタ。剣トシテハ最高ノ最後ダ」と言っている。


そして「ソノ子ニ後ヲ任サレタ。今カラ僕タチガ君ノ剣ダ」と言うと鬼僕の身体が光になる。


この光、トキタマを授かった時と一緒だ。

その事に気付いた僕は光に手を伸ばして「アーティファクト」と唱えた。



光の中で「コレカラヨロシク、僕タチハ喋ルタイプノあーてぃふぁくとデハナイ。箱庭ノ力ヲ借リテイルダケダカラ。ソノ子ノ分マデ頑張ルカラ。ソノ子ノ技ハ覚エタカラ使エルカラ」と聞こえてきた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



光が収まると僕の目の前には心配そうなリーンと神の使いが居た。

リーンは僕を見て「キョロお帰り」と声をかけてくる。

僕が「ただいま」と言うと神の使いは「良く戻りました。キヨロス。しかもまさか鬼と対峙して剣を得るとは思いませんでした」と言う。


剣…そうだ。剣だ。

この事で僕は剣の事を思い出して右手を見てみると、僕の手に金色をした立派な剣があった。


神の使いが「S級アーティファクト「革命の剣」ですね」と言うとリーンが「キョロ!またS級なの?」と言って驚きの目で僕を見る。


「この剣なら王に届くかな…。でもこの剣を手に入れるために僕は今までの剣を…」

僕は今まで使っていた「兵士の剣」を思い出して暗い気持ちになる。だが神の使いは「見ていましたよ。あのアーティファクトはまた神の元に帰ります。そこで「記す者」が今までの戦いを記し元の姿に戻します。その後は次の<成人の儀>で新しい使い手に授けられる日を待っています。アーティファクトは終わりません。大丈夫です」と言ってくれた。


僕は神の使いの言葉に救われた。

ちょっと涙目になってしまった所をリーンに見られて「よしよし」と頭をなでられた。


「キヨロス、その剣は威力だけではありません。剣が言っていたように「兵士の剣」の能力も覚えました。そして最大の能力は12本の光の剣を飛ばして攻撃できるところにあります」


それで鬼が12匹居たのか…


「良かったねキョロ、これで今度は勝てるね!!」

リーンが嬉しそうに喜んでくれた。


だがまだだ。

僕はリーンに「まだ駄目なんだ」と言う。


リーンは「え…キョロ?」と言って驚きの表情で僕を見る中、僕は「もう一度行きます。全てのアーティファクトを取らせてください」と神の使いにそう告げた。


「キヨロス、貴方はS級のアーティファクトを2個も授かったのです。それを振るえているだけでも奇跡に近いのですよ」

神の使いは僕の言葉に驚き、リーンは驚く神の使いを見て涙を浮かべて「ねえ、キョロやめて?無理しないで」と言う。


「大丈夫だから、ね。明後日の話になっちゃったけど、僕はまた綺麗なリーンに会いたいから大丈夫だから」

リーンに僕は笑ってみた。


「止めてもダメなんだね」

「大丈夫だから」


そう言ってから神の使いを見る。


僕は「僕の可能性、その全てのアーティファクトを授ける事は権限外の行動ですか?」と神の使いに詰め寄る。


神の使いは「いえ…そんな事は…」と返した時、僕は間髪を入れずに「ではお願いします。僕に全てのアーティファクトを授けてください」と言う。


しばらくの沈黙。


「…わかりました。それでは行きなさい」

この言葉で僕は光に吸い込まれて行った…。



今度は闇…どこまでも続く闇。

無音の世界。

吹雪はやんでいたが夜中になっていて、僕の雪を踏みしめる足音だけが聞こえる世界だった。


今回も分かれ道は上り坂を進む。


そして前回同様に下り坂になり、鬼達は現れずに目の前に崖が広がる。


ここだ、ここで万一僕が落水していたらどうなっていたのだろう?

どんなアーティファクトを授かれたのだろう。


僕はそう思いながら飛び込んだ。


中の水は冷たくて流れも速い。

何回か腹と背中に水底の岩が当たったがガミガミ爺さんの鎧が僕の身体を守ってくれた。


しばらくして息が続かなくなり、そして流れが弱くなった所で僕は浮上する。


浮上した所は庭園の池と言った感じの穏やかな場所だった。

池の中心に光を放つ祭壇が見えたので僕は泳ぎ進めて上陸をする。

上陸の際に、先ほどの激流で鎧が壊れていたのだろう。

中に仕込んでもらった身体強化のアーティファクトごとガミガミ爺さんの鎧が水中に沈んでいってしまった。


回収に向かう事も考えたのだが、今の場所の水の底はとても深そうで僕ではとても底には辿りつけそうもない。


これはまたガミガミ爺さんに作ってもらうしかないが…怒られそうというより、がっかりされそうで申し訳ない。


とりあえず今は新しいアーティファクトを授かる事にしよう。

僕は光に手をかざし「アーティファクト」と唱えた。



光が収まると目の前にはリーンと神の使いが居た。

リーンは「キョロお帰…」まで言った所で僕の惨状に気付いて「うわ、ビショビショだよ」と言うので僕は困り顔で笑って「ただいま」と言う。


「お帰りなさいキヨロス。まさかあの水に飛び込むとは思っていませんでした」

そう言った神の使いもそこまでやるのか?と言う顔をしている。


水の話を聞いて僕は落としてしまった鎧の事を思い出して「僕の鎧…」と呟くと神の使いが「あの鎧は後で神様に献上をします。そこで神様がお認めになれば新たなアーティファクトとして再生されます」と説明をしてくれる。


ああ、返ってはこないのか…。

正直、神の使いが取り返してきてくれないかと思ったがダメみたいだ。


そう言えば、今回は何を授かったのだろう。

僕は掌を見るが何もない。


馬鹿には見えない何かとかだと困る。


「もう、着ていますよ」

神の使いが僕の心を読んで、僕の身体を指さしてきた。


…僕の身体には銀色の鎧が着いていた。

形はガミガミ爺さんが作ってくれた鎧に酷似していて、新しい鎧を着けている事すら気づかなかった。

「その鎧はS級アーティファクト「万能の鎧」です」

リーンが鎧の名前を気にして「万能って…私の?」と聞く。


「そうです。リーンと同じ万能系のアーティファクトです」と答えた神の使いはそのまま「ただS級なので、「万能の柄」と違うのはイメージした物を具現化するのではなく、イメージした効力を鎧に付与する事になります」と言った。


「イメージした効力…」

「効果と受け取ってもらっても構いません。基本的に防御力は「紫水晶の盾」に近いので防御力よりも別の事に力を使った方が良いでしょう。前の鎧に着いていた「身体強化」の効果を付与してみてはどうでしょう?」


僕は擬似アーティファクトを使った時の感覚を思い出しながら【アーティファクト】と唱えると鎧が一瞬光った。


「成功ですね。最大3つ、この要領で後2つほど恒常的に付与できます」


この言葉に僕はムラサキさんの防御を思い浮かべて自動防御と、イメージはないが攻撃を防御時に自動反撃を付与してみた。自動反撃は試せていないが。自動防御はリーンの投石を鎧に触れる前に問題なく防いでくれた。



「もうこれで終わりかな?キョロは…今日はこのまま村に居るんでしょ?」

リーンが僕を見つめてくる。


「ううん、まだ道があるから行かなきゃ」

もう神の使いも僕が全部に向かうことはわかっているので「そうですね。あと一つ。最後のアーティファクトがあります」と言う。


ああ、あっちの道は分かれ道になっていないのか…

じゃあ、本当に僕は自分で大変な道を選んでいたんだな、なんだかそう思うとおかしくなってしまった。


「まだあるの?」

「うん。だからもう一度行ってこないと」

そう言って僕は神の使いの方を見る。


「これが最後です。それでは行きなさい」

そうして僕は光に吸い込まれて行った…。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



今度は夜明けだった。

朝日がとても綺麗で、先程同様に吹雪は止んでいたが、雪が石畳に深く積もっていてとても歩きにくかった。


分かれ道まできた。

今度は石畳の方に進む。

ここでふと思ったのが、もう一回坂道を登ったらどうなっていたのだろう?

終点まで行かされて何も授かれないで帰る羽目になっていたのかな?

人間相手なら気を使われて何か貰えたかもしれないが、神様ならありそうだと思った。


石畳はとても歩きにくい。

何度も足を取られる。

先ほど水に落ちたせいで身体は濡れていてとても寒い。

足がかじかんできて感覚がなくなってきた。


どこまで歩けば祭壇があるのだろう?

まあ、今のうちに出来る事を考えておこう。


5日ぶりに会ったリーンを見て僕はとても安らいだ気持ちになった。


………違う、リーンの事じゃない!

王との戦いの事を考えなきゃ…。


僕はまだまだ続く道を進む。


この先の予定は立った。

まず、リーンに説得と言うかお願いをされるだろうから風呂に入って服を乾かす。

父さんと母さんに会うと長くなるから全てをリーンに任せて、さっさと準備をして僕は旅立とう。

そして三の村でフィルさんを助ける。フィルさんの体力がある間に助けたいからカムカが何処までやれているかが肝だな。

最後は四の村で皆がそろうのをマリオンを助けながら待つ。


フィルさんと言えば毒竜の角は持てたかな?

無事だと良いな。


……フィルさんを思い出した時に最後に会った時のキスを思い出した。

…嬉しいけど、どうしたらいいんだろう。

リーンにはなんて説明しよう。


…そんな不届きな事を考えていたらようやく祭壇が見えた。


もう足の感覚はなくなっていた。

僕の靴はカチカチに凍ってしまっている。


何か、散歩道と言うより全部試練だったな…、僕はそんな事を思いながら光に手をかざし「アーティファクト」と唱えた。


光が収まると目の前にはリーンと神の使いが居た。


リーンは「キョロお帰り」と言ってくれた後で心配そうに「顔色が悪いよ」と聞くので僕はガチガチと震えながら「物凄く寒いんだよね」と説明をする。


リーンが僕の肌に触れて「うわー…氷みたい」と言っている横で神の使いが「お帰りなさいキヨロス」と声をかけてくる。

僕が「はい。戻りました」と言うと神の使いは「今回はそれでしたか」と言う。

僕は手を見るとそこには銀色の靴があった。


「綺麗な靴!」

靴を見てリーンがはしゃいでいる。


「これは?」

「それはS級アーティファクト「瞬きの靴」ですね。高速移動、瞬間移動が出来るようになります」


「瞬き」というフレーズが気になった僕が「瞬き…」と呟くとリーンが不思議そうに「キョロ?どうしたの?」と聞いてくる。

僕が「村を襲うフードの男も「瞬きのローブ」って言うA級アーティファクトを持っていた」とリーンに説明をすると神の使いが「そうですね。彼の持っているものの上位版がキヨロスの靴です」と言った。


「効果は…?」

「先ほど言った瞬間移動、高速移動です。ローブとの違いは武器の使用も可能な点、後はキヨロスが一緒に居る同行者も一緒に運ぶことが出来ます」


A級とS級でこんなに能力が違うのか…

僕は単純に性能に驚いた。

これなら歩きながら考えていた予定が思い通りに進められる。


僕は早速凍った靴を脱いで新しい靴に履き替える。

靴と言うから足に合うか心配だったが、履いてみると僕の為の靴と言った感じだ。


神の使いは僕が靴を履くと満足そうに頷いて「さあ、お別れです。リーン、ナックを呼んできてください」と言った。

リーンは「はい。ナックはあっちでしたね」と言うとリーンはナックの所に向かって行った。


「キヨロス。あなたの話を聞く限り、今この国には何か恐ろしい危機が迫っているものと思います。

私も他の神の使いに連絡を取り対策を講じます。

ただし、権限の範疇での事になります。

申し訳ありませんがあなた方に頼る事になるでしょう」

神の使いは申し訳なさそうにそう言った。


「はい。出来る限りはやってみます」

「頼みます。さあ、2人が戻ってきましたよ」


2人が息を切らせながら走って帰ってきた。

「キョロ!遅いから戻ろうとしたらリーンが迎えに来てさ!

聞いてくれよ。俺のアーティファクト凄いんだぜ!

木々をバッタバッタと切り倒してさ!!」

「もう、その話は後にして、神の使い様が帰られるんだから」


「ナック、キヨロス、リーン。今日あなた達に会えてよかった。新しく成人になるあなた達に神より与えられしアーティファクトが幸せを運びますように。それではさようなら」


神の使いはそう言うと祭壇の光を使って天に帰っていった。

二度目でもいう事は同じなんだな。

決まりでもあるのかもしれない。


神の使いを見送るとナックが「さ!遅くなっちゃったから早く帰ろうぜ」と言う。


久しぶりに見るナックも元気そうだ。と言うか…勝手に久しぶりになっているだけで、ナックからすれば昨日もその前も僕に会っているんだった。


「そうだね。早く帰ってお父さんたちにアーティファクトを見せなきゃ」

リーンが僕の手を引く、だが僕は「ごめん。僕もう行かなきゃ」と言った。


「え?もう行くの?」

「うん、時間が少しでも惜しいんだ」


「おい、どこか行くのかよ?何でだよ?」

何も知らないナックが困惑する。

あー…一から説明する時間も惜しい。

僕が困った事を察してリーンが「わかった」と言って僕とナックを見た。


「ナック、後で全部話すから先に帰って村長やお父さんたちに遅くなるって伝えて。いい?」

リーンが思い切り言うのでナックは「わかった」としか言えなかった。


「キョロはせめてずぶ濡れをどうにかして!家には帰りたくないの?」

「うん、今帰ると長くなるから…」


「じゃあこっちに来て!ナック!後はお願いね!!」

そう言うとリーンが僕の身体を引っ張って行った。


ナックが何もわからずにポツンと取り残された。

ごめんナック。帰ってきたら説明する。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



森を抜けて遠回りしながら僕が連れていかれたのは村の南、お風呂場だった。

リーンが「万能の柄」で火を起こす。


「お風呂に入って身体温めて。その間に私が服を乾かすから」

シーンはそう言って「万能の柄」でもう一つ火を起こそうとしている。

でも中々火が付かないのを見かねて僕も「火の指輪」で火起こしを手伝う。


「そっか、キョロは指輪も使いこなしているんだよね。凄いね」

少しがっかりとするような、言葉通り凄いなと思ってくれているリーンの言い方。

僕は「そんな事ないよ。本当なら使いこなせない方が良かったのかも知れない」と言ってリーンに微笑んだ。


火が付くとリーンが「ねえ、お湯が沸くまで旅の話を聞かせて」と言う。

僕は「いいけど、神の使いの所でも話したし、それ以外もずっと戦ってばかりだったから面白い話なんてないかもよ?」と聞くがリーンは僕の顔を覗き込んで「それでもいいの。キョロの話を聞きたいの」と言う。


僕は「うん。リーンがそれでいいなら…」と言って話し始めようとした時、リーンが「あ、その前に…」と言って僕に唇を重ねてきた。


唇を離したリーンが顔を赤くして「一緒に跳ぶ約束を守ってくれてありがとう」と言った後で「ん?」と言った。



なんだろう?

だがリーンは普通にしているので、僕は三日後の話だが村を出てからの話をした。


二の村の跡地付近で昼食を取ってから殺された話。

殺し返した話はちょっと柔らかく伝えた。

その後もう一度跳んでその人たちと和解をしたら、ジチさんが着いてくることになった話。


ここまで「うん、うん」と聞いていたリーンの相槌が、ジチさんの所でちょっと怖くなった気がしたけど、気のせいかな?


三の村について毒竜を倒しに行った話。

毒竜の毒から村を守るために山小屋でS級アーティファクトのムラサキさんを振るっていたフィルさんの事、フィルさんは僕が着いた時には死の一歩前で翌日には毒竜の最後の毒霧を浄化して死んでしまった事。

それを僕が跳んで解決した話。


あれ?

毒竜の時とフィルさんの時で相槌の声色が違う気がする。

そんな怖い風な声で「キョロ…、お風呂沸いたよ」と言われる。


僕は「ありがとう」といいながら気のせいを疑う。


僕が入浴中、リーンは僕の脱いだ服を乾かしてくれている。

下着は恥ずかしいから断ったのに「絶対に私が乾かす」と言っていた。


ありがたいけど恥ずかしい。


僕は湯船の中からリーンに話を続ける。

フィルさんのお爺さんのガミガミ爺さんと仲良くなった話。

ガミガミ爺さんから三の村に住んで欲しいって言われた話や

三の村の猟師のおじさんに気に入られた話、

四の村を目指すときに二の村に住んでいた事のあるカムカが仲間になった話もした。


四の村には恐ろしい亡霊騎士が居て、太陽が出ていない時に村に近づくと襲われる話。

でもその亡霊騎士は10歳の時にガミガミ爺さんとペック爺さんが作った鎧を着させられたマリーと言う13歳の子で、マリーに似せて作られたマリオンと言う人形だった話。

悪い村長からマリーを取り戻した話をした。


そして城に行ったら王様が人間をやめていて悪魔になっていて勝ち目がなくて今こうして戻ってきた話をした所で僕は一つの事を思い出した。


「リーン!リーンの身体は大丈夫だったの!?」

僕の声に驚いたリーンが「え?何?どうしたの?」と聞いてくる。


僕は8日目、城に着いた時にフードの男が見せてきた「万能の柄」の話をした。


「ああ、あれはアーティファクトが足りなくなったってあの朝急にフードの男が言い出して、村中のアーティファクトを渡すように言ってきたの。それで、私はそれが嫌だったからナックと戦ったの。…あの長い針の武器で兵士を刺したら沢山血が出てびっくりして手を離したらフードの男に取られちゃったの」


リーンが照れ臭そうに笑って「私ってダメね」と言った。


「え?取られたの?命は?」

「約束だからって皆アーティファクトを取り上げられただけで無事だったよ」


僕は脱力して湯船の縁に身体を預けてしまう。


「良かった…。てっきりリーンに何かあったんじゃないかと思って、それこそ跳んで戻ろうとしたのを皆に止めて貰ったんだ」

僕は湯船の縁に身体を預けたまま、何回も「良かった」と言ってしまう。


リーンがニコニコと僕を見て「私が無事で嬉しい?」「心配してくれた?」と聞いてきたので「したよ」と答えたら嬉しそうに「ありがとう」と言ってきた。


さて、身体も温まったし服も乾いたみたいだ。

僕は風呂から上がって着替える。


リーンが「着替えるの手伝う?」と聞いてきたが何の問題もないので断る。

もう子供じゃないし、お爺ちゃんでもない。


着替え終わった僕は「さ、僕行くよ」と言うとリーンは少し寂しそうに「うん、行っちゃうんだね。この前みたいに三日目まで一緒に居られればいいのにな」と言った。


「早い方が王も力をつけていないから…少しでも早く行って倒したいんだ」

「そっか、私も着いていきたいな」


「危ないよ!」

「わかって居る。キョロが一緒に旅をしている人たちは強いから一緒に居られるんだもんね。弱い私はここで待っているしかないね」


「ごめんね」

「いいの。帰ってくるの待っているから」


リーンが目を閉じて僕を見る。

僕はリーンにキスをした。

何回してもまだ少し照れる。


目を開けた時に見える顔を見た時なんかはまだドキドキする。

僕が目を開けるとリーンはもう目を開けていた。

そして「キョロ…?」と言った。


「何?」

「やっぱり誰かとキスした?」



!!?


「さっきも思ったけどこの前と何か違う気がするんだよね」


女の勘というものは怖い。

僕が答えに困っていると…リーンは「まあ、今はいいや。全部終わったらちゃんと教えてね」と言って僕をジッと見た。


僕は素直に「…はい」と返事をする。

トキタマで戻れる限界でコレをしてしまっている以上後はどうすることもできない。

いや、そもそもそんな卑怯な真似は出来ない。


「今はとにかく行ってくるよ」

「うん。気を付けてね。ちゃんと私も一緒に跳ばしてね」


「わかってるよ。リーンもこの先の事をお願いするよ」

「うん、お父さんたちや村長にナックにはちゃんと説明しておく」


「後は、今できる事をしておくけど、兵士の襲撃には備えておいてね」

「うん。わかった。でも出来る事って?」


「見ていて」

そう言って僕は「革命の剣」を構える。

頼むぞ、12匹の鬼たち。


僕は箱庭で戦った鬼たちを思い浮かべて「【アーティファクト】!」と唱えた。

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