第54話 地下20階。
翌朝「おはよー」と起きたルルはルルではなかった。
見た目はルノレに近いのだが、色が薄い灰色基調の存在で、何か間が伸びた感じで語尾が全部伸びたような話し方をしている。
俺が「お前?ルルか?ルノレか?」と聞くと「ううん、私はねー、ノレノレだよー」と自己紹介をしてくれた。
そうか、ルルを二人に割ったから、ルノレとノレルが産まれて、元に戻したらルルが出来たけど、二人の名前にあった「ノレ」の部分でノレノレにもなるのか…って意味わからん。
この実験は失敗だったんじゃないのか?
思わずノレノレにも「なあ失敗だったんじゃないか?」と聞いてしまった。
ノレノレは怒ることなく「そうかなー、ツネツギがそう思うなら、そうかもねー」と言って笑っている。
「ちなみに、特技はなんだ?」
「ノレノレには無いよー」
「え?得意なアーティファクトは?」
「んー、これ全部使えなーい」
そう言ってノレノレは自分の身体に着いているアーティファクトを見て笑っている。
俺が「本当に失敗だったんじゃないのか?」と思って居るとノレノレの左腕が勝手に動いたようで三角の頂点が変わってルルに戻った。
俺は見ていて気が付いた。
そうか三角が△ならルルとノレルとルノレで▽だとノレノレになるのか…。
口にはしないでおこうと思った。
ノレノレから戻ったルルが「私は一体どうなっていたと言うのだ…」と物凄い表情で渋めの発言をするがノレノレを見た後だと何か滑稽に見えてしまう。
笑ってはいけないと思ったが笑いそうになった俺はルルに背中を向けたのだが「今笑ったか?」と聞こえてくる。
背後のルルが怖い。背中に冷たいものが走った俺はニコニコ笑顔で「いえ、滅相もございません」と言っていると、マリオンがルルに近づいて「早く私を人間にして」と言った。
「わかって居る。慌てるな。まずは腹ごしらえだ」
俺達はフィルさんのチカラで毒がない事を確認した後、美味しい食事を食べた。
俺は今日も美味しくて泣いた。
ルルに泣いて食べている経緯を聞かれたので説明をしたら「今までそんな事をしておったのか?」と哀れんだ目で俺を見た。
「そう言うルルこそ何食べていたんだよ?」
「私は鹿肉がどうしても食べたくて、そこから石を鹿肉にする研究が始まって、奈落の石や煉瓦を全て食料に変えておった。それに奈落はな、壁であろうが床であろうが壊してもアーティファクトの力ですぐに復元する。それを応用したのがあの部屋だ。だから奈落は私からすれば食べ放題のご飯の中にいるようなものだ」
話を聞いているとルルは発想から行動力まで全部凄いと思った。
ルルは出がけに「ちょっと待て」と奈落の入り口に置かれている「迷宮の入り口」に「【アーティファクト】」と唱えた。
すると奈落がゴゴゴゴゴと音を立てた。
周りの連中が奇異の目で見る中、俺が「何をしたんだ?」と聞くとルルは自慢げに「ちょっと色々な」と言って「便利にしておいた。詳しくは降りながらだ」と言うので俺達は昨日の隠し通路を目指した。
奈落の隠し通路を目指す。
昨日とは違って隠し通路に行くと勝手に壁が開く。
「私かツネツギがいれば扉を開けられる風に細工したんだ。ツネツギは勇者らしいからな。一人で来ることもあろう」
そう言ってルルが笑う。
そして隠し階段にも驚いた。狭い幅の螺旋階段から広い幅の階段に変わり、螺旋も5段くらいで螺旋する螺旋階段ではなく20段くらいで螺旋する螺旋階段になっていた。
「テツイとルノレが目を回していたからな。後、これは私専用だが…」と言うと10人くらいが乗れる端の床が動いた。
エレベーターか?
多分エレベーターと言う言葉は無いので、動く床なのだろう。
ルルと俺たちは動く床に乗って一気に15階に着いてしまった。
俺の横でテツイが「は…8年の苦労が…」と言って愕然としていてルルが「人生なんてそんなものだ」と言ってテツイに笑う。
一気に進んで生きたこともあり、奈落の空気が一変するのを肌で感じた俺が「よし、これからが本番だな」と言って俺とカムカが構えを取る。
その俺達を見てルルが荷物をまとめながら「何してるんだ?お前たち?」と俺達に言う。
「いや、地下16階のドラゴン退治…」
「するのか?大変だぞ?別に構わんが。私達は先に20階に降りるぞ」
そう言うとまた抜け道に行くルル。
動く床はまだ下に降りる事が出来たようだ…と言うかよく見ると抜け道も下り階段がある。
俺はルルの横に立って「真っ当に進む気は無いと言うことか」と言うとルルは呆れるように「私は奈落の主だぞ?なぜ主がいちいち踏破して進む必要がある?」と突っ込んできた。
この会話で、俺は遊園地のお化け屋敷とかをイメージしていた。
そりゃあ係員は裏口使うよな。そう思うと笑えてしまった。
俺達は20階に向かう。
降りた先はルルの研究室だった。
ルルが「ここで作業を行う」と言いながら部屋に入ると「なんだこれは!!?」と大声を上げた。
俺が後を追って「どうした!?」と聞くとルルが「……部屋が…部屋が片付いている…」と言って卒倒している。
「いいじゃないか」
「良くない!私は散らかっている方がどこに何があるかわかるんだ!!」
俺達の会話にカムカが「いや、問題はそこじゃないだろ?」と言う。まあ、わかっていた俺は「そうだな」と返事をする。
ルルは「そんな事はとうの昔にわかっている!それよりも片付けられた事が問題なんだ!」と言って未だに怒っていて、ルルの怒りようにテツイが「15階は片付いていたじゃないですか?」と突っ込む。
「あれはモノがそもそも少ないし、あそこは実験室だから散らかす必要がない」
「では…何が問題なのですか?」
テツイはまだわかっていない。
「テツイ、わからないのか?この部屋が片付いていた。家主しか知らない、まだ俺たち以外の誰も踏破していない20階の…それも隠し部屋だぞ?」
俺の言葉にテツイが「!!?……あ…」と言って愕然とする。
「わかったか?」
「だが誰が…」
テツイはまだわかっていない。
カムカが憎々しい顔で「恐らくあの女だ…」と言った時、フィルさんが「このテーブル!」と言ってテーブルを指差す。
テーブルには1枚のメモがあった。
[人工アーティファクトの資料ありがとね〜。後は無機物の有機物化も興味深かったわ。お礼に部屋は片しておきます。ちゃんと片さないと婚期がまたまた遠のくわよ」
…文面も軽薄だが文字も軽薄だな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
軽薄なメモを手にとって読んでいたルルが「……あの女ーっ!!」と言って切れた。
「何が婚期だ!大きなお世話だ!!しかもどうやってこの部屋にやってきた?20階にこの部屋への出入り口は作らなかったんだぞ!」
ひとしきりルルの怒りが収まった頃、マリオンがルルに「片付いていたら作業は出来ない?」と聞いた。
「いや、あれはあくまで研究結果をまとめたものだから無くても作業はできるが…」
「それならお願い。時間がないの」
そうだ、今日は2日目。フィルさんとマリオンは4日目に帰ることになっている。
ルルは「そうだったな、昨日の夜寝る前に言っていたな。お前たちは4日目に帰るんだな。わかった。すぐに始めよう」と言うと隣の部屋に行く。俺達も後をついていくと隣の部屋は荒らされた感じもなく散らかっていてルルは満足気だ。
はじめにルルはフィルさんに「フィルは付き合ってくれ」と言い、マリオンに「マリオンは鎧と服を脱げ」と指示を出してから俺達を見て「男どもは見たいのか?そうじゃないなら出て行け」と言った。
マリオンが服を脱ぐなら俺たちは居るべきではない。
だが手持ち無沙汰だ…
その気持ちを察したのかルルが俺たちに「朝、いじった時にこの部屋から20階への隠し通路も作った。暇なら魔物退治とアーティファクト探しをしておけ」と声をかけてくる。
それは助かる。
カムカと顔を合わせて頷く。
部屋を出ようとする俺達の目の前でルルが「フィル、お前はこれを手伝え」と言って箱を持ってくる。フィルさんが「これは?」と聞きながら箱を受け取ると「人工アーティファクトの元だ」と言われた。
フィルさんが「え?なんで?」と聞くとルルは「マリオンの擬似アーティファクトも悪くないが」と言って脱ぎ捨てられた鎧を指差して「「大地の核」が健在ならまだしも人間になった後で、「大地の核」の力が弱った場所でこんなもんを使ったらあっという間に卒倒するぞ?」と言い、フィルさんの持つ箱を指差して「埋め込まれている擬似アーティファクトを全部人工アーティファクトに変える」と言った。
ルルは肌着になったマリオンに「マリオン、作業の前に知る限りの内容を教えるか、あの人に連絡を取るか選んでくれ」と言うと即答で「私知らない」と返ってきて「「大地の核」から遠いけど、ここからお爺ちゃんの所に繋がるかな?」と言って通信球を見せている。
この会話にルルは「ああ、大丈夫だろう。ここの動力に優先して「大地の核」の力を回すようにしているからな」と言ってニヤリと笑った。
ん?
今なんかサラッと変な事を言わなかったか?
「なあ、ルル?もしかしてだけど、大破壊で傷ついた大地を癒す分までこの研究室に力を回していたりしないか?」
「ああ、よく気付いたな。その通りだぞ」
…………ん?
「もしかしてだけど、お前が力を取らなければ擬似アーティファクトもここまで酷くなったりしていないんじゃないか?」
「そうだな。それがどうした?この国はアーティファクト不要論に舵を切ったのだ。擬似アーティファクトなんか誰も見向きをしないだろう?」
なんと言う事だ、かつて蟷螂に左腕を斬られて死にかけた時。
コイツが「大地の核」の力を奪っていなければもっとマシな治療を受けられたと言うのか…
どうしてもルルに文句が言いたかった俺は「俺はお前のせいで大変な目に遭ったんだ!」と言いながら治った腕を見せると屈託のない笑顔でルルが「まあ、今生きているんだし、いい経験が出来たではないか!良かったな!!」と言ってきて俺はがくりと肩を落とした。
その後、マリオンが通信球で製作者と言うべきか保護者と言うべきか、生みの親に連絡を始めた。
「あ、お爺ちゃん?今平気?お爺ちゃんの昔の知り合いが話したいって」
マリオンは姑息にも人間になる話は言わないでいる。
「僕の知り合い?そんな人が今もイーストに居たかな?」
居たんだよ。
マリオンはさっさと通信球をルルに渡して「はい。代わって」と言う。ルルも「おお、久しいなペック殿。私だ、イーストのルルだ」と名乗る。
相手の生みの親は「ルル?」と聞き返しながら記憶を探り「あの若いのにアーティファクトに造詣が深かった娘さんかい?いやー、懐かしい。久しく噂を聞かなくなったのでどうして居たかとは思っていたけど元気そうだね。声がまた若いね」とか言っている。
声だけじゃねえんだわな。
下手したら初めて会った時より若いんだぜ?
「それでルルさんが僕に何の用で?まさか昔話がしたいわけでもないでしょう?ルルさんは昔から意味のない話はできない人だったからね」
研究者同士似るのだろう。
ルルは「話が早くて助かる」と言うと「私はペック殿と別れた後、独学で人工アーティファクトと言うものを作ったんだ。擬似アーティファクト程の出力は難しいが「大地の核」を必要としない事で使用後の倦怠感も無いし、「大地の核」から離れても使用が可能な事が利点だ」と説明を始めた。
まだ人間化の話は言わないな…
「それは凄いね。僕は擬似アーティファクトを突き詰める事ばかりで他の可能性を見失っていたよ。いやはや、やはりルルさんには敵わないな」
「ついてはな、あなたのマリオンに使われている擬似アーティファクトを人工アーティファクトに交換したいと思ったのだ。これでは「大地の核」に異変があった時に立ち上がれもしなくなるだろう?」
善意に聞こえる話に生みの親は「ああ、それはお任せしますよ。孫に…マリオンに不利益が無ければ僕は構いません」と返事をしている。
騙されるな、人間化って言う大イベントが待ち構えているんだぞと俺は言いたかった。
その間もルルは淡々と会話を進めて「では使われている擬似アーティファクトの内容を教えてくれ」と言っている。ルルは生みの親が説明するものを聞きながら紙にリストを書いている。
「じゃあ、話は以上かな?」
「そうだな、マリオン最後に何か言っておくか?」
ルルはマリオンに通信球を向けるとマリオンは「お爺ちゃん、私人間になって帰るね」と言い、即座にルルが「そう言う事だ、大船に乗ったつもりで後は任せてくれ。さらばだ」と言ってマリオンに通信球を返す。
「マリオンうるさいだろうから通信を止めたら荷物の一番下に入れておけ」
「わかった」
マリオンはルルの指示通りに通信球を荷物の一番下に入れようとする。
通信球からは「え?今の何?何するの?やめてよ。僕のマリオンに変なことしないで」と聞こえた後「聞いてる?聞いてますか?マリオン!返事を!返事をしておくれ!!」と聞こえてきて居たがマリオンは無視して荷物の一番下に入れてしまった。
そしてフィルさんとカムカにも「うるさいからしまう?」と聞いていた。
まあ、マリオンが応答しなければカムカとフィルさんに繋げるしか無いよな。
案の定、2人の通信球からもペックさんの声がずっと聞こえていた。
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