第17話 トキタマの本性。
僕は毒竜の元に歩きながら「厄介なのは尻尾だ、あの尻尾の一撃で、僕はこの2回をやられている」と戦いの内容を考えている。トキタマには跳ばないと言ったが実は独りで跳べるのなら試したい戦法があった。
とりあえず今回でケリを付ける気持ちで僕は毒竜に向かい再び剣を抜いて毒竜に先制攻撃を仕掛ける。
「【アーティファクト】!」と言葉と共に繰り出した攻撃は毒竜の尻尾に向ける。
もう少し先端の方を狙えば切り落とせたかも知れないが、今の場所だと剣は骨に弾かれて尻尾を切り落とす迄にはならなかったが今までの中でダメージは一番大きいと思った。
毒竜の目の色が変わった。
あまりの痛みで我を忘れているようだ。
「グギャイオオォォォン!」と表現が難しい咆哮を上げて、180度身体を回転させてこちらに突っ込んできた。
突進!?
突進はギリギリかわせはしたがこの速度はマズイ。
少しでも油断をするとかわせない速度だ。
何で今更新しい攻撃を…戦闘前にトキタマと話をしたからか?
それ以外だとしたら、過去二回は先制攻撃で前足と後ろ足にダメージを負わせて居た事、後は今みたいに激高していない事が理由か?
何であれあの突進は危険だ。
よりによって後ろは例の壁だ…
毒竜は壁際に追い込んだと思っているようで毒霧の準備をしている。
今は「火の指輪」での相殺を試す。
…
……
………今!
「【アーティファクト】!」の声と共に出た火の玉が毒竜の目の前で消えた。
何とか相殺出来たようだ。
だが間髪入れずに毒竜が突っ込んでくる。
万一左側に飛んで尻尾が来たら困るので僕は右側に飛ぶ。
勢い余った毒竜が山肌にぶつかると、例の穴が2つ現れた。
1つは毒竜と僕の居る場所。
もう1つは通常時に毒竜の頭があるくらいの高さの場所だ。
この穴は何なのだろう?
とりあえず使い道があるかも知れないので覚えておくことにする。
その後は、かわす、相殺、斬撃、アーティファクトでの攻撃を適宜行なっていく。
もう1時間くらいすぎたかもしれない。
僕の剣は10回に6回くらいは毒竜を斬れるようになっていた。
やれる。
僕は確信を持ち始めていた。
だが、毒竜にもまだ奥の手があった。
それは翼による飛翔。
そうだ、アイツはノースからこのサウスに飛んできたのだ。
飛んだ毒竜は上空から滑空してきて巨体を押し付ける攻撃か毒霧を吐き出して翼でそれを拡散する攻撃をしてくる。
滑空はかわすことはできるが動きに合わせて反撃は難しく、毒霧は散ってしまい火球で相殺するのも難しい。
空を飛ばれた事で一気に手詰まりになってしまった。
この毒の中で長時間タイミングを伺うのは悪手だ。
ここは一度跳んで毒竜が飛ぶ前に仕留めるか?
いや…それは難しい。
解決策もないままに跳ぶのはダメだ。
こうなれば今回は捨て回だ。
今できることをしよう。
とりあえず現状何かに使えそうなのはあの穴だ。
僕はひとまず穴に飛び込む。
この先に何もなかったら、疲労も溜まっているのでその時は跳ぶしかない。
僕は火球を作って松明がわりにする。
穴は奥に広がっていて洞窟といった感じだ。
入って少し行くと道は二股に分かれている。
1つは上に向かっていてもう1つは下に向かっている。
僕は直感で上の道を目指す。
上に登ると光が見えてきた。
やはり山肌に空いたもう1つの穴に行き着いた。
穴から外を見る。
まだ毒竜は空を飛んでいて手出しはできそうにない。
腹立たしいのが毒竜は僕の入った穴に向かって毒霧を放っている。
だが、ちょうどいい機会なので毒竜を見ることにする。
毒竜が毒霧を吐いてから次の毒霧を吐く予備動作まで約20秒。
予備動作から毒霧を吐き出すまでが約10秒。
地上と空中の違いが無ければ約30秒の時間がかかる事がわかった。
これも収穫だが、まだ奴の飛翔を妨げるモノを見つけられていない。
僕はきた道を戻り、洞窟の更に奥を目指す。
洞窟はかなり入り組んでいて、大概正解はひとつで後は全て行き止まりになっていた。
中には同じ道に繋がることもあった。
僕の直感が正しければ、あの入口は出口で、今目指している方が入口なのだろう。
しばらく進むと一本道になった。
もうすぐ出口…いや、入口が出てくるだろう。
その先にはなにがあるのか?
出来ることなら毒消し草みたいな便利道具が落ちていて剣に塗ってから毒竜に斬りつけると大ダメージみたいなのが良いのだが、そんなに都合よく行かないだろう。
先に進むと行き止まりになってしまった。
道を誤ったのか、はたまた上と同じで塞がっているのか…
僕は出口だと信じて剣の柄で壁を殴ると音の違う箇所があった。
僕は「【アーティファクト】!」の掛け声で音の違う壁を剣で斬りつけてみた。
ドンという音を立てて壁は壊れた。
眩しい光が射し込んで僕は一瞬前が見えなくなった。
目が治る頃…「なんだなんだ!?」と声が聞こえてきた。
目が治った僕の目の前には「小僧、どうした一体!?」と言っているガミガミ爺さんが居た。
僕が「ここは何なんですか?」とガミガミ爺さんに聞く。
「ここは昔、金だの宝石が何回か採れてな。それで採掘に使っていた洞窟よ。まあ、結局は言うほど採れなくて廃れてしまったんだけどな。俺たちが使っている山小屋は昔の採掘夫達の寝床よな。それでどうしてここに居るんだ?毒竜は?」
成る程、この洞窟も山小屋もこの山で採掘していた時の名残か…
僕はガミガミ爺さんに今までの経緯を話した。
「ふむ…、飛ぶまで追い詰めたけど空への攻撃が出来なくて困ったので、戦闘で空いた道を試してみたと…、何か良い手があれば良いんだけどな…」
「それはもしかしたら何とかなりそうです。それよりもお願いが2つあります」
僕がお願いと言うとガミガミ爺さんが「お?なんだ?」と言う。
「ひとつ目は剣のメンテナンスをしてください。今は10回に6回くらいは刃が通りますが、それまで弾かれていましたから多分一度見てもらった方がいいと思いました」
ガミガミ爺さんは「そう言うことなら任せておけ」と言うと僕から剣を受け取ってマジマジと見ている。
そして渋い表情で「小僧、おめぇ…この短時間で100回近く毒竜に斬り込んだな。もう刃こぼれが始まってやがる。おそらく今は無意識でやれて居るだろうが切りつける瞬間に手首に力を入れて降り落とせ。剣筋がブレると刃が通らなくなる」と言った。
まさか剣の指南をして貰えるとは思わなかった僕は「ありがとうございます。わかりました!」と感謝をする。
「で、もう1つのお願いってのは何だ?言ってみろ?」
「ここが元々採掘夫の寝床ならツルハシ、杭にトンカチとやや長めのロープって有りませんか?」
「多分あるにはあるが…おめぇ…そんなもんどうすんだよ?」
「毒竜退治の秘策です」
あると聞いた僕はこれで勝てる算段がついた気がした。
ガミガミ爺さんが右手に「混沌の槌」、左手に「兵士の剣」を持って「とりあえず今は剣からだな…【アーティファクト】!」と言ってアーティファクトを使った。
ガミガミ爺さんの身体が発光して高速で動き始める。目に見えない速さで剣を叩いている。
速すぎて見えない手の動きと細かく聞こえる剣を叩く音が剣を直している事を伝えてくる。
いくら高速とは言っても15分程かかって「兵士の剣」は直った。
「これで大丈夫だ。次は杭にロープにツルハシとトンカチだったな。着いてきな」と言うとガミガミ爺さんは僕を小屋の横にある物置に連れてきた。
「ツルハシ…トンカチ…と…」言いながらガミガミ爺さんは僕が頼んだ品を出してくる。
ガミガミ爺さんが「揃ったぞ、これでいいか?」と言うと僕の目の前に、ツルハシ、トンカチ、杭、ロープが置かれた。
「ありがとうございます。それではこれを覚えておいてくださいね?」
「んあ?」
ガミガミ爺さんは素っ頓狂な声を上げた。
理由は説明せずに「トキタマ!」と言うとトキタマの「はーい!」と言う返事が聞こえてきて僕は61回目の時間に飛ぶ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
61回目の時間。
僕の目の前にガミガミ爺さんがいる。
「ん?ここは…朝?」
ガミガミ爺さんは何が起きたのかわからないという顔をしている。
僕が「トキタマの力で跳んだんですよ。これから僕は毒竜退治に向かう所です」と言うとガミガミ爺さんは状況の理解をした。
「では、トンカチとツルハシとロープに杭をお願いします」と言うと「それで覚えておけなんて言ったのか。待っていろ」と言ってガミガミ爺さんが道具を用意してくれている間に、僕は小屋の裏手に回り洞窟の入り口を探す。
ガミガミ爺さんが呆れ顔で来て「こっちに来るならそう言えよ」と言うその手にはトンカチとツルハシとロープに杭があった。僕はガミガミ爺さんから道具を受け取ると「行ってきます」と言ってツルハシで埋もれている壁を砕き現れた穴に入っていく。
「小僧!よろしく頼むぜ!!」と言ったガミガミ爺さんの声が洞窟にこだましてちょっとうるさい。それだけフィルさんが大事なのだろう。
僕は記憶を頼りに元来た道を戻る。
途中二箇所ほど間違えたが最後の登りを抜けて今は壁の前にいる。
さて、ここからが大事だ。
僕は受け取ったロープを腰に巻き、反対側を杭に巻きつけてロープと身体の間に差し込む。
ツルハシを持って、あまり大きな音を立てないように壁を壊す。
壁はあっという間に壊れて眩しい光が差し込む。
僕は松明がわりの火球を剣に纏わせて、現状1番攻撃力のある状態にする。
落ち着け…
この一撃が肝心だ。
まずはこの一撃が入らないと話にならない。
僕は音を立てずに山肌から下を見る。
音に気づかなかったのか、興味がないのか、毒竜は落ち着いた感じで休んでいる。
これからの自分の動きを三回イメージしてから僕は飛び出した!!
「【アーティファクト】!」
山肌から飛んだ勢いと「兵士の剣」の能力を合わせることで1番攻撃力のある技になると思う。
問題は飛びながら能力を使った事がなかった事と毒竜にかわされてしまう事だ。
「手首に力を入れて…」
ガミガミ爺さんの言葉を思い出して剣を振り下ろすと僕の剣は見事に毒竜の背中を切り裂いてそのまま刺さった。
僕はすぐさま右手で剣を抑えて体勢を崩さないようにする。
毒竜は突然の激痛に混乱をして咆哮を上げながら走り出した。
ここで振り落とされたら元も子もない。
僕は左手で杭を持ち、切り口から毒竜の体内に杭を打ち込む。
振り落とされないように気をつけながら剣で器用に傷口を広げて杭を打ち込みやすくする。
手を離しても杭が抜けない事を確認したら次はトンカチだ。
左手でトンカチを持って一心不乱に杭を叩き続ける。
今までに感じたことのない激痛なのだろう。
毒竜は今までのどの咆哮よりも苦しそうに吠える。
毒竜の中に杭が打ち込まれ、杭自体が見えなくなった事を確認した僕はようやく剣を抜いて立ち上がる。
足場はかなり不安定だが、僕の腰のロープはしっかりと毒竜の背中に打ち込まれた杭に繋がっていて落ちる心配はない。
僕が狙うのは…翼だ!
杭を打ち込む為に時間が経っていたのですぐさま「兵士の剣」の能力を使う。
「【アーティファクト】!」と唱えて一瞬で毒竜の翼に切り込む。
出来ることなら根元から切り落としたいので根元を狙ったのだが、骨まで切ることは出来ずに剣が翼の途中で止まる。
これは作戦を変えるしかない。
僕は手当たり次第翼膜を狙うことにした。
翼膜は今まで斬ってきたどの部位よりも柔らかく、狙い通りに斬る事ができた。
毒竜は走って僕を振り落とそうと必死だが僕は落ちない。
走るたびに毒竜の傷口から血が吹き出すのが見える。
これはかなり効いているのがわかる。
そうしている間にも右の翼膜はボロボロになっていく。
剣の届く範囲の翼膜はあらかたボロボロにし尽くした。
左の翼膜に行く為に「【アーティファクト】!」と唱えて「兵士の剣」で切り込む。
もしかしたらとついつい翼を狙ったが、こちらも骨で剣が止まる。
毒竜は走る事をやめた。
多分、次の攻撃は尻尾からの毒霧だろう。
尻尾は薙ぎ払いではなく打ち下ろしだった。
僕は打ち下ろしに対し、威力の少なそうな尻尾の根元側に向かう。そして剣を毒竜に突き立てる形で受け止める。
今までに無いほど深々と剣が毒竜に突き刺さる。
毒竜がまたあの目になった。
しかし今回は攻撃の手段は限られている。
毒霧は「火の指輪」で相殺する。
勝てる!
そう思ったのだが、刺さった剣が抜けない。
「しまった…」と思って僕が必死に剣を抜こうとした時、毒竜は猫が地面に背中を擦り付けてノミ取りを行うような動作に入った。
まずい、剣は毒竜の背中に突き刺さっていてロープを切り離せない。
僕はそのまま毒竜に押しつぶされて下敷きにされた。
ボキボキと全身の骨が折れるのがわかった。
このまま死ぬとどのタイミングに戻されるのかわからない。
だから今この瞬間に僕は跳ぶ。
トキタマ!頼む!と思うと「はいはーい」と聞こえてきて時を跳ぶ。
僕は着地の瞬間を今までに無いほど強くイメージした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
62回目の時間。
僕は意識した通りのタイミングに跳べていた。
左の翼に向かって斬り込んだ瞬間だ、剣は骨で止まっている今が1番いい。
変わらず毒竜は走っている。
着地のイメージは足場の悪さを意識していたので問題ない。
それにしても段々と腹立たしくなってきた。
ビタンビタンと何かと言うと毎回尻尾だ。
邪魔だな…
毒を吐く口も飛ぶ翼も今や何とかなった。
尻尾だけがとにかく邪魔だ…
毒竜が走るのをやめた。
くるぞ…尻尾がくる。
あえて薙ぎ払いやすいであろう位置に動き、薙ぎ払いを誘う。
毒竜はさっきと違い、振り上げた尻尾で薙ぎ払ってきた。
タイミングを合わせて「【アーティファクト】!」と唱えて斬り込む!
直後にビタン!と言う音が聞こえた気がする。
剣で止めきれずに僕は跳ね飛ばされた。
しかも腹のロープがピンと張って毒竜の身体に叩きつけられた。
むせ込んだ僕は「ガハッ!?」と言いながら目を開くと目の前が赤い。
血が出たのか、毒竜の血かはわからない。
マズい。
だがそれよりも腹立たしい。
トキタマは僕がトキタマ!!と思うと「はいー!」と返事をしてきて僕は時を跳んだ。
63回目の時間。
今度は薙ぎ払いがくる少し前、薙ぎ払いを誘った辺りにした。
次こそ打ち落としてやる。
タイミングを合わせて再び斬り込む!
さっきの時間では毒竜の攻撃力を考慮していなかったから止めきれなかったのだ。
「【アーティファクト】!」と唱えながら足に力を入れて踏み込みを強くし、手首に力を入れて剣筋を真っ直ぐにした。
ガッ!!と言う音が出て僕は吹き飛ばされなかった。
止めた!!!
剣で尻尾を止める事が出来た。
剣は尻尾の8割の所で止まっている。
すなわち骨も切れたと言う事になる。
やはり剣の強度や切れ味が足りないのではない。
僕の技術や力不足が問題だったんだ。
力不足は毒竜の攻撃力を利用すればいい。
もう少しで尻尾を斬り落とせる。
もう一度力を込めて振り抜く!!
しかし、その瞬間視界が紫色に染まる。
しまった毒だ!?
だが、一度なら「火の指輪」に付与した耐性効果で防げると思った時には毒霧に紛れて接近していた毒竜が僕に噛みついている。
突然の痛みに僕は「ぐっ…!?」と声を漏らす。
しまった。
僕の身体がバキバキと音を立てながら食いちぎられそうになっている。
トキタマを呼ぶと「はーい!!」という声と共に僕は時を跳んだ。
時を跳びきるまでに考え事をする。
まさか、噛みつかれるとは思いもよらなかった。
今度は足止めされないように尻尾の先を切り落とそう。
そう思いながら着地をイメージする。
いつもならもうすぐ着地だ…そう思った時「キョロ…」と言って僕を呼ぶリーンの声が聞こえた気がした。
リーン、あの夜の素敵だった彼女の顔、声、服、そして香水の匂いが思い出された。
そうだ、こんなに連続で跳んでリーンは無事だろうか?
僕は何をしていたんだ?
毒竜への怒りで我を忘れていたのか?
今、リーンの顔を思い出さなかったら勝つまで何回も跳んでしまったのではないか?
僕は慌ててトキタマを呼ぶ。トキタマは「どうしましたか?もう着地ですよ」と言う。
僕は「リーンが心配だ、作戦を変える。もうなるべく跳ばないで戦うんだ」と言うとトキタマの返事は「ふぅ、…やれやれですよ」だった。
驚いた僕が「何?」と言ってトキタマを見るとトキタマの様子が明らかに変だった。
あの邪悪な感じのする顔をしたトキタマが目の前で明らかに僕に呆れている。
トキタマは呆れた感じのまま「あのお姉さんなら、次から毒竜を倒すまでは一緒に跳ばしませんから安心してください」と言う。僕は「何を勝手な事を言っている!ふざけるな!!」と声を荒げるがトキタマは「あー、もうお父さんもダメダメです。今の事も忘れて毒竜を倒しちゃってください。全部終わったら呼び起こしてあげますからねー」と言った。
「何を言ってい…る…?」
そう言いながら僕は激しい頭痛に襲われた。
脈打つ頭痛の中から声が聞こえる。
全てを使いつぶして目の前の敵を倒す。
全てを使いつぶして目の前の敵を倒す。
全てを使いつぶして目の前の敵を倒す。
全てを使いつぶして目の前の敵を倒す。
全てを使いつぶして目の前の敵を倒す。
敵を倒せ。
その為に跳べ!!
その言葉が聞こえた俺は「倒す!!」と言っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
64回目の時間。
戻った俺はまた薙ぎ払いを誘う。
薙ぎ払われた毒竜の尻尾に斬りかかる。
「今度こそ切り落とす!!」
タイミングを合わせた剣は今までのような「ガッ」という音ではなく「グシャ!!」という音だった。
惜しい!後数センチで尻尾が切れるところまできた
二撃目で尻尾の切断は叶った。
これがもう少し細い先端部分なら一発だっただろう。
腰のロープを切り捨てて地面に降りる。
目の色が変わった毒竜がこちらを睨んでいる。
毒竜が前足で爪による攻撃をしてきた。
俺はその指を狙う。
手には当たったが指には当たらなかった。
その勢いで身体が吹き飛ばされてしまい、木々の中に落とされた。
当たりどころが良くない。
俺が「トキタマァ!!次だ!!」と言うとトキタマは「了解です!」と言って俺を跳ばした。
65回目の時間。
俺はついに毒竜の尻尾を切り落とした。
毒竜はまだ懲りないのか尻尾で攻撃をしてくる。
リーチが全く違うのでもう余程ヘマをしないかぎりは当たらない。
「ようし、今からは剣の特訓だ。なます切りにしてやる」
俺は斬る事のみに集中して毒竜の身体めがけて剣を振る。
全身の至る所を切り刻む。
刃の通る所、弾かれる所を見極める。
暫く斬り刻んだ俺は「ようし、大体わかった」と言う。
今なら尻尾もアーティファクト無しで切れそうな気がする。
だからこそあえて尻尾の射程に入る。
毒竜は懲りずに尻尾の一撃を放ってくる。
俺はタイミングを合わせて剣を振り下ろすとグシュ…と言う音を立てて剣が毒竜に刺さる。
大体7割まで斬れた。
アーティファクトを使えば一撃での切断も可能だろう。
俺が「ようし、有終の美だ」と言うとトキタマが「はいー」と返事をしてくる。
俺はトキタマに「トキタマ、わかって居るじゃないか」と言うとトキタマが「わーい、お父さんに褒められましたー」と言いながら時を跳んだ。
66回目の時間。
俺は最早苦戦はしなかった。
毒竜の尻尾を一撃で切断し、その後は手足を重点的に切っていき、動きを鈍らせる。
動きが止まったところで正面から胸元めがけて突きを放つ。
剣が根元まで毒竜に刺さった時、毒竜が断末魔の悲鳴を上げている。
俺はそのままアーティファクトを発動させて剣を斬りながら引き抜く。
毒竜の「ギィヤヤァァァァァァォォォォ…」という声が聞こえる中、俺はこれで終わりだと思った時、毒竜の背中が思い切り膨らんで…そして弾けた。
最後の仕返しと言わん勢いで大量の毒霧がその場に放出された。
俺は毒霧の直撃を食らった事で「ぐあっ!?」と声をあげてしまう。
まさか最後にあんな攻撃をするとは思わなかった。
「火の指輪」の耐性のおかげでかろうじて動けてはいる。
見ると毒霧は山からの風で流されていってしまった。
俺は今やるべき事をやる。
毒竜の顔に近付き、三本の角をトンカチで叩き折る。
毒竜が死んだからか、もともと叩く事が正解なのか想像より早く角は折れた。
折った際に出てきたカケラを飲み込む。
ムラサキの言うことが確かならば、これで俺の体内の毒素は解毒されるだろう。
だが、今はダメだ…少し休もう。
「トキタマ、外敵が来たら起こしてくれ」というとトキタマが「はーい、おやすみなさい」と返事をする。それを聞きながら俺は眠りについた。
トキタマは眠ったキヨロスを見ながら「さ、次に起きた時はいつものお父さんに戻っていますからね」と言ってニコニコと跳んでいた。
キヨロスが眠りに落ちて10分後。
僕はトキタマの呼ぶ声で目が覚めた。
起きると目の前には毒竜の死骸。
手には毒竜の角。
何があったのかわからない。
恐らく状況からして僕が毒竜を倒して角を折ったのだろう。
そして力尽きた。
僕はトキタマを呼んで状況を聞くことにした。
トキタマは「お父さんは跳んですぐに無我夢中で我を忘れて戦っていました。何回か跳びましたが村のお姉さんの事は僕が止めて置きました。お父さんは何回か跳んで毒竜の尻尾を斬れるようになりました。毒竜は最後に毒霧を出して死んでいきました。お父さんはその毒を浴びてしまいましたがカケラで何とかなりました!」
そういうことだったのか、だが僕は全く覚えていない。
リーンは無事だろうか?
申し訳ないし、確かめられないのはもどかしい。
とりあえずリーンを跳ばさないでくれた事と教えてくれた事に「ありがとうトキタマ。助かったよ」と言うとトキタマは「いいえ、お父さんに褒めてもらえて僕も嬉しいです」と言った。
とりあえず毒竜は始末したから山小屋に帰ろう。
山小屋までの道のりは山道にした。
毒竜が居なくなったのだからこの木々も少しずつ時間をかけて元に戻っていくだろう。
日没までに何とかなって良かった。
フィルさんもこの角を飲めばきっと良くなる。
これで1つ目のノルマは達成された。
後は四の村に行ってからになる。
僕は山小屋に着いた。
達成感から「ただいま戻りました!」と元気よく言うが音がしない。
山小屋は静まり返っている。
フィルさんはまだ寝ているのかな。
起きてこの角を見てくれたらきっと喜んでくれる。
あの声と顔で喜ばれたら大体の男の人たちは恋に落ちてしまうかもしれない。
僕はフィルさんを起こさないようにそっと山小屋の中を歩く。
ガミガミ爺さんに角を見せて安心させてあげたかったのだ。
フィルさんの寝床の横でガミガミ爺さんが座り込んでいた。
寝ているのかな?
僕が「ただいま戻りました」と声をかけるとガミガミ爺さんは僕の方を向く。
「おめえ、戻ったのか?」
「はい。これが毒竜の角です。3本あったから、どれが正解かわからないけど全部持ってきました!」
僕はガミガミ爺さんに角を見せる。
安心するかな?喜ぶかな?と思っているとガミガミ爺さんは「今更そんなもん持って帰って来ても遅いんだ…。もう…フィルは……」と言うと、ガミガミ爺さんは肩を震わせて泣いてしまった。
僕が困惑するとフィルさんの横に置かれたムラサキさんが「キヨロス。よく戻りました」と語りかけてきた。
ムラサキさんは僕の手を見て「それは毒竜の角ですね。やりましたね。ところで、あなたが毒竜を倒した時のことを教えてくれますか?」と聞いてきた。
何があったと言うのだろう?
何故ムラサキさんはそんな事を気にするのだろう?
「すみません、我を忘れて無我夢中だったらしく僕も最後は覚えていないんです。でもトキタマからは状況を聞いたので説明できます」
僕の返事を聞いたガミガミ爺さんがハッとした顔をしてムラサキさんを見る。
ムラサキさんもガミガミ爺さんを見て頷いている風に見えた。
ムラサキさんが僕を見て話し始める。
「キヨロス…恐らく毒竜は最後の力で毒霧を放ったのでしょう」
「はい、僕もそれを聞いています」
「その毒霧はあなたに向けたものではなく、今後山に住み着くかも知れない同族のために山を毒で汚染しようとしたのでしょう。その毒霧は山頂からの風で流された…」
ムラサキさんの言葉に「まさか…」と思った僕は背中が冷たくなった。
ムラサキさんの説明が続く。
「流された毒霧は三の村を襲う。それをフィルは最後の力で浄化しました」と言ったムラサキさんはガミガミ爺さんを見て「ドフの制止を聞かずに…」と言って眠っているフィルさんを見て「そして彼女はすべての力を使い果たして死にました」と言った。
一瞬ムラサキさんの言葉がうまく耳に入らなかった気がした。
すぐそこで横たわるフィルさんは寝ているのではなく死んでしまったと言われたが実感がわかない。
外傷もなく苦悶の表情でもなく、安らいだ顔をしている。
現実味がない。
僕は「そんな……そんな…」と言いながらフィルさんの顔を見ているとガミガミ爺さんが「小僧、お前が悪いんじゃねえ…悪いんじゃ…」と肩を震わせて言ってまた泣いた。
どれだけ苦労を重ねたかわからない。
試行錯誤の末の勝利がこんな形で無駄になるとは思わなかった…
思わなかった…
頭が痛い。
頭が痛い。
こんな結末は嫌だ…
嫌だ…
こんな結末…
こんな結末は…と思った所で「カエテシマエバイイ」と聞こえてきた。
そうだ、その為の僕とトキタマだ。
こんな結末は嫌だ。
僕は結末を変えるために考えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます