第9話 敗北・告白。

フードの男が木の裏から姿を現すと僕を見て「お前の事は知っているぞ…」と言った。


フードの男は「先日、私の兵士たちを皆殺しにした少年だな。それにしても珍しい。「時のタマゴ」か…」と言って僕のそばにいるトキタマを見た。


こいつはトキタマを知らない?

一瞬なぜかわからなかったが、僕が時を跳んだからフードの男は僕の事を知らない事に気付いた。


そのままフードの男は「その力は前回見た。呪われたアーティファクト…面白い。少年。少し私と話をしないか?」と言ってきた。

突然の提案に「何を!」と言う僕にフードの男は「私の合図で一斉攻撃が始まる。今戦うというのなら合図を出す。だがお前が私と話をするというのであれば兵士は動かさない。どうだ?」と持ち掛けてきた。

確かに今は時間を少しでも稼ぎたい。戦闘になることなく父さんと母さんがナックの家まで行ってくれれば戦いは有利になる。


僕は剣をしまうと「わかりました。何を話すんですか?」と聞くとフードの男は「何にしようか?」と返してくる。


馬鹿にされたと思った僕は苛立ちながら「ふざけないでください!」と怒鳴る。

フードの男は「ふざけてなんていない。戦えば私が勝つのだ」と言った後で一瞬何かを考えると「…ああ、そう言えば「時のタマゴ」で時を跳ぶと言う事は、お前は私の目的を知っているな?」と聞いてきた。


「王がアーティファクトを求めていて、命を回すために村の皆を殺そうとしている」


僕の回答に「そうだ…」と言ったフードの男は「そうか!お前は一度皆殺しにされたな!それで戦う意思を持って私たちの事を皆殺しにした。そうだろう?」と聞いてくる。


「ああ、僕は皆の為に戦う!」

「ご苦労な事だ、時に少年よ、お前は「時のタマゴ」の呪いを知っているか?」

フードの男が僕の表情とトキタマを見ながら聞く。

トキタマは今回はもう慌てない。

ただ面倒くさそう、煩わしそうに見ている気がする。


「あなたから聞きました」

「そうか、ふふっ、それでもみんなの為に戦うか。面白い、次の質問だ、お前は私から何を聞いた?」


「「時のタマゴ」を持って帰れないから王の所に来い、ただ来るのではなく三の村の南に行き、四の村に立ち寄ってから来いと言っていた」


この回答に気をよくしたのだろう。

フードの男は「そうかそうか、それではお前はなぜここにいる?なぜ言う通りにしない?」と楽し気に聞く。


僕は「僕は行かなくても村を守ったから行く必要はない」と答えるとフードの男は「それでこのザマか?訓練兵で一度敗れた私は今回一般兵を連れてきた。今回がもしも駄目だった時は更に数を増やす。それでもダメなときは熟練兵を連れて滅ぼしに来る」と言った。


訓練兵?

一般兵?

熟練兵?

一瞬何の事かわからずに「何だって!?」と聞き返してしまう。


「王の命令は絶対、王が生きている限り私は王の命令に従い続けるのだ…」と言ったフードの男に何も言えない僕に「だから、お前が村を守ると言うのであれば王を倒すしかないな」と暗に城を目指せというフードの男。


「お前を殺せばそれで終わるんじゃないですか?」

「それはどうかな?まだ城には私の代わりが居る」


確かにフードの男はただ王の指示に従っているだけの存在。

原因の解決にはやはり指示を出している王を何とかする必要がある。


ここに畳み込むように「それこそ国の兵士1200人を全滅させるまで戦い続けるのかな?それは常識的ではないな。やはりお前は王を殺すしかない」と言うフードの男。


「なんでそんな事を…」

「「時のタマゴ」を王に届けるためさ!」


やはりそう言う話になった。

僕が何も言わない事を理解できていないと思ったのかフードの男は「わからないのか?」と言って話を続けてきた。


「仮に私がこれからお前に勝ち、その身を拘束したとしよう。王都に向かうまでの道のりで時を跳ばれてはどうすることもできないのだ、お前自身の意思で城に来てもらうしかない。だから呼んでいる。ただ呼ぶだけだとつまらない。だからお前と「時のタマゴ」が強くなるためにも三の村と四の村に寄ることを勧めている」


この男の言う通りならまだ1200人のうち17人しか殺していないことになる。

この先もっと強い兵士を相手にすべて倒せるのであろうか?

こちらはある種無敵だ、勝つまでリトライが出来るから。

でも1200人はやっていられない。


城に呼ぶのはアーティファクトを育てさせるため?

だがそのまま出向いてどうなる?


「どうした黙り込んで?お前はこの村の中ではまだ賢そうだからもうわかっているんだろう?この戦いに勝ち目がない事を」


確かに勝ち目がないのかもしれないがまだ諦めたくはない。

どこかに活路があるかもしれない。


僕は思わず睨んでいたのだろう。

フードの男は「そうか、まだ諦める気はないか」と言うと「では先に一つ言っておこう」と言って話をし始めた。


「私のアーティファクトはA級。「瞬きのローブ」だこれさえあればこの国の中ならば願ったところに飛んでいける。瞬間移動というやつだ。この力で前回は安全圏に避難もしたし、帰還も一瞬の事であった。これがどういう事かわかるか?」


…瞬間移動?

時を跳ぶアーティファクトがある以上おかしなことはない。

だが今一番聞きたくない能力の一つだ…

それでこんなに早く攻め込んできたのか。


「流石だな少年。お前はわかったな。仮に今撃退できるまで戦闘を繰り返したとして、私を一瞬で倒せない限り私は城に一瞬で帰還をしてまた4日後に兵士を連れてくる。次は倍の100だ」


100?52じゃないのか?


「…驚いているのか?ああ、まだ「時のタマゴ」は、村の外まではアーティファクトを探知できないのか?村の外に追加で25の兵士が控えている」


最悪だ、あんなのがまだ48も居ると言うのか。

愕然とする僕にフードの男は話を続ける。


「あと一つ、もし村人とどこかに逃げ落ちた場合だが、当然わかっているだろう?私はこの国の中ならどこにでも瞬間移動が出来る。必ず探し出して命を回す。ちなみに言っておくが、他の村や王都に逃げても無駄だ、国中のアーティファクト使いは例外なく最後には殺す事になっている」


フードの男の言葉に頭がクラクラしてきた。


「この村人は全員C級だったな。残念だな戦う術もなくあっという間に殺される。お前は城に来るしか皆を助ける方法は無いんだ」


僕の心はこの瞬間に決まった。

言われるがままに行動してたまるか!

僕は怒気を孕みながら「トキタマ!!」と叫ぶ。

トキタマは準備万端で僕の肩にとまる。


「ほう、この場からとりあえず逃げるつもりか?それもいい。気が済むまで戦うといいさ。だが覚えておけ、お前は私の指示に従って城を目指すことになる。そしてその気になった時は今日、日の出の時刻に1人で私の元に来い。そうしたら総攻撃は中止してやる」


総攻撃を中止する意味が分からなかった僕は「何故中止する?」と聞くとフードの男は「簡単な事だ。わかっているだろう?村人はお前の行動理由であり人質であると言う事が…、先に村人を全滅させたらお前は不死を良いことに逃げだすかも知れんからな」と言った。


その通りだ、村の皆が居る限り僕は言う事を聞くしかないのかも知れない。

僕は思わず「くっ…」と声が漏れる。



だが諦めきれない!

「トキタマ!【アーティファクト】!」

僕の身体をトキタマの羽根を覆う中フードの男の「それでもまだ跳ぶか…無駄な事を、まあ、いい。好きなだけ試すがいい!!」という言葉が聞こえてきていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



僕はあの後、12回跳んだ。

フードの男を残して周りを全滅させて3日半の猶予が欲しかったからだ。

しかし結果は惨敗だった。

通算20回目の時間の時に持って跳べる記憶が2人になり、25回目の時間で持って跳べるアーティファクトの数が増え、30回目でアーティファクトが更に成長をしても持てるようになった。

毎回6人前後しか倒せていないので剣はまだ成長の兆しを見せていない。

攻撃に指輪が増えたことにより指輪で殺すケースもあるので剣の成長はあまり期待できない。


そもそも一般兵でこの強さというのは今の僕には正直反則に近い。

素人が勝つには強いアーティファクトを持つ事とかが必要になってくると思う。


今のままだと後100回跳んでも勝てる気がしない。

無傷でとなると1000回くらい必要になるだろう。

トキタマだけはハイテンションで、ノリノリで僕をイラつかせる。


今回は駄目かも知れない。

そう思ってしまうくらい僕の心は参ってしまっている。


通算32回目の時間。

今までとパターンを大きく変えてみた。

ナックの所まで一度も戦闘をせずに行き、村人の準備が万端になったところで戦ってみた。

だが村人では全く歯が立たず、リーンとナックが善戦してくれたが、かえって兵士を本気にさせてしまい、ナックとリーンはなぶり殺しにされてしまった。


これでは駄目だ。

一度戦闘の前、2日目の夜に戻ろう。

僕は諦めて跳んだ。


[2日目]

33回目の時間。

父さんが村長の所から帰ってきたタイミングに跳べたので父さんともう一度村長の所に行くことにした。僕の顔つきが急に険しくなっていたので父さんと母さんは状況を察してくれて何も聞かないでくれた。


僕を見た村長が「こんな夜更けにどうしたのだキヨロス」と聞く。僕は挨拶もせずに「僕は、勝てませんでした」と言った。


村長は驚きの表情で「何?お前は跳んできたのか?」と聞く。

「はい、次の襲撃は明日の夜中から明後日の明け方です。攻め込んできた兵士の人数は50人。フードの男はA級のアーティファクト使いで瞬間移動が出来ます。なので成人の儀の宴の時には城まで一瞬で帰ってすぐに攻め込んできました」



村長は愕然として「何という事だ…」と言う。

今初めて聞いた父さんも「そんな事があったのか…」と言いながら僕の顔を見て心配をしてくれている。



「僕は13回戦って一度も倒した数が10人に届きませんでした。大体6人から7人を倒した時に総攻撃をされてみんな傷ついて…死んでしまいます」

多分、僕は感情の起伏もなく淡々と話している。

だがそんなことはどうでもいいくらい疲れている。

でも伝えなければならない。

村を守るために今出来ることをするために。


父さんも村長も言葉なく話す僕を見ている。

僕は2人の言葉を待たずに続ける。


「最初に僕達が皆殺しにした15人は訓練兵でした。次に…明日の夜に来たのは一般兵です。とても強いのですが、なんとかそれを撃退してもその次にくるのは数を増やした一般兵。最終的には熟練兵で攻め込んでくるそうです。そして城の兵士は1200人と言っていました。訓練兵や一般兵の割合までは聞いていません。止めるためには僕が城に行って王を倒すしか方法がないそうです」


話し切った所で村長が「そうか、キヨロスよありがとう」と感謝の言葉をくれた。

僕が言葉を発する前に父さんが「では、1案目か2案目で…」と村長と話をし始める。

だがその会話に意味はない。

だから僕は「ダメなんだよ父さん」と言って2人を止めた。


2人が僕を見た所で「フードの男は瞬間移動で国中どこにでも行けるんだ」と言う。、


「あいつは言っていた。どこに逃げても必ず見つけ出すと。そして国の決定でアーティファクト使いは全て殺すからどこの村や王都に逃げてもいずれ殺されるって言っていた」


話していてとても苦しかった。辛かった。

僕は泣くことが止められなくてまだ話の最中なのに泣いてしまった。


父さんが僕の名を呼んで僕を抱きしめてくれた。暖かさと安心感。安らいだ感覚が少しだけ僕を癒してくれた。

そうした事で僕の心は落ち着きを取り戻したのだろう。

建物の外の変化に気が付いた。

僕は扉を開けながら扉の外の人に語りかける。


「母さん、来たんだね。入って。母さんにも聞いてほしいことがあるんだ」


ここに母さんも来た事で僕は全てを話すことにした。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



母さんが村長の家に入って父さんの横に立った時に僕は村長を見て「総攻撃を止める手立てがあります。フードの男に持ち掛けられました」と言うと村長は「それはなんだね?」と聞いてくる。


「僕がフードの男の言う通りの道順で城に向かうことです」


この言葉に父さんが「何故キヨロスが自分で行く必要があるんだい?」と聞いてきた。

村長もそうだと言って僕を見る。


僕はトキタマを呼んで村長達に見えるようにして「トキタマを使えば例え僕が負けて捕まっていても時を跳んで逃げられるから自分の意志で城に行く必要があるんです」と説明をする。


母さんが「トキタマちゃんを王様に渡せば全部終わるの?」と聞く。

母さんはとにかく僕が助かる事を優先的に考えてくれている。


僕は首を横に振って「それじゃダメなんだ母さん」と言う。

次の言葉を言うのを一瞬躊躇してしまうがここでは止められない。


「アーティファクト使いは全員殺すらしい。その決定を覆すには僕が王様を殺すしかないんだ」


そう言った後で村長を見て「後、僕が城に行くことが総攻撃を止める条件の話ですが、もう一つの条件があります。村の皆が人質になることです」と言うと村長が「なんじゃと!?」と言って声を荒げる。


僕が「僕が逃げ出さない為の人質です」と言うと村長が「そんな…」と言う。


僕は父さんと母さんの方に顔を向けた。

これが一番辛い。


「父さん、母さん、ごめんなさい。僕は一つ父さんと母さんに隠していた事があります。僕自身、1日目の夜まで知らなかった事です」


母さんが僕の雰囲気に飲まれて動揺しながら「何?そんなに改まって…」と聞くと父さんは僕を心配して「どうした、何があった?」と聞いてくれる。


トキタマは僕の肩でおとなしくしている。

これから起きることをわかっているのだろうか?


「僕はアーティファクトの呪いにかかっています」


この言葉に母さんが「え?」と聞き返し父さんが「呪い?」と言って一瞬の後で驚いた顔になって僕を見ている。


「フードの男に言われたんだ。「時のタマゴ」には呪いがあって、その呪いで僕は不死の身体になったって言われたよ」


父さんと母さんは僕の言葉を聞いた後で「不死…死ねないのか?」「そんな…」と言って僕と肩に止まるトキタマを見ている。


「まだ死んだことも死に瀕した事もないからわからないけど、フードの男の言う通りなら僕は不死になってしまった…。だから僕は何十年かして村の皆を看取った後は1人で生きていくことになる」


この言葉が終わるや否や「どうして、どうして!!」と言って母さんが僕とトキタマの両方に詰め寄っている。トキタマは何も言わない。置物のように固まっている。



父さんが事の経緯を理解して「だから人質…なのか?」と僕に聞いてきた。

「うん。僕は村の皆が居なくなったらどこかに行ってしまう。そうしたら王の所にトキタマは永久に届かなくなるんだ。だから皆の命を人質にして僕を城に行かせる。そういう話になんだ」


もう、母さんは僕の足元でうずくまって声にならない程泣いている。



村長が「キヨロス、お前は皆の為に戦ってくれるのか?」と聞いてきた。

僕は頷いて「戦います。僕の全ては父さん、母さん、村の皆の為に使います。そうじゃなかったらトキタマを「時のタマゴ」のアーティファクトを授かった意味がない」と言う。


父さんが「出発は?」と聞いてきた。


「明後日の朝。日の出の時刻にフードの男の所に行くことで約束は交わされる事になったよ。

まあ、向こうは覚えていないから会ったら説明するけどね。そして僕が王に会うまでは皆の無事は保証される」


その後で「万一約束を反故にされたら僕はトキタマで跳んで何万回かかろうが全てを殺すまで戦います」と言ったのだが、この言い方が良くなかったのか母さんがまた泣いてしまった。



村長が「わかった、キヨロスよ全てはお前に委ねる。すまないな」と言って頭を下げてくれている。


僕は「そんな、気にしないでください」と言った後で「ただ、不死の呪いの事に関してはリーンとナック…だけじゃないな…今ここに居ない人には内緒にしてもらえませんか?」と言う。

村長は深く頷いた後で「安心してくれ、村の誰にも言わない。秘密は守る」と誓ってくれた。


話は済んだので「ありがとうございます。それでは」と言って僕は帰ろうとする。

村長が父さんに「明日の打ち合わせは、今あった事で話せる範囲で村の者を納得させる」と言うと父さんは「わかりました」と言って母さんを抱えるように起こすと「帰ろう」と言った。


村長の家を後にして僕は父さん母さんと家に向かう。

母さんが「昔みたいに手をつながない?」と、急に手を繋ぐと言い出した。

あまりの出来事で母さんは疲れてしまったのかもしれない。

僕は「うん」と言って母さんと手を繋いだ。

そうすると今度は「お父さんとも手を繋いで」と言われたので母さんの願い通り3人で手を繋いで家路についた。

なんだか子供の頃に戻ったみたいだ。


帰宅をすると「3人で寝ましょう」と母さんがこれまたとんでもないことを言い出した。

急な話で納得できないのかな?

父さんと呆れながら家のベッドを全て並べて3人で寝た。

僕は真ん中だった。


母さんが時折泣いているのがわかった。

気づくと母さんが僕の腕に抱き付いている。


僕は不死になった、もうみんなと同じ時間を生きられない。

だからこそ絶対に何とかしなければと思った。


余談だけど父さんがたまに出すいびきは昔よりうるさくなっている気がした。

トキタマは父さんがうるさかったのか僕の部屋に帰って殻のベッドで寝ていたらしい。

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