第7話 そこまで見たいもんなのか?
コンテナの中はぼんやり薄明るい。
そして巨大なものが、中に入っていた。
……飛行機?
「はぁ、はぁ。……ラギ君、大丈夫だった?」
「俺は平気ですが。……マニィさん?」
「そうだね、私が明らかに大丈夫じゃ無い。だから大丈夫、に近い感じになりたいので手伝って。……まずは服脱ぐところから」
「……はぁ!?」
「残念でしたぁ、ブラは外さないよ。しかも今日はたまたま軍支給の、可愛くない実用一辺倒のヤツでさ」
そう言いながらマニィさんはさっきのナイフを取り出すと、上着の右側だけ脱いで、左の袖を切り裂き始める。
「そのまま水着でいけるくらい分厚くて、ちっともセクシーじゃ無いんだな。これが。自慢できるほどはおっきくないしね。……上着とシャツ、お願い。左は腕が抜けない、そのまま肩から切っちゃうから」
そう言いながら左の袖をバラして上着を脱ぎ。シャツも袖を切り裂いて、肩の部分が切れるとシャツも落ちる。
――俺、正面に居るんすけど。
「せめて、ちょっと透けたりしてたら。そしたらご褒美! って言っても良かったんだけどねぇ。なんか、私が半端に恥ずかしいだけで誰も得しないね、これ」
……いや、もう全然。ご褒美としては十分です。
ごちそうさまです。
しばらく。困らなそうです、ホント。
「……そこのケーブル、とって。細い方。――そう、それ」
ケーブルを渡しながら、マニィさんが座る前に腰から外したオーバースカートを拾い、あらわになった細い肩にかける。
軍服になってるの、こう言う意味なのか? これ。
この人はエラいから長いけど、エラくない人は短いじゃん。どうすんだよ……。
「ありがと。
「この場ではみんな、こうするんでは……?」
でも、つい後ろからかけちゃったから。
実はあんまり隠れて無くて、ほぼ見えちゃってるけどね!
「でもそこまで見たいもんなのか? と言う話でもあるので、これはちょっと複雑かなぁ」
――マニィさんが、勝手に話を複雑にしてるだけです……。
「……で、実際に見てるヤツはどうよ?」
「俺に聞かれても、……その」」
「お、ちょっと嬉しい反応。えへ……!」
……これ以上は勘弁して下さい、マジで。
ここはカタチだけでも目をそらさないと、精神の防御壁が削れる……。
「……ガーゼの代わりはシャツでいいや。消毒は、まさかグリスって訳にも行かないけど。機械洗浄用のアルコールかなんかないかな? ――ラギ君、その缶って何?」
制服とシャツが、どんどんナイフでただの布になっていく。
「超濃縮代替アルコール? なんで超が付くくらい濃縮したの? しかもゲル状? 更に代替って、ホントは何なのそれ! うえ、すごいニオイ、かえって体に悪そう。……ま、エラく流血してるし、一応水もある。消毒は無し、でいくか」
「あの、これ。ケーブル。なんに使うんですか? 2mくらいしか無いですけど。コネクタって合います?」
「むしろ、長さはちょうど良い。コネクタは気にしないで良いよ」
彼女は、さっきよりもさらに青くなった顔で微笑んでケーブルを受け取ると、おもむろに自分の左腕に巻き付ける。
「紐に使うだけだから。……このケーブルは柔らかくて、太さも丁度良いね」
――えーと。それはもしかすると。
「ここ、思いっきり全力で引っ張って? ――うん止血だよ。わたしもまだ生きてたいので。協力、お願い。こんなことで出血多量で死亡。なんて、洒落にならない。でしょ?」
「ホントに良いんですね? マジでやりますよ? ……せぇ、のっ!」
「ぐぅ……、くっくぅうう! もっと、本気出せぇ! うぅ。ぎぃい! はぁ、はぁ、おっけー、あ、ありがとう、そのまま、くぅうっ、む、結んで。……う、ぐずっ」
「あの……」
「痛いものは痛いし、涙だって出るのっ! 次はこの邪魔なの、取って。そこにペンチ、あるでしょ? アレで掴んで、思いっきり。……引っこ抜いて!」
「もっと、痛いんでは……」
「ごめんね。こんどはすごく泣くと思うけど。でもそこはホラ、キミに対するご褒美の一環としての、そう言う演出だと思って楽しんで?」
「……どう楽しめって言うんですかっ!」
――少なくても、俺にそう言う趣味は無い。
つーか、ドコまで本気で言ってるの、この人!?
「なら仕方が無い。楽しくなくて悪いけど、全力で。抜いて……!」
そういうとマニィさんは、破いた上着の袖だった部分を。口にくわえた。
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