第四章 宇宙からの増援と生粋のエリート

第65話 037、感度良好

『オーケイだ。もう一度2番甲板に、今度は前から行ってみようか』

「CP612コピー、2番に前から。で良いんですね? 今度は降りるんすか?」


 旋回が終わった俺は、上空から船の両側に滑走路を展開したナミブを見下ろす。

 無線の声はメカチーフ。

 この機体の挙動を、自身も含め五人体制でチェックして居るはず。



『さっきリモートこちらで仮想ウェイトのバランスを変えた。もう一回、(※)タッチアンドゴーを頼む』

「後ろ側に振りましたね? ――道理でなんか鈍くなった気がしたわけですよ。やる前に言って下さい!」

 

 改めてデータ画面を見ると、重量増7%、空力悪化3%の数字が出ているし、さっきやったときから、前後だけでなく、左右の重量バランスも狂ってる。

 気がつけ、と言う話なんだろうけれど。昨日今日BAバトルアーマーに乗り始めたヤツが、感覚だけで気がつくわけ無いでしょうが!



 テストパイロットって危険な職業。だけど、みんなから尊敬される凄腕パイロットでもある。って聞いたんだけど。


 公式に積載実検の担保が取れてないミサイルやら、ガンポッドやらを、さらに強引に積み込もうとしてるな、これ。


 現状は超長距離狙撃ライフル(の実物大模型)が腹の下に装備してある。

 飛行形態で二発連続で打つと失速するうえ、これが装着されていると変型が出来ない、と言う欠陥品だ。

 それなのに、なんで実物大模型を作っちゃったんだろう。


 イメージとは違うけど、これはこれで実験動物の扱いなんじゃないだろうか。

 どう考えても扱いが雑だよ。



「チーフ、下ろしてくれない気ですか……」

『んなコタぁねぇが。まぁ、司令にも船が止まらなくて良いなら。って条件で、あと四時間分は許可は取ってあることだし」


「よ、四時間~!?」

 何回分だよ!

『シミュレーターじゃわからん挙動もあるからよ。もう少し付き合ってもらうぜ?』


 もう既に今日は六回やってる。

 そろそろ休憩にして欲しい。



『燃料残量だけ見るなら、あと二〇回は出来るしな』

「……うぇえ」



 そう言えば。ライフルの他に燃料満タンに増槽装備、空を飛ぶ機械とは思えないくらいの、重量超過状態で出て来たんだった。

 これだけハードなのに。意外にも推進剤、使い終わってない……。

 ちなみに増槽も満タン状態の重量が再現されているけど、中身は空。

 いくら文句言えない立場とは言え、イジメだろ。これ……。



『CP612。変わってブリッジのRB037、クレセントから秘匿回線通信』

「037、回線切り替え、完了。――感度良好ラウドアンドクリア。612、ロスマンズ特士です」


『最近は受け答えもそれっぽくなってきたね。ま、パイロットとしては良いことだけど。……キミはBAバトルアーマー、人型形態はほぼ大丈夫だから、この際開き直って練習すると良いよ。結構キツイだろうけど、なかなか実機の訓練って出来ないからね』


 思うよりも結構、体力が必要なんだよね……。それよりも精神。


 離着艦の訓練はもの凄く気を使うので、ガリガリ削られる。

 特にナミブの甲板は、どう着陸しようが左右どちらかにブリッジ構造体が来る。

 つまり、建物が最大展開の翼のすぐ横にあることになる。


 ナーバスの数値は関係無く、精神への負担が大変なのだ。


『優秀なテストパイロットは数が足りないからさ。降りたら甘い物を用意しておいてあげるから』

「……褒めてもらえるのは嬉しいですけど」

『あー。……あのね? そう言う意味じゃ、なかったんだけどな……』

 

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※タッチアンドゴー

 着陸態勢から滑走路にタイヤを接地、そのまま今度は離陸する。

 と言う訓練。

 燃料と時間の節約の他、離陸やら旋回等々の訓練にもなっているそうです。


 軍用機が夜中にやって騒音問題などになっていたりしますが

 訓練自体は空母の艦載機だけ、と言う事では無く、普通の飛行機でも

 普通に行うらしいです。


 作中で如月がやらされてるような訓練は、危険すぎるので

 たぶん現実ではやらないでしょうね。

 まぁ、訓練じゃ無くてほぼ実検みたいですけれど。


※都合によりサブタイトルが予定と変更になりました。

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