第66話 感謝してますよ、今のところは

「専用機を用意してもらえて、テストに時間と燃料を使わせてもらえる。すごく光栄なことなんでしょうけど」

『まさか、拗ねちゃった……?』


「事実の羅列です。普通に感謝してますよ、今のところは、だけど。……あと三回やれ、って言われたらさすがに多少拗ねます」

『二回なら良いんだ……』



 機体としてのCP612に関して言えば、見た目はほぼ変わらないけれど、結構なヶ所が改造されている。

 理由は、俺が乗れてしまうから。


 例えば今、ぶら下げているライフルは、銃身が通常の二倍くらい長い。

 メカチーフが“趣味”で開発した、射程五キロを誇るウルトラロングレンジスナイパーライフル。

 スピード勝負のアールブと、超長距離射程兵器。全然あわなそうな気がすごくするんだけれど。


 そこはともかく。

 長いだけならまだしも、やたらと重い上に、取付が機体重心からかなり右にズレていて、空力はパーセンテージが出るくらい、あからさまに悪化する。

 銃だけでなく、マウントまで自分で設計したチーフが、――まさか普通に離陸できるとは思わなかった。なんて言ってるくらいで。


 って、……殺す気かっ! 

 せめて無線のスイッチ切ってから呟いてよ……。

 カタパルトで離陸できる速度まで、強引に加速されて放り出されるんだからさ。

 離陸出来なかったら、それは死ぬじゃん。マジで……。



 優秀なパイロットと言うなら姐さんの他にも、特技専には112のカヌテ中尉が居るけれど、あの人は部隊のエースパイロット。

 データ取りなんかやらせて良い訳は無い。


 そこそこBAに乗れて、しかも。“余ってる”パイロット、なんて。

 アフリカ方面軍どころか、地上軍全体を見渡しても俺くらいしか居ないだろうけど。

 

 

「それに、そこまで文句がある。と言うわけでも……」

『私が汎用機に乗れないからね、そこはゴメンだけど』


 ねえさんは左腕が動かないからね。操縦桿が一本しか無い、世界で一機のマルチスティック仕様の自分の専用機しか乗れない。

 それにチーフがとりたいのは、最新鋭全領域機7rsの挙動じゃなくて、アールブデザートのデータだもんな。


「まぁ、姐さんが気にすることでもないし、立場的にやることでも無いでしょ。それくらいはわかってるつもりです。いったんアウト。――CP612からコントロール、2番に前方よりアプローチを開始するから許可を求める」


『コントロール了解。CP612、アプローチを許可する』

 スピードが落ちて一気に甲板が迫ると、機体がわなないて平行が取れなくなるが、強引に押さえつける。


 甲板に叩き付けられるような感覚と共に、タイヤが鳴いて白煙を上げつつ、甲板に書かれたマークのど真ん中を通過するのに成功、背後のエンジンの音が大きくなる。

 あっという間に甲板がなくなり、一瞬落ちる感覚と共に、再び空へ飛び上がる。


 別に自動でそうなってるわけじゃなくて、俺がやってるんだけど……。



「CP612からコントロール、タッチアンドゴーを行った」

『コントロール確認、引き続きCP612は整備班長、サイード少尉の指示に従え』

「612コピー、引き続きチーフに従います」



『オーケイだ612、やっぱりだいぶバランスが崩れるなぁ。今のはお前じゃなきゃ着陸を諦めるとこだ』

着陸中止ゴーアラウンドで良かったんですか!? 先に言って下さいっ!!」


 ――危うく甲板に叩き付けられるとこだったじゃないすかっ!


『普通あの状況ならやめると思うんだが……、自信があったんだろ?』

「……そこは否定しないですが」


 もちろん、出来ると思わなきゃヤラないけどさ。

 ――ヤバいかも。くらいは事前に言ってくれても良いよな。

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