第14話 クレセント特務少佐が命じる

 オストリッチの残骸が爆風と共にコンテナにあたり、三機ほど横倒しになる。


「多分うかつに爆発はさせない方が良い。コンテナの中身が何だかわからない、転んじゃマズいものが入ってるかも、だからなっ!」


 最悪。俺やマニィさんみたいに、緊急避難で入った人がいないとも限らない。

《命令受領。コンテナ損傷回避ミッションのプライオリティをさらに+2》



「え? うごけな……。ちょ、な。――ラギ君! ここどこ! これはどう言うこと!? なにしてんのっ!!」

「え、マニィさん……?」


「ここは、もしかすると、“RDあの機体”の中。なの……?」

「なんて言うか、そう言うことに。なりますね」

「ちょっと待って、なんでそんな事になったの!?」


《緊急。ボギー1、主武装、当機を指向。大出力レーザーと推定》 


「マニィさん、ちょっとゴメン! ――残り一発しかない! ……爆発もしない方が良いとしたら、どこ狙ったら……、がっ!」

 かわし損ねた。

 そこまで痛いわけでは無いが、左のももにショックを感じる。


 ――左大腿部正面やや左にレーザー擦過。全光束の12%が命中。

 ――パッシブバリア、出力正常。73%の減衰に成功。

 ――対レーザー皮膜の一部が蒸発。熱により装甲第一層に計測不能の軽微な歪み発生、自動修復開始。

 ――動作に支障なし。システムチェック。オールグリーン。


 ちくしょう! まずは走り回って狙いをつけさせないことだ!



「オストリッチだけで無くターミガンまで居た……!? 完全にこちらの行動は連邦にバレてたってわけだ……。全く。上は無能ばかりで、ホント」


「アレは、……ターミガンて言うんですか」

「そう、雷鳥ターミガン。連邦はBAバトル・アーマーに鳥の愛称をつける。……こんな辺境にエース級を投入してくる、“これ”がなんなのか、知ってるってことね」

《ボギー1の機種呼称をターミガンに変更》


 いまさら名前はどうでも良いけど。――エース用なの? あれ!!

「まだ数が少ないからエース用の専用機扱いのはず。オストリッチ後継の高性能機。ほら。専用塗装パーソナルカラーだし、肩に撃墜マーク、あるでしょ?」

「6つ、……六機も撃墜してるってことですか?」



「でもね……。あんなのひけらかしてる時点でド三流ってことよ。私、完全撃破だけでアレの八倍強だよ。もちろん私のアールブには撃墜マークなんて書かないけどね」


 なんか声に張りが戻った気がする。――撃墜数が多すぎて、書くとこ無くなっちゃうもの。……いや、今、そこを張り合われても。

 でも五〇機前後、墜としてるってこと!? 



「そんなことより、ラギ君! ナーバス繋いでるのっ!? しかも、……66ぅ!? なんてバカなことしてんのっ!!」

「え? これが普通じゃ無いのっ!?」


「ナーバスは一種の思考コントロールシステム、つまりはセンサーが検知したものを直接知覚してパイロットの運動思考の、……えーと。単純に言うと、考えただけで操縦できる装置なの! だから装脚戦車よりBAの方が相性は良い。アタマも手足もある、人間と同じカタチだから、かえって動かしやすい。ここまでおーけー?」


「はい、まぁ」

 なんとなくそう言われると色々納得出来る気はする。


「だからって、訓練無しで動かすなんて不可能、事前調整無しでコネクトが成功する人だって、見たこと無いんだけど! 何が、どうなってるの!?」

 後ろの席からマニィさんの言葉は続くが……。

 正直なところ。どうなってるんだか、俺が知りたい。

 でも。


「だから、攻撃をもらったときの衝撃も痛みとして伝わるんだ」


「ダメコンからのフィードバックも来てるですって!? ――ダメージ情報なんて知覚させると思う? 莫迦バカなんじゃ無いのっ!? そんなんじゃ、恐くて誰もBAバトルアーマーなんて乗らないわよ! 腕がもげたらどうするつもり!?」


 さっきまで気絶してた人とは思えないテンションで怒られた。

 理不尽な! 俺、なにもしてないのに!


 さらに声のトーンが上がる。

「AI! 私、ルビィズのクレセント特務少佐が命じる。今すぐナーバスのシステム全体を解析、掌握しオーバーライド! パイロットへのダメージデータフィードバックを全面カットの上、パイロットをクレセントに変更!」


《少佐の要請は、不可能な事項が含まれるため拒否。当機は全て正常に管理、運用中。対象が無いためオーバーライドは不可。現パイロットは当機の操作に不慣れ、かつ当機の詳細調整も未了のため、他の手段での運用不能》


「あなたは解析システムのAIじゃなくて、この機体そのもの。だと言うの……? だったらなんで、起動して……。いいえ、今はそれは良いわ。なんで私でなくその子にリンクしたの?」

 


《少佐では“ナーヴァス”の適合係数が不足、接続不可。係数不足で“ナーヴァス”マニューバは不能》

「バカにしてるの!? ナーバス起動にそんな条件は聞いたことないっ!!」


《リアルタイムセンディングディレクションでのフルマニュアルマニューバなら操縦は理論上可能ですが、左上腕部の傷害箇所で全神経がほぼ断裂しているため左腕の動作が不能。現状操縦自体が不可能と結論》


「え、そこまでの怪我だったの、これ。――。確かに左手は動かない、どころか。……ウソっ! 感覚がまるで、無い?」


「痛てっ! ちっくしょう! ――マニィさん、ゴメン! ちょっと揺れます!」

「……え、きゃう!」


 ちくしょう、地味に手足に当ててくる。実体弾だったらヤバいところだ。

 しかし、いくらバリアとコーティングがあるとは言え、出力絞ってるクサいのはなんでだ?

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