第76話 人間性なんて求められてない
再びナミブメインブリッジ最上階。
自分のシートでやや不機嫌な姐さんと、その横に立つ俺。
「……たかが制服に着替えるだけで何をもたついてるの、あの子は」
「ローラも女だし、環境も違うし。その辺はあんまり……」
俺は自室に回って、シャワーを浴びて着替えた上で
割り振られてはいるけれど、まだ自分の部屋も使えないし、ローラだって女の子だからシャワーも着替えも、多少の手間はかかるんだろうし。
「男女は関係ない。下着を脱ごうが、着替えが見たい人がいるなら見せてあげたらいい。状況によっては着替えも食事も仕事のうち。ルビィズは倫理観も求められる行動も、そもそも普通と違うのよ」
「言うことはわかるけどさ、多少は多めに見てあげても」
「あら。妙にローラの肩を持つのね?」
みんな忘れてるっぽいけど、
その辺は汲んであげてもいいと思うんだけど。
「いや、今回に関してはさすがに姐さんが厳しすぎるように見えるよ?」
「……真面目な話、立場がね。ルビィズのワッペンは、考える以上にすごく重いの。もちろん物理的な意味ではないわよ?」
「そういう意味なら、俺の腕章の方が物理でも他の意味でも、よほど重いでしょうけど。でも、そう言うことを言いたいわけでは……」
「うん、ラギ君にはローラの人間性そのものを否定している。と、いう風に聞こえたかも知れないね。だけどさ、正直なところ。この赤いマークを付けることになった時点で、その人にはそもそも。、人間性なんて求められてないのよ」
姐さんの右手が、動かない左腕に付いた、ルビィズのマークを撫でる。
「全てを合理的に判断するため、くだらない
「……彼女のあれは、一般的な振る舞いとは言いがたい気が、確かにするけどさ」
「ま、それはそれで問題よね。あの子は奇行ばかりが言われるけれど、その原因。根っこのところで実に人間くさいのが、かえって問題なのよ。――実際には、悪いことではないんだけれど。そこは少し、怒らなくちゃいけないかな……」
「姐さんは、アレが人の言動としては正しいと?」
「もちろん大間違いよ、当たり前。――但し、少なくても本人は正解だと思ってるって話。……勘違いしないで欲しいんだけど。悪い娘じゃ無いのよ? ホントに」
姐さんは、表情を曇らせて少し姿勢を崩す。
――でも私以外の人が何か言っても、聞かないしなぁ。気が重いな。
そう言って――ふわっ、とのびをする。
ローラのことは嫌いじゃ無いんだね、ちょっと安心したよ。
『居住区の主計班長より艦長へ報告。ルビィズ、ハーベイ特尉が1stブリッジに上がられます』
「了解だ。ご苦労だった、あとはこちらで預かる」
『イエッサー』
十数秒後。――ピピー。ブリッジ最上階に電子音が響き、向かって右の端に付いたドアの上、壁に赤いランプが付く。
ファーストブリッジ最上階にエレベーターが付いた合図だ。
ゲスト扱いの人間が乗っている場合、艦長が承認しないとドアが開かない。
艦長がデスクのパネルに手を伸ばすと、ランプは緑に変わりドアが開く。
「特務隊アウローラ・ハーベイ特務少尉、入ります!」
真っ赤な制服に赤い軍帽。目の前の椅子に座る姐さんと同じ見た目ではあるけれど。
さっきとはだいぶ雰囲気が変わって見える。
本人が気にしてた通り、パイロットスーツは若干幼く見えるかも知れないな。
背筋を真っ直ぐ伸ばして目の前を通り過ぎ、アームで持ち上がった艦長席を見上げる位置で気をつけの姿勢になって、司令と目を合わせる。
「特務隊ルビィズのハーベイ特務少尉であります! 特技専司令エリク・スペンサー技術中佐、並びにナミブ艦長フェルナンド・マッカーシー少佐に機材の引き渡し報告、並びに着任挨拶にまいりました!」
「改めて。私が特技専司令のスペンサー中佐だ、ハーベイ特尉。貴官の勇気ある行動により、補給物資は無事到着した。これで停滞している作戦を動かす事が出来る。最大限の賛辞を送らせてもらう」
「いえ、任務を遂行したまでです」
……さっき、ツイてたって言ってたよね?
「艦長のマッカーシーだ。機材の件は助かった、俺からも礼を。そして着任ご苦労。以降、宜しく頼む。……ところで。来るなりそうそう、ちょっと挨拶が派手過ぎはしないか? あれは
艦長としても遠回しな嫌味で文句を言うしかないのか。
「騒ぎを起こした者は明日以降、何らかの懲罰を科す。来てそうそう、すまないな」
艦長はナミブの総責任者で少佐なのに。ルビィズのパイロットでしかない少尉、見た目もそれこそ小娘のローラに対して、気を使わざるを得ない。
さっきの姐さんの話はこれか。
すげぇな、ルビィズ。
「思うより騒ぎが大きくなったことはもちろん、そもそも特務官の振る舞いとして適切で無かった旨、謝罪します」
あれ? 素直に謝った……?
「悪ふざけに乗ったボクの責任でもあります。どうか懲罰は無し、どうしても懲罰が必要ならならボクも対象として下さい」
「あー、なんだ。ハーベイ特尉。しかしだな……」
「軍内部において暴力をコミュニケーション、などと言う風潮は廃絶すべき。と啓蒙しなければいけない立場でありながら、簡単に挑発に乗る。自身のことながら、そんなことはあってはいけない」
たぶん、監視カメラの映像と音声で確認すると、売られたケンカをイヤイヤ買った。みたいに見えるんだろうな。
直接見てた俺には、自分で煽ったようにしか見えなかったが。
なんかズレてる感じではあるけど。
でも、話をしてみた限り。それくらい簡単にできる程度にはアタマが良いんだよ。
コイツならその程度、言動に仕込んでておかしくない。
「あ、いや……。わかってれば良い話だ、ハーベイ特尉。何しろ耳目を引く立場であり、これから当面一緒に居る仲間でもある。以降は言動に気を付けてくれ」
「お気遣いはありがたく……」
艦長が困っていると、横から司令が会話を終わらせるための助け舟を出す。
「任務完了と着任報告は現時をもって承認する。あらためてご苦労だった、ハーベイ特尉。さっそくだがこのままクレセント特佐の指揮下に入り、以降の命令を受けてくれ」
「イエッサー!』
ビシ! っと敬礼をすると、振り返ってこちらへ戻ってくる。
背が小さいなりに決まってるな。さすが本物のエリートは違うわ。
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