第75話 個人差、ってあるからなぁ

「髪はともかく、あとは身長だ。……145ではさすがに不足だ。ボクは、適正な運動と、栄養バランスの計算をかかしたことが無いんだが、まだ伸びない」


 なんか態度はデカいが背は低いんだよ。

 身長は俺だって低いが、あからさまに俺より目線一つは間違いなく低い。

 ぶっちゃけ、145って吹いてないか?


「……身長は人種とか個人差、ってあるからなぁ」



 パイロットスーツの宇宙用補機を外し、ジッパーを半分降ろしている彼女。

 スーツのお陰で、おっぱいのおおきさはジッパーの開いた部分から推測するよりほかないが、たぶん姐さんには太刀打ち出来まい。

 目指すなら。まずはそっちの方が個人的には嬉しい。



「なにを言う。ボクは成長期だぞ? 遺伝学的にはコーカソイドが強い、人種的な平均身長を考えればまだ身長は延びる」

「成長期って。……えーとハーベイ特、尉?」


「臨時だろうと同じくルビィズ、ボクのことはローラで良いし、階級はともかく、別に上官ではないから口調もそれで良い。こちらもキサラギ、で良いか?」

「むしろそれで。なら、改めて。――ローラ。で良いのか?」


「ボクもそれが良い。階級で呼ばれるとバカにされてる気がする」

「そこはホントにエラいんだから、しょうがないじゃん」


 大尉相当官、とすれば第1小隊長にしてBAバトルアーマー隊統括、中隊長のサロン大尉と一緒。

 確かにエラいだけならめちゃエライ。


「被害妄想みたいなところもあるんじゃ無いの?」

「それは、多少の自覚はある」


 ま、確かに階級以外でどう呼べばいいんだよ。って言う話だよな。

 ……考えようによっては、なんか可哀想な気もしないでは無い。


 この見た目で全てが優秀なローラは。

 きっと、人の何倍もイヤな目にあってイヤなこと言われたんだろうな。

 そして姐さんは、そのローラをキチンと拾った。

 あこがれるのも解る気がする。

 

 でも、なんであそこまで“普通”で居られるんだろう。姐さんは。

 同じくイヤなことを見聞きして、イヤな思いをしただろうに。



「だいたい成長期って、ローラはいくつなんだよ」

「十五だがなにか?」


「お、同い年だったとは……」

 ……人の事は言えないが、軍人としてBAに乗っちゃいけない年齢じゃ無いの?


「ボクは、キサラギのことは事前に聞いて居たからそこまでじゃないが。……そんなに意外か?」


 ――パイロットスーツだと若干幼く見える傾向はあるな。そう言いながら自分の腕や足を点検してるが。


 うん、そう言う問題じゃ無いんだよ。

 姐さんや司令が認めるウルトラエースの一角が、こんな可愛い女の子とか。

 考え方によっては悪夢だ、っていう話だよ……。



『こちら1stブリッジ。CP612、応答せよ』

 胸に付けておいた無線機に受信のランプがつき、俺のコールサインを呼び出す。


「おっと! ちょっとゴメン。……CP612、ラウド&クリア。ブリッジ、どうぞ」

『艦長から、――あと一時間半で到着するから、その場で待機せよ。とのことだ。色々忙しいんであと、よろしく」


 今の今まで放置しておいて、――あと、よろしく。じゃねぇ!


「あの、ちょっと待って通信長。こっちの……」

『特士、復唱どうした?』

「い。イエッサー。612は現状待機、コピー」


『おーけい。じゃ、そう言うことで。1stブリッジ終わり』

 ――ぶつっ。

 俺の返事が終わった瞬間、受信のランプが消える。

 忙しいのはわかるけど、扱い。ぞんざいがすぎるんじゃ無いの?


 ナミブのシルエットは、実は一時間以上前から見えてるんだけど。

 一緒に黒い煙が三本上がってるのも見える様になった。

 ホントにつくんだろうか、たった90分で。

 と言うより。走っても大丈夫なんだろうか、あんな状態で。


「しかし同い年な、言葉を交わすこと自体が面白く感じる。こうしたことを経験値、という言い回しで表現するんだろうか」

「は? え、っとなにが?」

「今まで、センパイ以外で年の近い相手と話したことがほぼ無かった。会話自体が実に興味深い。――あぁ、そうそう。年の近いものと話すときに聞いてみたいことがあったのだ……」


 この雰囲気で長く持たすの、ムリ。

 ……頑張れ、ナミブのエンジン! 早く着いて、お願いっ!

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