第74話 秒で却下された。

 BAバトルアーマー第一小隊と第二小隊は、何度か入れ替わって上空で哨戒についている。

 そして何故だか俺だけそのまま残るように言われ、ずっとアウローラ・ハーベイを名乗る少女と一緒。


 そう、ヘルメットを外した彼女は、思わず目を奪われる綺麗な栗色の髪。抜けるような白い肌に吸い込まれそうなアイスブルーの大きな、それでいて気の強そうな瞳が印象的で。

 同い年くらいの、パイロットなんかやってちゃいけないような美少女だった。


 一,二小隊が交代で、切れ間無く3機のBAバトルアーマーが周囲を警戒する、と言う事で俺と“彼女”は機体から降りて時間を潰していた。

 なんで俺だけ帰してくれないんだよ……。



 岩に座り込んだ俺の隣。並んで腰掛けるルビィズカラーのパイロットスーツ。

 とは言え俺が着てるダークレッドのスーツとは、宇宙空間用追加装備がついて居る以外、色以外は何かが変わるわけでも無いんだが。

 それだけでエラいゴツく見えるもんだな。


 こうして話している分には、多少上からで気が強そうに見える以外、ただの女の子。

 上から目線に見えるのは、多分に喋り方に問題がある気がする。

 そして、それなのに話すのがすごく好きなタイプみたいだ。

 俺はちょっと苦手なタイプかも……。



「センパイが、任務の都合で地上から戻れなくなり応援を要請していると聞いて、是非手伝いに行きたいと言ったのだが、総隊長権限まで使われて秒で却下された。非道い話だとおもわないか?」


 彼女のいうセンパイ、はもちろん、同じくルビィズのエマニュエル・クレセント特務少佐。姐さんのことである。

 二人並んで歩いてたら、着てるものが軍服だろうと絶対目を引くだろうな。



 ……でも、話してる内容。

 司令だけで無く、姐さんでさえ特務隊の総隊長は“大変な人”だ。と言う認識である。


 ついでに言えば階級は上級特佐、佐官になっているし、特務隊権限においては准将相当官なのだけれども。

 実は将軍の中でも、参謀本部長とか防衛局作戦部長とかの、めちゃめちゃエライ人達と同格なんだそうで。


 彼女はその、ルビィズ指揮官である上級特務大佐に、

 ――自分を地球に降ろせ。

 と直談判した上で却下されたらしい。


 そして支援物資投下作戦に便乗して、無理やり降りてきちゃった。と。



「総隊長も、あぁ見えて実際は頭が固くていけない。やはり三〇を過ぎると柔軟な考え方。と言うものが、根本からがむつかしくなるのかも知れないな」


 たぶんそんな事を言うのはこの子くらいなもので。

 実際にはルビィズ歴代の中でも、横紙破りの総隊長として有名なんだそうだ。



「だが、タイミング良く、地上への荷物護衛の仕事が入ってそこに敵襲があった。ボクはツイていると思う」


 結局、地球に降りるためにやったのは、コンテナを守るため宇宙空間で戦闘をした上で、BAバトルアーマーモードのまま、大型コンテナの落着位置を調整しつつ、機体もコンテナも壊さないで、予定された位置にいくらでも近づけつつ降りる。

 と言う、安全を考えたら絶対に誰もやらない行動。


 彼女が居ないと、ナミブのエンジンは直せなかった、とは言え。


 ……怖い物。無いのか、キミには。



「おまえのBAの師匠がセンパイだとは幸運だぞ。あの人はルビィズの中でも間違い無く最強、つまりは新共和軍パイロット全員のトップだ」

「……そうなんだ」



「だから腕が動かなくなった、と聞いて心配すると同時に落胆もしていたのだが、その状態で3機撃墜したと聞いた」


 それは良く知ってる。

 そんとき、後ろの席に乗ってたからね。


「さすがはセンパイだと叫びたくなったものだ。センパイはボクの憧れなんだ。今後ボクもあんな感じなっていきたいと思っていてな……」


 言われてみると髪型が、初めて会った時、短くする前の姐さんみたいだな。

 爆風に金の髪がなびいて、場違いなのに綺麗だ……。なんて思ったっけ。

 

「まだルビィズに入る前のことだ。戦場を見渡すセンパイの髪が風に嬲られて、同じ女だというのに、ゾクゾクするほどカッコ良かったのだ」


 ……同じ原体験を共有してる感じ?

 ゴリゴリの実力主義なのかとも思ったが、わりとカタチから入るタイプなんだな。


「髪型だけはよせてみたが、やはり色が悪いのだろうかな」

「いやいやいや! 髪型はともかく、髪は綺麗でしょ?」

「染めてみようかとも思ったが、それはやらない方が良いだろうか?」


 姐さんに似せるかどうか。

 それを横に置けば綺麗な色で、無理やり金髪になんかする必要は無い気がする。


「個性も大事だよ、マジで」

「褒められたことが無かったが……。好意的に受け取っておく」

「イヤミでそんな事を言うほど、イヤなヤツじゃないと自分では思ってるよ」

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