第73話 誤解の無いように
「
ブリッジの最上階。
司令も艦長も、俺が敬礼するまでは目があってたんだけど。
その後こっちを向かずにいるのは絶対、意図的だよな。
「で、ラギ君。あの子は?」
「着替えたらすぐ、ブリッジに出頭する、って言ってたけど」
「状況的には、パイロットスーツのままでもすぐ来るのがスジでしょうに。全く」
ナミブに回収され、着替えてブリッジにあがってきたので、小隊長に帰投報告。なんだけど。
なんだか、やたら疲れた顔の姐さんに一応敬礼して返ってきた答えがこれ。
「ローラは姐さんのこと、目標とすべき尊敬するセンパイだ、って言っていたよ?」
姐さんは、わりと苦手な感じなのかな。
「彼女とは“カテゴリ”がほぼ同じでね。カテゴリについての詳しいことはブリッジでは控えるけれど、懐かれてる理由はそれが一番。……嫌だ、とかそういう事では無いから誤解の無いように」
「まぁ、その辺は」
「それで? なんで陸戦隊第一分隊のサレ先任曹長がノビちゃったの?」
赤い機体をナミブに回収して直後。
当番とか待機になってない人たちが、赤い機体とその持ち主を取り囲んだ。
俺から見た目の連絡は入ってる。気になるよね、もちろん。
でも。口元に笑みを浮かべながら。
――赤い服を着たガキがエラそうに、うむ、ご苦労。などと。
――気に喰わないかね? ボクは見た目通りの小娘だよ、曹長。
――拳で黙らせてみるのはどうだ? ふふ……、実力主義は望むところだ。
なんて。
少なくても、それは言わなくて良かったよな。
「仮にも特務士官が、下士官にケンカ売ってどうすんのよ……!」
「それは俺に言われても」
特務少尉なんだから、大尉相当官。
エラそう。では無く、あの喋り方が普通なのかも知れないけれど。
「あの見た目に欺されちゃったんでしょうね。態度も必要以上ににデカいし。見てた限り、あの良い人代表みたいなサレさんが簡単に乗せられた、とか言えるかも」
たった数言で相手を激高させる。それはそれで才能かもな。
姐さんはその辺、わりと話し方が旨い。
やろうと思ったら、実は簡単にできたりするんじゃ無いかな……。
「反省文と始末書、さらに三通づつ追加、あーもうっ! なんで私が! ……あの子は、ホントにぃ……!」
と、姐さんの肩の力が抜け、――はぁ。ため息を吐く。
「あの、姐さん? ……サレさんの、ケガの方は?」
格闘技なんか素人だけど、体格は倍以上あるサレ曹長が、くの字に曲がって吹っ飛んだのは素直に、――すげぇ。って思った。
掌底ってあんなに威力があるもんなんだな、なんて改めて感心したり。
「もう意識は戻ってるって。一時的な呼吸不全と、脳しんとうによる失神だそうよ? ――打撲以外の障害はみうけられないが、アタマを打ってるから今日は大事を取って寝せておく。ってさっき、
「俺が言うのもなんだけど。アレについては、多少の情状酌量の余地も……」
「普段から私の左腕の件だけでも、先生に要らない手間をかけさせてるのよっ!」
で、誰のことを話しているのか。
話は約三時間前まで遡る。
「あのハッチから降りたのは初めてだな……」
何気なく振り返ると、
戦闘機モードとは、降り方も出てくる場所も違う。
「特士はフルネームはキサラギ・ロスマンズ、と言うのだよな? ……ファーストネームが極東アジア、というかチャイナやニホン風だが、そちらの出なのか?」
「物心ついた時点から既に野良子供でね。名前も含めて正直、良くわからないんだ」
良く言われるんだよな、正規の表記だと
なんか意味があるんだと思って調べたら二月。ってなんだよそれ。
一応、唯一持っている公式記録みたいなもの。それに記載された誕生日になってる日にも当たらないし。
語感が旧日本語っぽい、以外にはなにもありゃしない。
鼻が低くて髪が黒い。顔も東洋の血が入ってんだろうな、とは自分で思うし。
名前を変えるのが面倒だ、と思っただけで。例えば野良のプロであるジョンのように、名前を変えること自体には抵抗がないし、その機会は何度かあった。
「それはすまなかった、そういうつもりは微塵も……」
「気にしなくて良いよ。邪魔くさく思うなら、ここまでいくらでも名前は変えられたんだけど。……みんなに言われるからさ。正直、もう慣れた」
超巨大コンテナと一緒に降りてきたRB041のパイロット、ハーベイ特務少尉。
合流を果たしたそこに、ナミブが到着するのは7時間半後だからそのまま待機しろ。
そう言われて機体の中で待機だったんだけど。
アールブの
その後、
――疲れたろう。危険は無い様だから降機を許可する
と、艦長から無線が入り。
今隣に居る、赤いパイロットスーツと共に砂漠へと降りた。というわけだ。
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