第56話 戦闘など、埒外なのでね

『甲板長から艦長、カタパルトの展開準備はしなくて良いのですか?』

『そのまま畳んでおけ、舷側の追加装甲代わりだ。BA第2小隊は必要ならサイドハッチから出す、1番2番とも即時解放準備。――ハンガー、メカチーフ!』

『なんだよ、艦長。今せっかく面白い話を聞いて……』

『黙れ、急ぎだ。待機中のBA2小隊の1番機、2番機を左右サイドハッチ前に移動、すぐ出せるようにしろ』

『後部エレベーターの順番待ちから外すのな? ――イエッサー。ただちに移動を開始する』




[ほう。街を見殺しにするつもりか?]

[それを我々に言うのはお門違いだ。自警団から方面軍本部に要請がない限り、我々が状況に介入することは無い。自主的に武力支援をすることは法的にもできない。その為の自治政庁、そして自警団だ]


[貴様等、何の為の軍隊だ!]

[我々に限って言えばRDの収拾、研究のための部隊だよ。そもそも戦闘など、埒外らちがいなのでね]




『艦長、電波発信位置特定!』

『どこだ!?』

『本艦絶対座標で11時12分29秒、距離836.5』


『そんなに近いのか、巫山戯ふざけやがってぇ! そのままCICに送れ! ……艦長から砲術長、聞いていたな? 、主砲の目標は電波発信源。弾種変更、徹甲弾から対地榴弾接触信管、三斉射。主砲砲塔、並びに砲座は基本位置のまま。まだ、動かすな』


 目標って。……喋ってる人を、戦艦の主砲で撃つの? マジで!?


『イエッサー、標的座標、弾種変更確認、開始』

『CICから砲術長、座標データ、送る』

『こちら主砲管制。弾種変更まで30秒を見込む』



[スペンサーと言ったな! 貴様の居るブリッジへ、直接打撃を与えるとなっても同じ事が言えるか!?]

[もちろん同じ事は言わん、降りかかる火の粉は打ち払うまで。権利もあるし、そのための武装もある。なにしろ、それなら迎撃は義務になるのでね]



『バリアの起動は出来ているな?』

『パッシブバリア現在アイドル、臨界まで二秒』

『アクティブバリア起動待機、展開位置の指定があれば0,5秒で展開可能』


『アクティブ展開位置はブリッジ構造体全体に設定、別命あるまで待機。――対空砲座。予想ではミサイルが14本来る。1番2番、5番6番が迎撃にあたれ。ウォータークラウンの二の舞になったら今度こそ、ただじゃ済まさんからな!?』

『イエッサー。18機までなら全て打ち落として見せます』



[戦闘向きで無いと言うなら、素直に荷物を渡した方が良いぞ]

[聞けんな。我々も一応軍隊、任務は絶対なのでね]

[荷物を渡さないと後悔するぞ!]


[今でも後悔しきりだよ。こんな部隊の司令など、受けるのでは無かった。とね]

[テメェの一人語りなんか知るか! 交渉は決裂した、ブリッジを吹き飛ばせっ!!]



『対ミサイル防御! 対空砲起動、バリア展開! ブリッジ遮蔽開始!』

『速報! 対戦車ライフルと思われる弾体がブリッジ構造体上部に着弾!』

『イエッサー、バリア展開完了、最大75秒の保持を保証』

『ブリッジ遮蔽完了、外部映像投影、異常なし』


 メインのデータ画面と、黒い遮蔽シートの裏側を写すモニターの数カ所にデータが表示され、もの凄い勢いで更新されていく。

【 Attention ! change Condition 《Phase 5》 】

 特に警報も鳴らずにフェ-ズの文字が赤くなって、戦闘状態を示す最高の5に変わってる。

 

 司令が話しながら何かの指示を出したんだろう。

 


 船から外を映した画面が三枚開き、一枚目には土煙、他の二枚には光の粒が、尾を引いてこちらに向かってくるのが見える。

 ――ミサイルだ、アレ!!


『速報! 熱源の発生を感知、複数の小型ミサイルと思われるものの飛来を確認』

『対空砲照準、打ち落とせっ!』

『艦長より全部署、着弾に備えよ!』


『ダメージコントロールより報告。到達した小口径弾、七発で確定』

『ミサイル12機の飛来を確認、着弾まで4秒』

『パッシブバリア、出力100%到達』

『艦長より関係全部署、オールウェポンズフリー! BA隊、偽装解除! 対ミサイル防御を最優先!』



 ピー。電子音と共にステイタス画面は、

【Combat status : All weapons free】

 に変わり、武装使用可の表示があちこちに出る。

 一気に視界が開け、目の前には何も無い砂漠の荒野。


 

『ブリッジに着弾したものは、目視によるミサイル照準用曳光弾と推定、うち一発が装甲第一層まで貫通。ブリッジ機能に異常なし』

『対空砲以外はまだ待機だ!』


 通信モニターに前触れ無しに姐さんの顔が映る。

『RB037から112、並びに612。両機とも戦闘準備、BA戦を想定!』


 メインモニターに出た“セブンス”出現予定の機影が濃くなり、たくさんの矢印や注意書き、ターゲットマークが被さる、


 但し、今になっても。ランパスが網膜に直接描き出している予測とはズレている。

 そしてランパスはそれを直すつもりは無い。


『艦長から全部署、全艦、戦闘態勢に入れ』

『0012、全艦に戦闘態勢発令。繰り返す、全艦戦闘態勢発令』


『砲術長から対空迎撃以外の各砲座、照準合わせ!』

『全ての窓の遮蔽を確認、灯火管制解除』

『甲板長からコントロール、前甲板にミサイルの破片と思われるものが到達中』

『ミサイル全弾、迎撃成功』



 夜空にいくつも膨れ上がる火球で2枚の画面がホワイトアウトする。

 そしてクローズアップされた土煙の画面。

 右肩に、宇宙戦艦と同じ型のビーム砲を背負った赤と黒の巨人が立っていた。

 そしてその両脇。第一小隊のアールブⅡがライフルを構えていた。


『速報! ミサイル残存物の一部が甲板に到達。被害無し』

『次弾の発射、確認出来ません』

『艦内全部署、被害報告無し』

『アクティブバリア、一時出力停止。0.3秒で再展開可能』

『111よりCIC、敵機はセブンス、目視で確認。データ回します』


 やる前から勝負は決まった。これ以上は弾薬と、そして命の無駄使いだ……。



『通信長、アフリカ方面軍に一報。廃棄したはずのセブンスが外部に流出しているのを確認した。……我々の立場上ユーロに知らせざるをえんことと、既にルビィズが把握している旨もあわせて伝えろ』


『イエッサー。――こちらハルツール所属GAC002……』


『さて、何人処分されるかね。すぐバレる小銭稼ぎに走りやがって……』

『艦長、憲兵隊本部の監理課長、ナセル大尉です。どうしても艦長に出て欲しいとのことですが……』


『わかった、回せ。――ナミブ艦長、マッカーシーだ。課長様が夜勤とは珍しいな。現在状況中のため手短に。いわゆるニコイチの状態で稼働しているセブンスを一機、目視で確認。さらに一機の出現を予想している、二機分を組めるパーツが、外部に流れてるぞ』


『しかし少佐。廃棄BAのパーツとなると、我々憲兵隊といえど迂闊に……』


『俺の分を超えた進言とも思うが、たった今から内部監査を始めることを進めるよ。ユーロ所属の司令が相当アタマに来ている、特務隊も直接目で見ているんだ。ナセル、この件。対処が遅れたら叩かれるのはアフリカ憲兵隊だぞ……』

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