第57話 強制的に全面排除する。

[スペンサー! 貴様、始めからわかって……]


 今まで黙って相手の話を聞いていた司令が、今回は割り込む。


[気づいていようがいまいが。状況は変わらん。先ほどRDの収拾が任務だと言ったが、当然それを守ることも任務の内。……それとも、闇マーケットの火器と、素人が組み立てたニコイチのBA2機、なによりジャンク屋崩れと場末の寄せ集め傭兵。……本気で勝てるつもりだった。などと、言うつもりかね?]



『112から612! 起動音を拾った! 出てくるぞ、ロスマンズ!』

 土煙はCICの指示通りの場所から上がる。

 だがランパスの指示は変わらず別の場所。


[少ない戦力で相手を脅そうと言うなら、武器は見せるだけ。使用してはいけないのがセオリーだ。実際に使用した場合、間違い無くカウンターを喰らう、当たり前なのだよ。……この状況、先に手を出した時点で貴公の負けだ]


[ご、ご大層な戦術論など……]


[戦術も無しに軍隊にケンカを売るなど、頭が悪いにも程がある。……寝言なら寝て言うのがスジというものだ。お陰でたった今、貴公の仲間、約190人は全員、この場で人生が終わることになった]


[いくら軍隊でも無差別に殺すなど……]

[段取りは踏み終わった。殺人でも虐殺でもない、自己防衛のための反撃だ。――但し、言うまでも無く降伏は一切認めない。貴公等は全面排除の対象となる]


 降伏を、認めない? なんで!?



《RB-07の諸元を確認しました。この距離ならアールブのライフルでも、フルバースト射撃ならバリアフィールドの復旧が、四発目から間に合わなくなります》

 ランパスは、ことここに至っても。位置については全く気にしてない。


 でもよく見ると、土煙だけじゃ無い、茶色のスモークも混ざってる!?

 だったらやっぱり。……ランパスが予測した場所の地面からも土煙が上がる。

 ――ランパスの予測が、アタリだ。


 これ、中尉からは死角だ! ――112、カヌテ中尉にコール、……って。なんで気がついたか、言えないじゃん!!


「ナーバスリンク数値変更、最大値! 射撃管制に全ブリ!」

『急にやる気出してどうした、ロスマンズ。お前は立ってるだけだと特佐も……』 




[貴公の名前を聞かなかったのは済まなかった。さして興味があるでも無いが、永遠に名乗る機会を奪ってしまうことについては、多少心苦しくは思っている。特に謝る気もないがね。……恨むなら私では無く、貴公等の無能なリーダーを恨むのだな」


[スペンサぁあ! 貴っ様ぁああ! ランチャー撃て撃て! ブリッジを潰せ!!]


『速報! ミサイルと思われる熱源体の複数発生を確認』

『対空ミサイル防御、全てにおいて最優先! 全弾叩き落とせっ!』

『ミサイル、15機の飛来を確認、続いて第2派12機!』

『CICからミサイル管制、敵ミサイル発射位置の座標を送る』


『111から113、余裕はある、指示があるまでは撃つな。ゴツいだけで鈍い、セブンスじゃアールブには着いてこれん。牽制、攪乱しつつコクピットを照準』

『113、コピー』



[艦長、特佐。……敵は武力をもって、A級軍事機密奪取を仕掛けてきた事が確定した。また、不正に重火器、並びにBAセブンスを手に入れ、戦闘可能な状態で稼働させこちらを恫喝、実際に実弾を発砲、さらにはミサイルを発射した。ここまでは良いな?]


[間違い無い、ですな]

[私の現状の認識と、差違を認めません]


[よろしい。……以上の事実を持って、該当集団を新共和政府に対する攻勢テロリストであると認め、只今よりこの場の敵性集団構成員を強制的に全面排除する。排除対象に例外は無い。……特技専ナミブ艦隊全隊、状況開始]



 強制排除、と言うことはまぁ、殺せ。と言うことだ。

 つまり今までの会話の中の何処かに、司令の命令を担保する単語があったんだろう。


 でも無線で喋ってるのを聞いてる限り、わりと冷静だと思ってたけど。

 想像を遙かに超えて一番ブチギレてたの、司令だったわけだ……。


 そして意外なことに、艦長は最後までそれを止めようとしてたんだな。

 あまり大ごとになると、アフリカ方面軍全体の問題になるから。……かな?



『い、イエッサー! ……艦長より各部署。これより敵性部隊全ての強制排除に入る! 車両一台、歩兵の一人足りとも逃がすことは許さん。これは命令である! ……全艦に通達、状況開始っ! 全砲座開け!』


『主砲三斉射完了、着弾確認。即時射撃可能状態で待機中』

『ミサイルは距離の近い順に、敵ミサイル発射位置を狙え! 5番から7番、撃て! ラグ20秒で8番から11番、標的は同じく!』


『CICから各部署、敵部隊車両、戦闘員にデータマーカー付与、目標は現在152。データ確認乞う』

『対空砲了解、マーカーに従う』

『主砲は一射ずつ構造物、及び車両を狙え。優先順位は任せる』

『ミサイル管制コピー、弾着まで7秒、ラグ20秒で第二撃。8番から11番!』

『砲術長コピー、車両を優先して狙う』


『艦長よりさらにミサイル管制、照明弾全弾放出! コントロール、甲板長、仮設を含めライトを全基点灯! 全砲門射撃継続! ウチの地上部隊に当てるなよ!?』


 目の前がいきなり昼のように明るくなって、たくさんの火球に、車両や人のシルエットが飲み込まれて消えていく。

 



 そして土煙の中、ランパスの出した“セブンス”位置予測とほぼ同じ位置に、CICの出現予測がズレて重なる。


『なんでそっちに!? ……ラギ君、至急後退っ!!』

『予測位置が、……ズレた? 612の正面だと!? 下がれロスマンズ!!』


 そして予測画像が2枚とも消え、リアルタイムで捉えた画像に改めて注意書きの矢印が突き刺さり、ガンサイトや情報が重なる。


 既に肩のレーザー、角度はナミブを確実に狙っているし、マシンガンも中尉の112を照準しているのがわかる。



 

「全火器、フルバースト!」



 対人用火器や信号弾まで、搭載した撃てるものは全部撃つ。

 俺がコケても、あとはカヌテ中尉が間に合う。ランパスの計算なら3秒。

 それだけ稼げれば、後はどうとでもなる。



 バリアが光を無くし、コクピット部分が凹み、ハッチの装甲が弾け飛び、守るものが無くなった鉄板に次々穴が開く。

 腕が歪んで関節が垂れ下がり、手が粉々になって、ライフルが地面に落ちる。


 右の胸、凹んで曲がった装甲がめくれて、そのスキマに対人グレネードが飛び込み、レーザーを発するはずの砲口が火を吹く。

 レーザー砲のジョイントが配線や部品をバラまきなから歪み、肩と背中から外れて。もげる。


 250m先、突然現れた巨人はボロボロになって、ただ立っていた。そして。

「すいません中尉! 612、弾切れです!!」


『いいや。ロスマンズ、よくやった!』

 カヌテ中尉の放ったライフルが一発、コクピットから背中に貫通すると。

 鉄の塊は巨大な火球になって、想像以上の大きさに膨れ上がった。


『112からコントロール、“びっくり箱2”の撃墜を確認』



 周囲からはまだ爆発音が上がり、ランダムに火球が出来ては消える。

 作戦行動という名の一方的な虐殺は、もう少しかかりそうだった。

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