第55話 いったい何の用だね?

無線ラジオに制限をかけたのは良い判断だね。これから通信料は膨大に跳ね上がる、全部聞いてたら頭がおかしくなるわよ?』


 ランパスも同じ事を考えて、規制をかけたんだろうけど。


 ルビィズ仕様に準じる調整になっているから、それが出来る。と聞いたのでそうしていた。

 状況がわからないのは、なにも周囲だけじゃ無い。

 軍隊が何をする人達なのか、軍服を着てるのに俺はなにも知らない。


 だから、そこまでわかった上で。

 姐さんもあえて、知らんぷりをしてたんだろうけど。



『データ揃えるのに、思ったより時間かかっちゃった。遅くなってごめん、出現が予定される機体のデータを送る。見ておいて。何かあれば最優先で出るから呼び出して。こっちもちょっと立て込んでるから、今はこれで。037、アウト』



【BA-07Ns/e セブンス 重力下仕様】

【主武装:右肩部ビームカノン×1】 

【選択武装:アサルトライフル・重金属メイス】

【※機体ナンバーは特定されていない】


 正面のデータが表示されるディスプレイにロボットの三面図と諸元表が表示される。

 あぁ、これ。前に姐さんの“授業”で見たことある。


 新共和が史上初めて“再発明”したロボット兵器。“セブンス”。

 妖精に滅ぼされて以来、始めて実用域に達した最強機動兵器、BAバトルアーマー


 10mを超す巨体の余剰空間を生かして、機動兵器なのに搭載されたバリア。

 センサーだけで無く機体制御にも使うナーバス。

 歩兵隊や戦車隊、そして同じくナーバスを搭載した装脚戦車隊まで。

 連邦地上軍の全部隊に、『シルエットが見えた時点で部隊壊滅確定』とまで言われ、恐れられた機体。



《マスター。先ほどの被害想定、報告の続きは必要ですか?》


 要らない。――人差し指をあげる。

 ナミブに大穴があいてほぼ死人が出ることが確定している。

 それ以上詳細に聞いても意味なんか、無い。


びっくり箱Jack-in-the-box及び、同2の呼称をセブンス1、セブンス2に変更、最新の情報に更新。データを再精査、再計算開始》

「出てくるのはセブンス。……BAバトルアーマー、セブンス……」



 全身がセンサーの塊、しかもそのセンサーとパイロットをつなぐナーバス。


 異常な程の戦果を挙げたセブンスは、当初全く予定をしてなかったのに。ほんの半年で地上型が開発され、実戦投入された。

 地上に配備されたのは、ほんの四〇機前後らしいが。

 その、たった四〇機が当時支配権を失いかけていた南米から連邦軍を駆逐し、中東からヨーロッパにかけての支配地を増やした。


 変型も出来ず、重すぎて、解体して運ぶ以外拠点間の移動さえままならない機体が存在する。

 ただそれだけで、新共和地上軍は劣勢を跳ね返した。


 型が古かろうが関係無い、BAが出てくるなら他の兵器はほぼ無効なのだ。



 とは言え、BAなのである。

 戦車や戦闘機だって。軍隊以外は、動かせないどころかまともな整備さえ出来ない。とは何度も聞いた。

 BAとなったらもっと大変なはず。

 なんで盗賊団が、複数機を持ちだしてくる?



【Detect important radio : sound only】

 ――重要な通信? ランパスがそう判断した無線がやりとりされているらしい。

 この後に及んで、重要じゃ無い通信なんて。あるのか?


《関連通信をそのまま回します》




『……ちょっと待て通信長。本当だな?』

『間違いありません、艦長。国際オープンチャンネルAに“部隊の責任者”あてに通信が入っています。現在、通信1が回線確保中』


『まぁ、良い。回線を俺のところに……』

『私が出よう。艦長は場合によっては、私の指示にあわせて状況開始するよう』

『い、イエッサー。各部署は戦闘準備継続。……司令席に防音パーテーションを展開しろ』

『イエッサ、パーテーション展開、試験完了。現在。減衰率75%』


 ……状況開始。は要するに戦闘を開始しろ、ってことか。

 でも、なんで艦長が慌てた?

 もしかすると、司令の方が考えてることが、艦長よりも数段過激なのかも。

 艦長は脅して武装解除させたら、あとは自警団に引き渡すつもりだった。と思うんだけど……。


『では、そのように頼むよ艦長。……通信長?』

『イエッサー、通信1、国際Aに入った通信を司令席につなげ。――艦長、特佐、CIC、そして自分にも音声だけ回せ。それと発信位置の特定、大至急だ』

『通信1、コピー。通信を司令席へ転送。通信長の指定各所へは傍受限定でつなぎます』

『通信3、コピー。発信位置の特定を全てに最優先』

『CICコピー、通信ログバックアップ準備完了』



 ちょっとしたノイズが乗ったあと、モニターの文字に、国際オープンチャンネルが傍聴する回線に入った事を表示する。


[お待たせした。私は新共和防衛機構、ユーロ/アフリカ特殊先史技術専任調査隊、司令のスペンサー中佐である、貴公は何者であるか?]


 そのまま司令の声だけども。

 イメージとは逆にオープンチャンネルの方が音質が悪い。 

 軍用ってなんでも、リソース使い放題だからな……。


 

[我々は反新共和組織、黒き砂塵の旅団、俺はその実行部隊長だ!]

[なるほど、旅団長殿では無い、か……。私に直接通信を送るなど、自身で礼を失するにも程がある。とは思わんかね?]


 司令、もしかすると事を穏便に済ませる気が。……無い?


[何故、新共和軍に礼儀を払わねばならんのか、俺にはわからんね]




『通信長。至急、自警団と自治政庁に敵性勢力を調べさせろ』

 艦長の不機嫌な声。これは向こうには聞こえてないんだな。

『イエッサー。通信2、急げ』


『至急、至急。こちらはハルツール所属、機動強襲空母GAC002ナミブ、自警団本部α1応答乞う。――大至急、黒き砂塵の旅団を名乗る組織の実在と、その構成員について調査を依頼します。なお……』



[反政府組織が、目の前に戦闘部隊を展開させて、我々にいったい何の用だね?]

[先日、ウォータークラウンで出土したRDレガシーデバイス、全て引き渡してもらおう]


[貴公等に引き渡す道理が無い。拒否をした場合のこちらのリスクは?]

[通信終了一時間後、デザート・ピークの街が灰になるぞ]

[ならば好きにすると良い。我々には直接の関係は無い。自警団とアフリカの群司令に警告くらい送ってやるが。出来るのはその程度だな]


 規定上そうなっている、とは事前に聞いたけれども。

 司令が淡々とそれを言うと、いかにもな感じでもの凄く冷たく感じる。

 

 そして司令の普段、優しげで紳士なおっさんの顔。それを知ってるだけに怖さ倍増。


 今のは、

 ――街がどうなろうと、私の知ったことではない。

 と、言い切ったのといっしょ。



 普段から誰も逆らわないはずだよ。艦長の数倍怖いじゃん……。

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