第109話 どうするつもりですか?

「で。上からの命令じゃ仕方がないからね。だからまずは偵察機301で状況を確認しよう、と言うことなのよ。で。――ブリッジのクレセントからCICシライさん、ここまで聞いてた?」


『こちらCICシライ少尉。……マニィ、話が見えたから簡単に報告だけ。まだ精査が終わっていないのだけれど、301から来たデータを見る限り、手持ち武器はともかく、重火器の類は所持していない。周辺五キロ以内に別働隊の気配も現状無し』


「集団の構成割合はわかる?」

『これも未検証の速報値だけど。男女比率は約4:6で女性優位、未成年者と思われるものの割合は最低約27%、身体になんらかのケガ、もしくは機能的障害があると思われるものが、全体の約19%。とても戦闘を前提とした集団には見えない。偽装で無ければ、だけど』


「ありがとうシライさん。忙しいところゴメンね、ありがとう。――さて、支援は良いですが。ここからどうするつもりですか? 艦長」


 姐さんが若干イラついてるのはわかる。

 今、ナミブはランパス移送の任務中で、彼女はその任務のお目付役としてここに居る。

 そして予定は笑っちゃうくらいに遅れてる。

 本人はそこまで気にしてないとは言え、仕事は仕事。そこはおろそかになる訳が無い。


「足が遅いなりに、デザート・ピークともだいぶ離れてしまったしなぁ」


「あの、艦長。一つ良いっすか? ……あの類の人たちとは、新共和も連邦もなく、お互い知らんぷり。見ない、聞かない、触んない。ってのがお互い、一応のルールだったのでは?」


「まぁ、ラギはもちろん知ってるよな。……基本はそうなんだが。そうも言っておられん状況になったらしい」

「プライドを捨てなくちゃいけない状況になった、と言うことっすか?」


 さっきのシライさんのデータに関する報告。

 重火器の所有は無し。男女比率4:6、未成年者が27%、ケガをしてる人が19%。

 つまり……。


「ヤツらの居住区(コロニー)が武装集団に墜とされたらしい」

「シライさんの話でも、そこは裏が取れてしまいましたね」


 襲われて逃げてきた人たち、と言うことなんだろうな。


「街の奪還がなったとしても、住人の構成比率からいって自活はほぼ不可能、なので近隣自治領に編入して欲しい。という話だったんだが。……艦長だ。オペ、アジュンワ兵長」


『はい艦長』

「大きさは問わない。近隣で、防衛軍の駐留する一番近い自治領は何処か?」


『イエッサー、すぐ調べます! ……主要七自治領では無いですが、約80キロ先にグランドロックがあります、メインタウンにはナミブが横付け可能。人口は直近データで二万三千。新共和の駐留武官十一人の他、独自の自警団257人を擁しています』


「ありがとう兵長、仕事に戻って良い。……特佐、一〇〇キロほど遠回りすることになるが」

「ランパスをどう扱うか、総監部(そら)と話が付いているとなら、もちろん私から。いえ特務隊からなにかを言うところでは無いですが」


 通常倉庫は今のところあふれんばかりの状態になっている。

 となれば、一,〇〇〇人規模の難民となったらハンガーに収用するしか無いけれど。

 そこには軍事機密であるアールブはもちろん、新共和政府の機密でもあるランパスが“居る”

 アイツがさっき自分で気にしてたのは、それか。


「総司令部からの私に対する返答は、見せても良い。なのだが。――特佐。総司令部、いやこれはもう政府か。……何を考えていると思う?」


 あぁ、司令がどうでも良さそうにみえるののはそういうことね。

 機密だなんだって言いながら、力で口止めが出来ない民間人に見せてイイのかよ。って話だよなぁ。

 自分はさんざっぱら苦労してるからね。

 ……苦労したのは俺のせいだけど。


「恐らくは。……どうせ動かないものなら、あえて環境に変化を与えて様子を見よう。と言うことなんでしょう。アレは現状の技術ではどうしようも無い、ワケのわからないキケンなモノだ。として再三再四、報告しているにもかかわらず、そんなことを考える。抑えの効かない総司令部や特務隊含め、対応としては下の下です」


 そして同じ理由で姐さんは怒ってると。


 俺はこないだ、見ただけで銃殺になりかけたんだけど。

 運用が適当すぎるんじゃ無いの? 軍規。



「私見ですが。なにか間違ったら、アレ一機でも世界そのものが滅ぶ可能性がある。その認識が足りない、ともみえますね」

「特尉の言う事は一理ある、かも知れん。軍はともかく新共和政府うえはな……」

「俺が聞いた話だが、総司令部、と言うか防衛局自体はかなり難色を示したらしい」


宇宙そらまでは影響が及ばない、とでも思っているのでしょうが」

 ――大消滅の日、宇宙空間でも大規模な損失があったことは事実なのに。


 姐さんは、そう言うと横を向いてため息を吐いた。

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