第110話 ほぼ間違いなく、見てる

「ここで武装を解除してください。ナイフ、カッターの類もいったんお預かりします」

「ボディチェックを行っています、女性の方はこちらに」

「ここから二列に並んでください。押さないで!」

「通信機器、撮影機器の持込は認めません、ボディカメラなども外して係の者に渡してください」

「終わった方はそのまま前に進んでください。艦内で毛布と食料の配給を行っています」



 陸戦隊は総出、MPの腕章を巻いたナミブの憲兵隊も5人全員。

 接触した「難民」の対応にあたる。

 事前の情報よりも、子供やけが人がかなり多い。

 

 ナミブ側面、前よりの2番ハッチが解放され、チェックの終わった人から次々とナミブの中に入ってくる。



 場所的にBA格納庫なのだが、作業や発進に支障がないことは確認ができてる。

 但し目隠しのシートやらは当然間に合わず。

 アールブだけでなくランパスも普通に見える状態になっている。

 だから司令や姐さん、一部の技術系の人達は機嫌が悪い。


 もともと所属しているアフリカ方面軍からの要請なので、艦長以下のアフリカ出身のクルーはそこまでじゃ無い。


 これはあとで艦長から聞いた話だけれど。

 アフリカ方面軍は住人からの対感情を、もの凄く気にしてるらしくて。

 だからこういう軍規も何も無いような命令が、たまに出るのだそう。

 でも。こんなの、 "現場"としてはたまったもんじゃないよな。


 もともとアフリカ所属の艦長達は諦めたのか慣れてるのか。

 戸惑っているのはユーロ所属組の人員達だけなのがまたなんとも。

 最も防衛局そらのうえからも、同じ命令が司令にも落ちてきているんだけれど。



   

「ねぇ姐さん。前に、ナミブと地上型アールブは基本的に機密の塊だとか聞いた気がするんだけど」

「それは今でもその通りよ。こうして大公開してしまっているけれど」


 で、今俺が何をしてるかというと。

 格納庫指揮ブロックの中央に設置されたランパスのモニターの前。

 ランパス本体を正面にみて、明らかに機嫌の悪い人といつも通りの無表情。赤い服を着たその二人と並んで立っている。

 俺たちから少し離れて、司令と艦長も腕組みで作業を眺めている。


 実作業を監督する役目も必要、と言う理屈はわかるけど。

 姐さんのこれは、やりたくないからそういうポーズをしてる。って言うことなんだろうな。


 いつも通りに見た目無愛想なローラはともかく、姐さんが機嫌が悪い理由。これは艦長たちもわかってる。

 格納庫への難民収容に反対していたルビィズに手伝ってくれ、とはいくら何でも言えないわけで。


「それだけじゃ無いわ。見られて困るとすれば格納庫(ハンガー)には、機密とすれば国家クラスのランパスも"居る"のよ?」

 ため息を一つ付くとランパスを見やる。

「そして逆に。……”彼女“も多分。この状況を、私たちを。ほぼ間違いなく、”見て“る」


「なにかランパスの気に障ったら、世界の1/7を滅ぼし始める?」

「キサラギ、評価の定まっていないものに対しては、予断をもって判断すべきではない。七機で世界を滅ぼした、という文献は発見されているが一方。一機で全てを滅ぼせない、とはどこにも書いていないのだ」


「現状は、何を基準に行動原理が決まるのか、まるで不明。前回だって、なんで私たちを助けてくれたのか。それさえ、わかっていないからね」

「ランパスが、難民を見てブチ切れる可能性もあるってこと?」


「無いとは言えまい。なにしろ相互の意思疎通はできないと聞いた。……センパイ?」

「そうね。いずれ。可能性がゼロじゃ無い以上、余計な事はしない方が良い。と思うのだけど」


 そうこうしているうちにも、ハンガーの整備スペースには人の塊が出来上がりつつある。

 女性や子供の比率は、事前のカウントよりも相当増えそうだし、けがをした人や、やたらヤツれた人はそれ以上に多い。


 ん? なんか違和感。見えてるものがいつもと何か違う?

 ……! ランパスの出力モニターがゼロ以外を指してる!

上がり始めた瞬間に、メカの人たちがこんなもんだろう。と仮に設定した100%のグラフをあっさり振り切り、備考欄は【300%以上・計測不可】の表示になる。

 ……エンジンはかかっていない。ジェネレーターも停止中だから、無音のままだが。


「姐さん! ランパスのメーターが、振り切れたっ!」

「MP及び陸戦隊! 特務官権限によって対暴動鎮圧行動準備開始を指示します!」

「特佐、なにごとだ!?」

「司令。彼女が……、自身の意思・・で、目覚めました……!」


 鉄色だったランパスがグレイと紫のラインに色を変え、紫のラインが発光を始める。

 なるべく見ないようにしていた感のある難民たちも、蛍光紫に光る飛行機っぽい機械に目を引かれる。

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