第50話 無能部隊だぞ!?

「ま、ジョンは生きてたんだから死体なんか無いよな。……ケヴィンもハイジもダメだった。身体は見つけてもらったけれど」


「わかってたって。直接聞くとキっツいな、それ……。ホントにハイジも死んだのか? ……アイツは殺したって死なねぇと、思ってたのに」


 知り合いは全員死んだ、と思っていたから連絡もしなかったし、戻りもしなかった。

 そこだけ取り出すとドライなヤツに見えなくも無いが、思い出したくないから。だから何もしなかったらしい。

 捻くれては居るけれど、仲間だと思えば過ぎるくらいに優しいヤツでもあるんだ。

 仲間だと思ってくれるまでハードルが高いんだけど。


 

「あぁ。新共和軍に丸一日かけて探してもらったんだ。結局見つかったのは死体だったよ。サリドゥもカチュアも見つけてもらったけど、……でも、死んでた」


 ハイスクールでの二人の共通の友人達、と言うことは。

 彼のハイスクールでの数少ない友人の全員、と言う事でもある。

 司令や艦長に無理を言って、事態収拾に忙しいさなか、かなり優先して探してもらった。……結果。全員、見つけてはもらったが既に亡骸だった。


「……そうか」

 ジョンは吐き出すようにそれだけ言うと、向かいの席に力なく座る。

「だから、てっきりジョンは死体も残さず粉々になってしまったモンだと思って……」

「心配させたのは悪かった。……“仕事の都合で”ここ暫くこっちに来ててな」



 スペンサー司令には、ジョンは遺体も見つかっていない。と言われた。

 ジョン・ドゥ自体が死体の隠語でもあるので、司令はかなり微妙な顔をしていたが、そう言う名前だから仕方が無い。

 生きて居るなら、まぁ遺体は見つからない道理だけど。


「仕事、って。……ジャンク屋みたいなことをしてるって言ってたけど、今何してんだよ」


 そう、ジャンク屋。そう自称する人達がけっこう砂漠には居る。

 戦闘が起こった場所に大型トラックを連ねてクレーンを持って駆けつけ、スクラップや装備品はもちろん、壊れた銃やミサイルの不発弾まで回収して闇のマーケットに流す。


 儲かる儲からないで言えば、間違い無く儲かりはするんだろうけれど。

 “仕入れ”から“流通”、“販売”と、素人目に見たってリスクしか無い。


 だからその手の集団は、盗賊団や武装集団と何らかの繋がりがあるし、なんなら盗賊団そのもの、と言うグループも普通。

 そしてジョンはなまじ器用なので、その手の集団からのスカウトも良く受ける。

 でも彼らとは距離を置く、と言うスタンスが彼の立ち位置だったはずだけど。



「裏読みしなくても良いっての。そのまんまの意味でジャンク屋の手伝いだよ。……そのカッコ、例の船に居るのか?」

「さすがにナミブは、知ってるか」

「ここ2,3日、デザート・ピーク中大騒ぎだ」


 ナミブは、あえて街には“入港”せず、ここから一〇キロほど離れた街道沿いに停泊(・・)している。とは言え“世界最大の陸上戦艦”であるナミブは、何もしなくたって目立つ。

 自警団や自治政庁に関係のない人達も当然意識する。

 そしてそのデカさ故、街の近所まで来たなら、食料や雑貨も買い出しするだろう。

 船が来てから、目の利く商売人は動き出していると言うことだ。



「色々あってさ、家も無くなったし。だから、手伝いをするのを条件に、あの船に置いてもらうことにしたんだ」

 ただのアルバイトが、准尉の階級なんか付けてるわけが無いけれど。

 でも階級章なんか内部の人間以外、マニアでも無ければどうでも良いわけで。



「キサラギ、おまえ。……あの船に居るんだな?」

「今、そう言ったろ?」

「今晩、あの船を抜けられるか?」

「は? おいジョン、それはどう言う……」


 ジョンは周りを見渡すと、顔を近づけて小声になる。

「お前、あの船にはいつからいる?」

 日付。遡るんだったな、そう言えば。

「襲撃の少し前から、……かな」


「おいおい、……なら、わかんだろ! アールブが居て、ルビィズまで居たのに、オストリッチで襲撃されて抑えきれなかった無能部隊だぞ!?」

 艦長が聞いたら、笑顔で聞き流したフリをしつつ、アタマから湯気立てて怒りそうだな……。



 アレについては姐さんでさえ、作戦で負けた。と言って肩をすくめるほど。

 気付かれずにBAを近づけて待ち伏せ。――そう言う戦術は今まで無かったのだ。と言って、実戦経験の豊富なCICの女ボス、シライ少尉や、実際にオストリッチの迎撃にあたったカヌテ中尉までが、本気で悔しがってた。


特技専ウチでなかったら、ランパス起動の有無は問わずに艦を沈められていた。……なんて、な。やれやれだ」

 各所からあがった報告を、艦長と二人で丸二日かけて分析し、報告書を書いた司令は、げんなりした様子でそう言った。


 なぜげんなりしていたか。と言うのは簡単。


 後で聞いたところ、アフリカとユーロの方面軍はおろか、宇宙そらの防衛局の本局までがその、司令の言い分を認めたから。

 つまり、“特技専で無ければ全滅だった”。と言う、いかにも無能部隊が言い訳クサく提出したように見える報告書が、公式に通ってしまった。


 司令の性格だと、その手の報告は凄くイヤだろうな。

 艦長はカモフラになって良い。って笑ってたけど、その言葉のドコまでホントだか。

 絶対そうは思ってないよな、あの顔。

  

 但し。アールブが優秀で恐ろしい兵器で有り、連邦のオストリッチはそれには及ばない。と言うのは兵器に詳しくない人でもみんな知ってる。

 つまり、一般的にはジョンの感想になるわけだ。



「悪いことは言わない、あの船からとっとと降りろ。あの部隊じゃお前の命の保証は無い」

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