第51話 みんな、死にたくないからな
「まぁ、な。……でも、なんで今日なんだ?」
「俺は表の仕事しか手伝ってないから細かいことは知らんが。あの船、何かお宝が積んでるらしい。ってのは、知ってるか?」
あの船で“お宝”、となったら言わずもがな。
ウォータークラウンの近所で“出土”した“遺跡”がたくさん、軍用コンテナに詰め込まれて格納庫の一部を占拠してるが。
ないはずのロボットが連邦のオストリッチを撃破し、最新鋭機ターミガンさえ中破、撤退に追い込んだ。
たぶん、知ってる人はみんな知ってるだろう。
ジャンク屋で知らないなら、それはモグリだろうな。
「え、と。……アレ、ただの軍艦じゃねぇの? ま、まぁ、ウォータークラウンでなんかコンテナはたくさん積んでたけど」
命がけで
考えなくてもランパスで確定だよな。
「それだな。お互い中身は知らんなら知らんままの方が良い。で、それを狙って今夜、武装集団があの船を襲う手はずになってる」
「まさか、お前も加わるのか?」
「それこそまさか、だろ。――ヤツらもバカだバカだとは思ってたが、まさか臨戦態勢の軍艦を襲うなんて、そこまでバカだとは思わなかった。……俺は理由を付けて、一昨日から明日まで休みなんだよ」
打算的な行動を取らせたら、ジョンの右に出るものは無い。
不確かな情報を元に軍隊にケンカを売る、そんなのは一番彼が嫌うところだ。と言うのはわかる。
「秘密兵器があるとは言ってたが、たかが知れてる。絶対返り討ち、どころか出たヤツ全員殺される。明後日の夜には街に残った構成員も自警団に皆殺しにされ、家族も女子供関係無しに半殺しになって全員掴まる。そこまでは確定だ」
「そんなもんなのか?」
「軍隊の強さは機材と数と、何より練度。さらには組織。ぼんくら部隊とは言え、ただの盗賊団風情が、ケンカ売って良い相手じゃない」
言ってることは正しいだろうけど。……ぼんくら部隊は確定なんだ。
「その上。どうやらあの船とは、ここの自治政庁と自警団も全面協力することになったようだし。そこまでのブツなら、ものは何だか知らないがまず手に入らない。手に入れてもサバく前に殺されるし、上手くサバけてもその後、やっぱりソース隠匿の為に消される。換金なんか、絶対できない」
「でも、そこまでやるか?」
どう転んでも。エラくあっさり殺される前提だけれど。
「武装集団やらマフィアやらは、下っ端の命なんか水の入ったバケツより軽い。キサラギも知ってんだろ」
「でも自治政庁やら新共和政府もマフィア並みだ、って言うのはちょっと違和感が……」
自警団がイメージを遙かに超えて過激なのは良く知っている。
普段だって、状況によってはパン一本。盗んだだけで射殺しかねない。
盗むこと自体は悪いだろうけど、問答無用で心臓をショットガンで吹き飛ばされるほどの罪ではない、と思う。
ドコの自警団も、その辺は変わんないだろう。
そしてさっきの、行政長官さんや自警団の大尉さんの態度を見れば。
ユーロとアフリカの精鋭を集めた特技専、さらには
これが襲われて大事な荷物が奪われた、なんて事になれば連邦と繋がってるのかも。と言われても言い訳できない。
じゃあどうするのか? なんて。……改めて考えるまでも無い。
「簡単な話だろ。――宇宙から超遠距離射撃の一発で街ごとクレーターだ。新共和にしてみたら、後で連邦の協力者だった。って、発表すれば良いだけ。自治領の一つや二つなんて、もとから痛くも痒くも無い。……だから自治政庁も自警団も目の色が変わる。みんな、死にたくないからな」
情報を入手次第、ショットガンを背負ったバイク、フル装備の団員を乗せた兵員輸送車、天井にガトリングガンを装備した装甲車、武装を満載した戦闘ヘリが、急行するだろう。
治安活動用の機材だ。と主張するためにカタチだけ取り付けた、回転灯や点滅灯を光らせて。
特技専を軽くみてケンカを売る愚か者達とその仲間、必要なら家族まで。全てを死体に変えるために。
対象になった“賊”が、たとえ末端の非武装構成員だろうと。
自警団に協力する気が無い、もしくは抵抗した、と見なされた直後。
事情聴取はおろか、逮捕拘束を飛ばして全員射殺、もしくは撲殺。
名前がわかったなら次の日には家族さえ、裁判を飛ばしてマシンガンとショットガンで穴だらけ。
なにか間違ったら集落ごと、ミサイルで瓦礫の山にだってなりかねない。
そうしなければ、こんどは自治領全体が。いや、もしかしたら、近所の自治領までまとめて吹き飛ばされるかも知れない。
新共和軍にケンカを売って、誰かが生きのこる未来なんか。……見えない。
「普通に考えられるアタマがあれば。軍にケンカは売らないよなぁ、確かに」
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