第9話 そのまま寝てて下さい

 コンソールに繋いだマニィさんのヘッドセットを見る。

「まだ充電、終わんないか」

 “完了まであと11′32”の表示が出ている。あと一〇分か。

 もっとも、終わったところで使う人は寝てるんだけど。


 コンソールからゴチャゴチャとケーブルが、あのゴツい飛行機みたいなヤツに繋がってるけど、これだってなにかを調べるためのものなんだろうし。

 アレを動かすためのものでは無いわけで。


「超化学の機械なら、自力で起動して助けろよ! 人間が死にかけてんだぞっ!……まったく。どうすりゃ良いんだよ、ホント」



 そう言えばロボット三原則、なんて言う概念があるんだから。

 ここで俺が命の危機なんだから助けて当然、とか。


 とは言え。果たして、データ管理AIをロボットと呼んで良いか知らないし。

 コンソールのディスプレイは真っ黒。現状は起動さえしてない。

 それに机がどうやって俺とマニィさんを助けるんだ、って話だ。

 見えるところにはロボットアームさえない。


 自力じゃどうにもならなそうだけど。

 助けてくれるヤツなんか、もっと居ないよな……。



 そのコンソールのランプが突然、一部明滅を始めて。たくさんあるディスプレイの何枚かに灯りが点り、仮想ディスプレイも二枚、立ち上がる。


「なんだ?」

【Disassembly complete.】

 椅子に対して正面のディスプレイに表示が出る。

 なんで立ち上がった?



《・・・Can I help you?》

「助けてくれるのかよ? デスクのくせに」


 人工音声に旧国際標準語で話しかけられる。……技術系のものなんかは、旧時代の技術を使う関係上、統一言語はあるけれど今でもつかう。


 だからハイスクールに通ってるなら読み書きは一応できる、建て前になってる。

 俺でさえ、今。できてるくらいだ。

 だけど。なんでわざわざ? 



「サポートAIかなんかなの? なんでいきなり起動したんだよ。……まぁ良いや、――俺の話していること、わかる?」


《You may not be able to understand it because you haven't learned enough.

Instructions should be in simple words.》


「なんで言語が学習不足なんだよ、わかんないな。……なら、なるべく簡単に話すけどさ。面倒くさいから、そっちも俺と同じ言葉で話してよ。できる?」

 

 真面目に勉強してて良かった。なんか言い回しが微妙な気もするけれど。

《OK. Now switch languages.Please let me know if you can't understand.》


「良いよ。わからないときは聞き直す。……外の状況はわかるか?」

《Please wait for a while switching languages・・・ 切り換えを完了。接続されているインターフェースの数、精度とも全てが適正値を大幅に下回り、入力情報が不足》


「わかる範囲で良いよ。外の戦闘はどうなってるか、わかる?」

《現存するデータから三七分前に発生したと思われる戦闘状態。これは継続しており外部映像モニタの範囲外で発砲、爆発に起因する音声、振動などが現状も検出されています。ただし、外部映像モニタでの確認範囲内は移動する物体なし。半径300m以内では現状戦闘行為を確認出来ず》


「わかった。なら、コンテナ内にカメラとかセンサーは設置されてる? かなり大変な怪我をした人が居るんだけど認識、できてる?」


《デバイスに接続します。……完了。左上腕部に重篤な負傷があると思われる女性を確認。目を閉じていること。並びに自発的動作や発声の無い事から意識不明と仮定。付近の状況から、大量出血によるショック状態の可能性を示唆》


 思ったより状態が悪かった。……どうしよう。


「……どうしたら良い? 俺ではどうにもできない!」

《治療のための薬品はありませんが、状態を確認するためモニタリングの必要性を示唆。但し、現状では必要なセンサーが不足し、モニターは不可。医療用センサーの設置を要請》


「要請されてもなぁ。簡単な回路の設計と半田付けくらいだったらできる。その辺に使えるセンサーとか無いのか?」

「バイタルモニタコントローラ試験開始。動作、正常値範囲内、試験範囲を全使用センサーに拡大。……そのままお待ちください》

「お待ち下さいって。――どうにか出来んの!?」


 いきなり照明が点り、“荷物”の“機首”部分が照らされると外版ごと、椅子が二つ分降りてくる。

「あっちが動くの!?」


 コンソールの方にそう言ってみるが、まぁ本体があの机というわけでも無いんだろうとは思う。

 ヘッドセットをケーブルから外す。


「えーと、椅子に座れってこと?」



《まず、バイタルモニタリンクを使用して容態確認をします。負傷者を後方、コ・パイロットシートへ着席させて下さい》 

 

「後ろの席に座らせるのな? わかった」


 ヘッドセットをマニィさんの首にかけて、俺のシャツとオーバースカートを俺の腕に掛け。

 彼女の脇の下に手を入れ、そっと引き上げる。

 怪我をしたところは肘のすぐ上。うん多分、大丈夫。


 ――ブラしか付けてない女の人に直接触っている。と言う事実はちょっとだけ忘れよう。


 いや、それよりも。ここまでされて目が覚める気配が無い?

 本気で不味い状態じゃ無いのか、これ!



 鉄の床、お尻から下はつなぎが敷いてあるからスベりやすい。

 意外にも簡単に引っ張れる。

 ズボンで良かったわ。スカートじゃ、また色々悩みが増えるとこだ。


 俺より背が高くて、けっこう鍛えてる感じ。もちろんデブじゃない。

 その上、今現状。上からのぞき込むカタチになっているおっぱいが、下着越しとは言えハッキリ見えている。


「着痩せするタイプ、ってホントに居るんだな……」


 こんな間近で、こんな綺麗な人の谷間が。

 引き摺る度に、なんていうか、こう。ぼよんぼよんって。


 興味がないなんて、いままで硬派を気取ってたが。

 たった今から俺は、おっぱいが大好きなのを認める事にする。

 この状況で大好きにならないヤツが居るなら。

 男女問わず、そいつは絶対アタマがおかしい。


 おっぱいこそが世界を回す原動力なのである、と俺は声を大にして言いたい。

 それはそれで頭のおかしいヤツな気もするが。


 身長のこともあるから、俺にお姫様抱っこが出来る。と言う程では無いにしろ。こんなにも軽い……。


 どうなってんの、この人……。

 なんか、可愛い要素しかないんだけど。




「む、ん。ラギ君、なの? ……どうか、した?」

 引き摺られたら当然起きるよな、いくら何でも。

「なな、なんでもないっす! ……動いてるとか知らないので、ホント、マジで!」

 ……なに言ってんだ俺。


「なにか……、動いたの?」

 えぇ。今も身じろぎをなさったので、動いてますが……。


「位置が悪いんでちょっとだけ場所変えるのに、動かしてます。痛くないすか?」

「……ん、大丈夫」

「なら、そのまま寝てて下さい」


「……良い、の?」

「ホントにヤバかったら起こします、今は気にしないで良いっす」

「ゴメン、ね」

 そう言うと一気にマニィさんの身体が重くなる。……と言っても軽いんだけど。

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