第8話 どうすんだよ。この状況

 ……まぁ、言葉ほど単純では無かったが。

 とりあえず腕に刺さった破片は血しぶきと共に、抜けた。

 その後。

 

「ぐむぅうう! ふぁうううう! むぅうううう! ――ぺっ! 終わったぁあ! いったーいぃいいい! 超痛あぁあああいいいっ!!」

 コンテナの中にキンキンと声が反響する。

 なんか始めてニコ上でしか無いって実感した。


 なんと、この人。

 止血が終わったら、ポケットから取りだした裁縫セットで、傷口を強引に縫い合わせた。


 麻酔無しで、しかもお裁縫セットで縫合手術をすれば、まあ。痛いよな。

 しかも自分でやろうなんて、俺には絶対考えつかない。

 赤い糸で傷口縫合するとか、あり得ないでしょ。普通。

 そんな痛そうな運命は要らないよ!


 そうしてとりあえず、カタチは塞がった傷に《工業用蒸留水/飲用禁止》と書かれたボトルを傾けて。

「……いだぁああああ! ぐぬあぁああああ! しみルゥうう!」

 

 “手術”の跡を流すと、中身が残ったボトルはそのまま口につける。


「はぁ、はぁ。……結構、温度高いからさ。……キミも定期的に、意識して水分補給してね?」

「……はい」


 コンテナの中にはアレが5本きりしか無かった。

 飲んで害の有るものでは無いんだろうけど。

 禁止。と書かれると多少の抵抗はある。


 傷口にシャツだった布きれを当て、上着の袖を切り裂いて作った紐で縛り上げたマニィさんは。


 ――こことここ、ちょっと硬めに縛って?


 と涙をボロボロ零しながらそう言った。

 ……もう一回、悲鳴を上げさせるの確定かぁ。

 俺にSの気が無いというのはわかったし、確認する必要も無かったんだけど。


 紐に手をかけると、肩にかけていたオーバースカートが落ちた。

 よく見ると体中あちこち、紫に腫れ上がり血が出ている。

 痛いのは腕だけじゃないはずだ。

 ……俺の、せいで。




 つなぎを二着、見つけたので一着を床に敷いてもう一着を丸めて枕に。

 マニィさんに横になってもらって、オーバースカートをお腹に、さらに俺の着ていたシャツをかける。

 もともと自分で着ていた上着はボロボロで、使いものにならないからだ。


 まともな部分も、自分で包帯とか紐にしちゃったし。

 シャツは全部ガーゼの代わりになったから、もう影も形も無い。


 まだ昼間だけれど直接、日が当たらないからTシャツだけでも平気。

 一応エアコンが動いてるようだけれど、今はすこし暑いくらい。

 真昼だから、エアコンが無かったら蒸し焼きになるところだ。


 つなぎの他には服のようなものを見つけられなかったんだけど。

 いつまで続くんだろう、この状況。

 砂漠の夜は寒い。このまま夜になったら、マニィさんは大丈夫だろうか。

 エアコンが自動で暖房に切り替わるのかどうか、知らないし。


「あ、ありがと。……はぁ、はぁ……、あーも-、無線が、おかしい! いいや、あとで見るとして。と、とりあえず、はぁ、はぁ。ラギ、君? ――あぁそれそれ。充電だけ、しといて」

 マニィさんの使っていたヘッドセットを、コンテナの中に設置されたコンソールから伸びたケーブルに繋ぐ


「あの、マニィさん?」

「ラギ君、私。すこし、だけ。休ませて。……なんかあったら、すぐ。起きるから……、だから」

「なんかあったら起こしますから、寝てて下さい」

「ゴメン、ね……」


 ふ。と笑顔になって目を閉じた瞬間、――ことん。わずかに持ち上がっていた首が落ちて、全身の力が抜ける。

 寝た、と言うよりは気を失った。と言う感じだな。これ。

 ……死んだんじゃ、無いよな。と口元に手をやる。――息はしてるか。

 胸も上下してるし。


 ――見てるのは胸が上下しているかどうか、息をしているか。なのであって、決しておっぱいを見てるわけでは無い。そこは大事な部分なのである。

 もっとも、じっくり見ようとしても。俺のシャツが掛かっている。ザックリとしたした大きさとカタチ以外、なにもわからない。



 誤解の無いよう何度でも言う。

 おっぱいを見ようというつもりなんか。半分くらいしか、無い。




「しっかしさぁ……。どうすんだよ。この状況」

 怪我をした直後から無線の調子がおかしくなった。

 コンテナの中に入ったことを、マニィさんは船に伝えていない。


 つまり、船から助けは来ない。

 だって。応援に来た人達全員、全滅しちゃったし。

 マニィさんも、多分その中に入ってる。と、思われてるだろうし。


 そしてさっきの連邦のBA、オストリッチ。アレは明らかにコンテナを狙ってきた。

 俺達は今、そのコンテナの中に居る。


 狙いとすればまさに目の前のこの機械、だろうな。

 ってことは。また来るかも知れない、ということでもある。

 あえて戦闘を起こしたくらいだし。だったら、間違い無くここは狙われる。


 アニメとか映画だったら、ここで俺が銃を見つけて立ち上がるところだが。

 せいぜいあるのは、バカでかいスパナぐらい。……何に使うんだよこれ。

 だいたい。マシンガンなんか見つけたところで、使い方がわかんねぇしその上。

 当代最強兵器のBAバトルアーマーに、どうやってマシンガンで立ち向かえと。



「発掘、とか言ってたけどさ。……なんなんだよ、この機械こいつ


 さっきも確かに、違うコンテナに直撃はしたが、着弾位置はコンテナの上端。

 頑丈なのはわかった上で、壊すのでは無く、破って中身を確認しよう。と言う風に見え無いでも無い。


 そして今居る12番のコンテナ。これが一番大事な“荷物”だ、とはマニィさんも言ってたけど。


「なんかゴツい戦闘機、って感じだけど。マニィさんも動かせないだろうなぁ。……使えねぇ」


 もっとも。起動したところで多分、マニィさんで無くても動かせないだろう。

 多分これは旧時代の、いわゆるRDレガシィ・デバイス


 現状作られている機械よりも絶対高性能。でも、動かし方を知っている人なんか、いない。そういう機械。

 発掘してコンテナに入れたばかり、まだ調査なんかしてるわけ無いんだから。




「わりと地味に逃げ道塞がれてんじゃん。……まじでどうしたら」

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