第44話 スジはスジで通しておかねぇと

「艦長、書類これ書類これとして。……頼みがあると言ってた気がしますが。――ラギ君の書類、ってことじゃ無いんですよね?」


「エンジンが死にそうでな。後方のサスもちょっと動作がおかしい」

「それを私に言われても……」

「とりあえずの補習パーツは、これはどうやら手に入りそうなんだが。――特佐にはその件で、ちょっとこの先の自治領までお使いに出て欲しい」


「陸上戦艦の予備パーツ、自警団がストックしているものですか?」

「もちろん、主要部品は丸ごとアッセンブリー交換だ。……時間はかかりそうだが、そのうち空からコンテナで落ちてくる手はずになってる」

「では……」


「とは言え。デカいだけで、走行装置の基本は既存技術の寄せ集めだからな。間に合わせなら専用品で無くて良いんだよ。……もっとも、向こうさんだって協定があるから、余裕があろうと無かろうと。こっちが要請すれば従わざるをえないんだが。そう思われるのは、これはアフリカ方面軍の高級士官としてはどうしても避けたい」




 新共和がアールブの開発、量産に成功しアフリカタワー急襲を行うまで。アフリカ大陸は地図上、全体が連邦領だった。

 そこを突然、新共和が占領したので地元と新共和政府の仲が悪い。……と言う訳でも無く。


 もともと、緩い繋がりの大きな共和国の体だったアフリカ大陸の大半の地域は、地球で連邦の枠組みを決めた時に、参加を拒んで内戦になった。

 現在の連邦政府とは、そもそも仲が悪かったのだ。

 そしてもちろん、新共和と仲良くする気だって無かった。


 だから、新共和政府は占領した上で開き直った。

 距離を置きたい。と言う地域に関しては、暫定的に政府からの援助を薄くする代わりに“自治領”としてある程度、裁量を任せた。

 警察と軍隊、両方の機能を持った自警団の設置も認め、必要な機材や武器も新共和が融通している。決して支給はしていない辺りが関係性を現してる。



 ただし、BAはもちろん戦車の類も“融通”はしない。

 自警団の相手は、大きくても組織犯罪グループか盗賊、規模が大きいとしても暴動の類。

 そうなら、アサルトライフルと装甲車で大体何とかなるはず。と言うことだ。


 連邦の部隊が相手なら、新共和地上軍が出てくることになっていて。

 だから建て前とは言え。逆に新共和防衛軍は自治領に対して、全面協力が義務づけられている。


 そして当然、目に見えて言うことを聞かない様なら自治領まるごと。今度こそ文字通り、完全に制圧される。

 艦長の言う、――従わざるをえない。はこの部分だ。



 最も。戦闘機や装脚戦車、BAなんか渡されても戦闘どころか。訓練用に動かすことすらできないのだそうだ。

 訓練を受けたパイロットはもちろん、専用のメンテ用特殊機器と専門家の技術、専用の弾薬や燃料。それらを支えるスタッフ。

 なにより、その全てを維持するお金。


 その全部が揃わなければ、普通に動かすこともままならない。それが兵器だ。

 戦車や戦闘機だって、まともな稼働状態を保つのは自警団ではほぼ不可能。


 パトランプの付いた装甲車や小型輸送機の他、中型装輪戦闘車や戦闘ヘリなんかも配備されているが、あれでもギリギリだろうな。とはメカマンの人から聞いた。


 BAなんて論外。軍隊以外ではそもそも運用どころか、整備が出来ない。機体があってパイロットがいても、まともに動かすことさえ出来ないのだ。


 電力さえあれば、後はパイロットまで現地調達。

 全て自分で何とかする。と言うランパスが規格外なだけ。


 もちろん盗賊団になんか運用出来るわけがないし、傭兵団にだって無理。

 つまりそれとぶつかる自警団には要らない、と言う道理だ。



「あー、なんだ……。一応、さ。顔は出しときたいんだよ。スジはスジで通しておかねぇとさ。――丁度、自警団本部だけで無く、自治領行政庁の本庁もそこまで離れてないんだな」

 ウォータークラウンでは行政庁は本市にあって離れていたけど、近くにある方が便利そうではある。


「なんか燃料の流量系もおかしくてな。燃料自体も少しわけて欲しいところではある」

「それは補給要請を出しづらいですね……」

「言ったろ? 基本的には既存技術の寄せ集めだからな。その辺、調子が悪くなる時もあらぁな、ってな具合なんだな。……上にはすなおにそう言うわけにもいかんのだが」

 特技専として、“アフリカじもと”には協力体制を取り付けておきたい、と言うことなのかな。

 でもそれは、司令の仕事なんでは?

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