第43話 いかようにもどうぞ

「彼の件では司令だけで無く、艦長にも色々とご迷惑を……」


「良いってこった。……司令は、彼を絶対に特技専から出しちゃいかん。と言った。俺には何だかわからんが。あの人がそこまで言うなら、それはきっと正しい。――それに」

「えぇ。私個人も巻き込んだ、と言う責任を当然感じていますので。……工廠こうしょうの技術開発にランパスとセットでラギ君を持って行かれる。と言うのは困ります」


「司令も同意見だったよ。……イスタンブールで解放できるように各方面に掛け合うと言ってた。それまでに、ナーバスの標準リンクデータだけは取りたいらしいが」

 軍服は着てても中身は学者だからなぁ、司令。

「ランパスに触らせない。それが守られれば、……後はいかようにもどうぞ」


 ちょっと姐さん、さっきとだいぶ言ってることが違わない!?

 なんか実験動物として、普通に差し出された気が……!


「あの、艦長。……これは、つまり」

「特佐の専属アルバイト兼パイロット候補生、と言うよりは。ナーバスを使用する実験の被験者、って扱いだな」


「私。……ナーバスについて、二本ほど論文書いてるのよ。司令もナーバスについては、新共和技術陣でも三本の指に入る研究者でね」

 二人共、専門家だったんだ。道理で……。それはそうと。


 ――姐さん、艦長。俺の基本的人権は何処に行ったの……?


「サインする前に一応中身、読んでね? 一部、人権を侵害する可能性の含まれる条項があるから」

「……可能性、なんですか?」


「今のところはね。もっとも各種実験に関してキミに拒否する権利は。今の時点では無いのだけれど」

「……ですよねぇ」

 むしろ読まない方が幸せなんじゃないかな? これ。


 確かに現状。あんまり待遇良すぎ、だもんなぁ。多少はしょうがないよなその辺。

 別に拷問されるわけで無し。



 ――ナーバスとの同調性において特筆すべきものあり、なんてな。そう言いながら艦長は仮想ペーパー専用のペンを俺に渡す。

「それなら確かにBAに乗る必要は無いが、司令が相当苦しんで作文を書いていたぞ? 特佐」


 その設定を誰かさんが先んじて上に上げ。その後、指折りの専門家でもある司令が、上から説明を求められた。

 と言うことか……。


「それはそれは。ウチのラギ君が、ご迷惑をおかけしておりますようで」

 当人、反省する気ゼロだけどな。



「少なくとも、日付の件はラギも司令から聞いてるな?」

「確かにさかのぼって、とは聞いてましたが。……でも」


「ラギ君。……それはサインしときなさい、その電子ペーパーたった一枚がキミの身を守る。さっき言ったこと、理解はしてるわよね?」

「それは、そうなんでしょうけど」


 あれ? ホントに紙に書いてる感触。

 まぁ、艦長じゃ無くても。なんか違和感。

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