第117話 あら、片思い?

「この場のリーダーはあなたで良いのかしら? 私たちは基本的に、誰の味方でもないのだけれど。現状、見ての通り、新共和リビア基地の要請で動いている」

「正規軍じゃねぇ、リビア基地からコイツを借りて来た、ってか?」

「端的に言えばそういうことね。……貸してくれたのは意外だったけど、これほど情報収集に向いた機械も無いし」


 機体ナンバーはリビア基地の所属を示している。

 武装勢力ならその辺、分かってるでしょ? と言う話。

 そしてどうやらそこは、対した説明もなしに飲み込んでくれたようだ。


「で? 情報屋の傭兵が何の用だよ? 俺達は見ての通り日々生きていくのに精一杯でな、政治には興味はない」


「あら、片思い? 逆にアフリカの新共和はあなた達に興味があるみたいよ。さすがに2,000人規模のコロニーを数日で潰せば、目立つでしょ」


「人聞きが悪いな、大佐。ただ居住区の住人が入れ替わっただけだろう」

「黒き砂塵の旅団、武装勢力としてもそこそこ有名だったのよね、知ってると思うけど」

「さてな。……そうなのか?」


 かなり強度の高い武装集団、という触れ込みだったからこそ、女性や子供たちもあんなに居住することができていた。

 改めて調べた限り、ナミブとけんかするなら分が悪いが、最大規模を誇るデザートピーク自警団を相手にしたと仮定しても、短期間ならば拮抗できる程度の戦力は持っていたはず。

 つまりそれを叩き潰せるだけの武力がある、ということになる。


 そして昨日一日情報収集をした結果、具体的な組織名称は上がってこなかった。

 【ルビィズ】の名前を出してさえ何も情報がないとするならば、それは本当にどうでもいい連中か、真面目にやばいヤツ等かの二択。


 姐さんは後者の可能性が高いと踏んだ。

 ランパスが危険視していた、という事情もある。


「連邦の後押しを受けてるのはもうわかってる・・・・・・・。知りたいのはこの先どうしたいか、なのだけれど」


 姐さんのほぼ全部がブラフのセリフを受けて、ライフルやマシンガンの銃口がこちらを向く。

 ……あたり、ね。安っぽい奴らだなぁ。

 こういう時は知らんぷりするのがセオリーじゃんか。


「情報屋、意外と本物か?」

「最初にそう言ったでしょ? それと銃は降ろしといた方がいいわよ。アフリカ方面軍は臆病だからね、私と少尉の両方、デッドマンスイッチ(※)を仕込まれてる。どちらか意識の反応が無くなった瞬間に、リビアとこの先に居る陸上戦艦からミサイルの雨が降るわよ?」


「まぁいいだろ、――銃は下げろ。今んとこ新協和本体とはやりあいたくねぇしな」


 自警団じゃなくて新協和防衛軍とも状況が揃ったらやりあえる、ぐらいに聞こえるけど。

 どこまで本気なんだろ、この人。


「……ただ、ミサイルが飛んでくるなら迎撃するまでだぜ? 迎撃だってただじゃねぇがよ」

「あのドームね? 新協和のミサイル迎撃システム、ローステッドチャスナッツのtypeC、かな? その他に連邦の、……169MkⅧかな? よく最新の対空防御機構、システムヘッジホッグ2がレーダーや制御部分まで手に入ったね、しかもまるまる3組も」


「見ただけでわかるのかよ」

「まぁ。その辺、私は一応本職なので」

「ちなみに、ローステッドチャスナッツは元からあったやつだぞ」

「そうでしょうね、今時ただのチャスナッツtypeCなんて、自警団だって使わないもの」


 両方とも対空防御システム、名前だけは聞いたことがある。

 どうやってミサイル撃ち落とすのか知らないけど、特に連邦のシステムヘッジホックは新協和から見ると評判が悪い。

 つまりかなり性能が高い。


 それがぐるりとドームを取り巻くように展開されている。

 ココだけ見ても連邦に後押しされてる、は本当なんだろうな。


「”大事なもの“はドームの中、と。……あとは若い娘さんを拉致監禁してると聞いたのだけれど、人数と、扱いがどうなっているのか。教えてもらっても良いかしら?」


「だから人聞きが悪い、っつてんだろ。体力がなくてついていけなかったヤツラを保護しているだけだ。キチンと食事も提供している。全部で二十三人、おとこもいるぞ? あっちの駐車場管理棟の建物の中だ」


 男はかなり遠く、駐車場の隅にある規模の小さなマンションのような建物を銃でさす。遠すぎて何も見えやしないのだけれど。

 でも、その建物はさっきアールブEWACの超望遠カメラで見た。

 入口は銃を持った男たちに封鎖され、管理等という目的故か、もとからあまり多くない窓も全て塞(ふさ)いであった。

 完全に監禁されている、というのは確定だ。



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※デッドマンスイッチ(デッドマンズスイッチ、イネーブルスイッチとも)

本来は機械の安全機構。

機械の運転をする人が事故や急病などで意識を喪失した際、自動的に

装置の稼働を停止させて故障や事故を防ぐのが主な目的。


実際に現在でも工場での機械操作の他、鉄道などでも、ハンドルを握るのをやめたり

ボタンやペダルの入力が一定時間無い、などの条件で運転に人間が関与していない

(居眠りや意識喪失状態)と判断して作動し機械を停止する。という形で使われています。

映画などではスイッチを放すと爆発、みたいな使い方もされますね。


マニィたちが【持たされている設定】のデッドマンスイッチはもう少し極端に

死亡だけでなく、装着者が無許可で睡眠した際の意識喪失などにも反応し、

現在位置を発信するもの。であるとみられます。

……まぁ、持ってないんですが。



最悪、運転者が突然死してもスイッチが切れる。ということでデッドマンスイッチ、と

名づけられたようですが、名前が良くない。ということで最近では

イネーブルスイッチとも呼ばれます。


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