第116話 そんな感じでよろしく 

 旧時代に作られたドーム型の競技場とその横の巨大な駐車場が見えている。

 ナミブに来た人たちは、ここから歩いて俺たちと接触するのに1週間以上かかった。

 俺達はわざと遠回りをしたけれど、出撃からまだ5分経ってない。



『……着陸位置については指示した場所以外ならどこでもいい、以上だ』

『許可を感謝する。 Ar3-628からも以上』

 後ろの席で交信をする声が聞こえる。


 ちなみに俺の姿とすると。

 国章の無い、深い藍色の戦闘服に帽子とインカム。

 襟の階級章は少尉で、骸骨が 


 【Intelligence Technicals Services & co】


 の文字を掴んでいる部隊章が胸についている。

 ……マークのデザインは後ろの人がノリノリで作ったんだけど。

 自分のパーソナルマークもそこそこカッコよかったし、ローラにやらせればよかったのに。

 この骸骨のマークは機体の、通常国章が付く部分にもついている。



『聞いてたわね? 事実上使っていないそうなので北から道路に侵入、そのまま降りる。最終駐機場所は少し走ってドームから離れた方、西側の駐車場の隅の方。機首はナミブ絶対方位10:23、±2分くらいに向けて停まって』


「イエス・マム……、じゃない、ヤヴォール(※)」

『しゃべる機会はそうないだろうし、枝葉末節にこだわったってしょうがない、って気はするけどね。ま、心構えとしてはそんな感じでよろしく』


 

 後ろの席に乗っている人は同じ服装だけどサングラスで表情を隠して、階級章は大佐。

 腕は黒いカバーではなくて三角巾で吊ってある。


 民間軍事情報プロバイダ【ITS】が、新共和のアフリカ方面軍リビア基地から借りたアールブEWACで、難民たちがもともと暮らしていた居住区へ調査に来た、という設定らしい。


 まぁ、機体自体はナミブのES301を色とコールナンバーを偽装しただけ、なんだけれど。

 相手が軍でないなら、音紋や熱紋の照合なんかするわけもないので、この程度でも特技専とのかかわりなんか、わからなくなるらしい。


 武装がないはずの機体には外せる機械は全部外して、大幅に軽量化されたこないだのウルトラスナイプライフルを取り付けてある。

 ……いつの間に軽量化したんだろう、チーフ。さすが、趣味でやってると仕事が早い。


 さらに今回は何故だか、ローラの駆ることになった”612“がバックアップについてるはずだけど、現状では見えないし何も聞こえない。

 シミュレーターの時点からものすごく乗りずらい! と不満たらたらで、できる限りでマイルドにセットアップした。とは聞いているけど。

 ……なるわけないよな、マイルド。


 だいたい、あいつの基本は設計通りの、奇をてらわないセットアップ。

 逆に、612《あのきたい》が奇をてらわないセッティングだったのは、見たことない。

 乗りやすいわけが無い。


「最終駐機位置確認、……機体停止、駐機ブレーキ作動。メインエンジン停止シーケンス開始」

 ヘッドセットからケーブルを引き抜く。

「ヤヴォール。エンジン停止行程に移行。……何があるかわからない、メインジェネレーターは落とさないで。最悪、補器だけで緊急離陸する」


 足元を映すモニターには【Warning!】【have a weapon!】の文字と共に、7人程度が機体に向かってくるのが見えている。


「コピー、メインジェネレーター運転継続、接続そのまま」

「下部ハッチ開放、行ってみようか。……ライフル、持ってね?」

「コピー、ハッチダウン」

「みえみえだ、と思ってもそのままなりきっててよ?」

「ヤヴォール……!」


 コクピットの床がそのまま地面へとむけて下りていく。

 正面に数台トラックが止まり、マシンガンを抱えて弾帯を肩に巻いたおっさんたちが飛び降りるのが見えてくる。

 コクピットが接地して停まる前に、アサルトライフルをもって飛び降り、後席の姐さんが降りるのに手を貸す。


「ご協力には感謝する。私が民間軍事情報プロバイダ【ITS】の代表、エマ・クレスト大佐だ。……無線ではどうも」


 俺達の後ろ、コクピットハッチは自動で機体に引き込まれていく。


「こちらはパイロットのクサナギ・ロス少尉」

 まわりを囲む人相の悪い人達に、軽く右手を上げる姐さんの横。

 自警団式の敬礼をカッチリしてみせる。


「大佐もそうだがこっちも若ぇな」

「若手ではBAバトルアーマーパイロットのエースよ。…他に小隊二つをバラ売りしちゃってて、他の部隊は中東とユーロに居るのよね。彼が残っていてよかった、って所」


 今の現状。構えてこそ居ないけど、普通にマシンガンとかグレネードランチャーを。アクセサリーとかカバンみたいな感じで、持ってるヤツらに囲まれてるわけで。

 普通に考えて、もの凄く怖い。


 俺もアサルトライフルを持っては居るけど、これは暴動鎮圧用のゴム弾専用銃。

 片手はまるで動かないのに、よく平気な顔してるよな。姐さん。



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※ヤヴォール

 ドイツ語で「了解」にあたる言葉。

 マンガやアニメなんかでもよく使われるのでご存じの方も多いでしょう。

 恐らく ITS(株) は“設定上”、ドイツかその近郊に本部があるので

 マニィへの返事はイエス・マム、では無くヤヴォールになってます。

 ドイツ語は一部が方言みたいな感じで残っているのでしょうね。

 もっとも、如月は凝り過ぎじゃ無いの? と思ってるようですが。

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