第118話 飾りってわけじゃ無い
「男の子もいるのね、良い趣味だこと。……奴隷市場用? それとも自分用?」
「あまり滅多なことを言わないで欲しいな。……あくまで家族に見捨てられ、自身で歩く体力もないもの達を一時的に保護しているだけだ」
「その後は?」
「もちろん、適当な自治区へ保護の引き継ぎを依頼するさ」
あーこれはわかる、絶対ウソだ。
自治区では無く、人身売買組織に売られるんだろうな。
俺も売られそうになったことがあるからわかる。
その後どうなるのかも、実際に見たことがある。
その時、一緒に一暴れしたウォータークラウンの連中はみんな死んじゃったけど。
人身売買の憂き目にあった子供たちは2年後に、実に1/30の確率でしか生き残っていないのだ、と聞いたことがある。
一体どんな目にあったらそんな数字になるのか。
たしかにウォータークラウンの仲間たちは、ジョンを残してみんな死んでしまったけれど。
それでも、突然の爆撃で死ぬ方がまだマシだ。
「事情聴取はこんなもんで良いのかい? 大佐」
「結構です。……ちなみにミサイルは全システムフル稼働で最大30発以上は阻止出来ると見るのだけれど、あってる?」」
「もう少し多いな、チャスナッツCだって、飾りってわけじゃ無い」
あの顔は――もう少し、では無いな。
なんなら100発くらいなら防ぎきる、くらいのものなんだろう。
「少なくても。……アフリカ方面軍は反新共和勢力として認識するでしょうね」
姐さんがサングラスのフレームに手をやると、
【fire control unlock】
【Basic defense system activation】
機体から降りたのでナーバスは切れてるから、イヤホンに301のリアクションが音声で帰ってくる。
あれはただのメガネじゃないし、301に対してゼスチャコントロールが効くように設定してたのは知ってるけど。
いきなりパッシブバリアをオンにして、さらに火器管制のロック解除?
【First bullet, changed to an armor-piercing bullet with oscillator.】
【Ask for instructions on target location.】
ライフルが即時射撃できるように用意されてるけど、何処に照準して撃つ気なんだろう。
ドームは地図でハッキリ確認出来るわけだし、今のところ目標にすべきものがない。
しかも弾種が発振機付徹甲弾?
ますますわかんないな。
【Active barrier Scope Change ready】
……そして最後になんかおかしな報告があったけど。
バリアを一部ねじ曲げる準備が完了。って、なにしてんの?
「おいおい、非道いな大佐。話した通り、善意の活動しかしてないぜ?」
そう言いながら、男は何気ない仕草で腰のナイフに手をやる。
俺にバレてる時点で全然何気なくないんだけど。
「大量の武器と戦闘員を保有し、もともと居た人達を追い出し、連邦のシステムヘッジホッグ2を複数展開したうえ、さらに前住人の追い出しから10日たった今でも、未成年を多数含む非戦闘員が監禁状態。――この状況で、新共和にボランティア団体だと抗弁するのは。さすがにどんな弁護士でもムリだと思うよ?」
「自衛の手段は必要だし、アフリカは陣営が入り乱れてる、武器の製造元が新共和のシンパだけとは限らない。それに何度も言うが、監禁では無く保護だぞ」
「まぁ、私が判断するで無し。いずれ請負分はここまでね。とりあえず映像は撮んないでおくわ。――少尉、帰るわよ?」
顔がこちらを向くがサングラス越しの瞳は、そのまま男の方を鋭く睨んでいるのが光の加減で薄く見えた。
「そんな訳にはいくまいよ。大佐が帰れば敵性組織認定だ」
男はナイフを引き抜き、まわりの五人ほどがマシンガンを構える。
動かない連中は、迫撃砲とかのデカすぎる重火器を持ってるからか。
でもまあ、そうなるよな。
デッドマンスイッチの話は信じた上で、ミサイルが飛んで来ても全弾撃墜できる自信があるわけだし。
「地上型アールブのしかもEWAC仕様、最新鋭の高級機。そいつはウチで貰う」
ただ言われた姐さんは、サングラスをかけて読みづらいとは言え、一切表情が動かない。
「私のモノってわけでも無いし、状況が揃えばあげても良いけど。でも、足が無いと帰れないんだよね」
――バリア・レディ。小さく唇が動く。
「帰らねぇンだからその心配は要らねぇよ」
「やっぱりそうなるのかぁ、……なんてステレオタイプな」
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