第106話 エライ人なんだって実感するよ
「陸上戦艦という特殊なカテゴリーではあるが、補給など期待できない砂漠の真ん中で、食事でほぼ
「せっかくだから痛まないようにいろいろ工夫してるらしいよ。味とかそういうの抜きにすると、レーションはなにしろ日持ちするからね……」
「センパイの言い草ではないが、とにかく食事がうまい。モチベーションを上げるには一番手っ取り早い」
「あるものは使わないと、もったいないからね」
ごくまれに出てくるレーションは、アレは期限切れ間近のものであり、主食ではなくて深夜勤や早朝勤務の人たちの夜食や、おやつの扱いで消費されることが大半。
ナミブは作戦行動中の軍艦なのだ。確かに贅沢ではある。
「まぁ。ユーロが落ち着かんとおちおち補給も出せないか」
「アフリカ南部とユーロ北部、両方で連邦が攻勢をかけてきてるって聞いてるけど」
「アフリカはどう見ても陽動、ミエミエのポーズではある。だが、そうだとしてもアフリカタワーへ向かうように見えるなら、これの対処をしないわけにはいかんしな」
「そうなんだ」
「ただでさえ少ない数を質で補っているアフリカと、普段から南北に分散しているユーロの戦力。これがさらに分断され、双方の連携が取れない構図になっている」
「こういう話をしてると、ローラがエライ人なんだって実感するよ」
仕事上の話なら誰とでもできる。
と言うことは話の種をたくさん持ってる、つまり軍や政治のことを何でもやたらに知ってる。と言うことでもある。
見た目はともかく。立場上はエライ人なんだから、知ってて当然だとは思うけど。
「などと、人前ではたいそうに言ってみせるわけだが、実は。ボク個人は戦争について、そこまで思うところはない。正直、ボクのやることとすれば目の前の一戦で、新協和将兵の死傷者を減らすこと。ずっとそう言われてきたし、そこに疑問を感じたこともない」
「まぁ、ローラの立場的にもそれは間違ってないんじゃねぇの?」
別に、
言葉通りに、相手がBA1個中隊、要するに4、5機程度だったら一人で何とかしないといけないのだ。
それをやるためには、操縦技術だけでなく戦術を組み立てて回す頭も必要、そして自分のいないエリアを、ほかの部隊に任せるための指揮能力まで。
全部持っている人間だけが、ローラが着ている赤い服を着られる。
だから姐さんは、こいつのコミュニケーション能力を気にしてたわけだ。
「但し、戦略レベルの話になれば話は別、正直ボクだってよくわからん部分は多々ある。その辺は教育の差が直接出るところだ」
俺は戦術どころかフォーメーションを組む、とかのレベルで支障が出てるが。
「とは言え、戦況については個人として気になるところはある」
「その辺はまぁ。新協和防衛軍の中でもずぬけてエライわけだし」
「前提としてそこはまるで関係ないぞ? ……アラスカ、もしくはシベリア、東欧の北方などを新協和で取ってほしいものだ。とボク個人は考えている」
「素人としては、その地域に何の意味があるのかわからんのだが」
確かに今は連邦領ではあるけれど、戦術上はそこまで重要じゃ無いと思う。
気流やなんかの関係で、航空機を飛ばすのには都合が良い。と見た気がするけど。この地域の一部だけではそのメリットも薄い。
「ん? あぁ。言った通り、戦略的には全く意味はない。個人的に、と前置きしただろう?」
「個人的に? ますますわからん」
「極めて個人的な話である以上、ボク以外がわからなくても
「名前……? えーと、アウローラ。……って?」
「あぁ、旧時代、中世の伝承にアウロラ。と言う名前の女神がいるが、もう一つ。極地で見られる気象現象のオーロラ、は知っているよな? ――うむ。アウローラは、これを指す一部地域の言葉でもあるのだ」
ローラはそう言いながら、機首のパーソナルマークを見上げる。
移動モードの尾翼やBAモードの胸にそれを描けるのは一部のエースのみ。
例えば姐さんの機体の他、ナミブの格納庫ではカヌテ中尉の機体の尾翼に、鎌首を持ち上げたコブラが描かれている。
だけど、描く描かないは別にして。
ルビィズに所属するパイロットは全員パーソナルマークを持っている。
ローラに限って言えば、オーロラのマークはパイロットスーツのヘルメットと、そして機体の機首。
そしてBAモードの肩には通常、上の方に機体番号だけだが、その下にマークも描かれている。
多分これがルビィズの標準なんだろう。
こいつがわざわざ、そういう部分で自己主張するとは考えにくい。
……但し、パーソナルマーク自体は、自分の名前そのものだったんだな。
「オーロラ? あぁ、それで北極圏……」
「さすがに南極圏は今すぐどうこう出来まい。新共和の南半球とすれば南米大陸を押さえて居るに過ぎないからな」
「自分の名前だからオーロラ帯を新共和領にしたい、みたいなこと?」
南極も含めて、極地帯全部を支配下に置かないとその目標は達成できないけど。
「さすがにそこまで尊大では無い。単純に映像や写真でなくホンモノのオーロラをこの目で見てみたいのだ」
「わりと普通の女の子な発想だな……」
「名前の由来はさすがに女神では無いだろう、とは思う。ならば何故、ボクにこの名前をつけようと思ったのか、実際に見たら多少はわかるかと思ったのだが……。この辺は普通の感性なのか?」
彼女は綿密な設計の上で“生産”されたデザインド。
名前だって両親や知り合いがつけてくれた、と言う訳では無い。
そこは当たり前だったよ……。
由来を知りたい理由もその辺は多少特殊かもしれないな。
「ま、まぁ。……お前にも普通の女の子っぽいところがあって安心したよ」
自分の出自に興味を持つのは、それは普通の人。……だよな?
「簡単に言うがな? キサラギ。理解する上で普通、と言う概念が一番むつかしいぞ」
「そこは同意するよ」
「簡単に同意して良いのか? ある意味、ボクには普通の概念自体がないぞ?」
「……威張って言うことではないよな!?」
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