第107話 意外なことは何もない。
《突然失礼いたします、マスター。今から三〇分以降について最大限の警戒を願います。私の本体も起動する可能性があります》
ランパスが起動する……!? 冗談じゃない! ダメに決まってんだろっ!!
左手の小指をあげて“ノー”を示す。
だいたい、イヤホンもない今現状。どうやって話しかけてきてる。
《ご安心下さい。近所の望遠マイク三基を逆利用して超指向性の極超音波を発信、マスターの頭蓋骨を経由し骨伝導で音声を送っています。私の声は他には聞こえていません》
言わなくても通じたか。
しかし、なんつううヤバそうな方法で喋ってやがる。大丈夫なのか? 俺。
でもな、聞きたいのはそっちじゃなくて……。
「ん? ……ランパスが、どうかしたか?」
つい格納庫の隅で隔離されているランパスに目をやったらしい。
その辺。ローラはまわりの人間の視線まで、よく見てるからな。
「あ、いや。うん。……なんかさ、ただ置いておくのはもったいないな、と思って」
「キサラギの言うことしか聞かないのだろう?」
「俺の言うことだって聞かねぇよ」
今だって一方的に話しかけられてるだけだし。
「コミュニケーションを散れる可能性がある、程度の意味か」
「ま、そう言う意味なら事実上、コミュニケーションは散れなかったけどな。自衛のために、一方的に俺が”使われた”だけだ。……せめて姐さんと会話が成り立つんなら使い道、あるんだろうけどさ」
「……その、どういうんだ? センパイはランパスとケンカになった、と聞いたが?」
「半分くらいは自立AIの性能を見る為のブラフだったみたいだ。結局、バレてたらしくて、ランパスが相手にしなかったけどな」
口喧嘩がダメとしても、身体のない相手につかみ合いのケンカをするわけにはいかない。
とは言え、ランパスの実体は空飛ぶ戦闘機械、もしくは10mの巨大ロボットだけどな。
もっとも、つかみ合うにもあの時点では既に、利き手が動かなかったんだけど。
「センパイの言い草ではないが。単独で世界の1/7を滅ぼしうる機械、では無く妖精なのだ。と言うのは、理屈抜きで何かしら感じる。……ああいったモノは触らないのが正解だ。できれば、始めから関わりにならない方が良かったが」
「それも同意する。なにかしら、今日はお前と意見が一致する日だな」
「そこは意外なことは何もない。ボクは一般論しか言わないからな」
それでどうして、各方面ともめ事になるんだよ……。
《マスター。次の放送から、警戒レベルを一段、あげて下さい。まもなく状況開始》
ちょっとまて、状況開始って。お前。何を始めた!
だいたい。……次の放送、ってなんだ?
――ピー!
例のイヤな音。注意喚起のアラームが鳴る。
『ナミブ全艦に告ぐ。現時を持ってコンディションをフェーズ0からフェーズ3に変更。各部署配置につけ。非戦闘員は現時を持って全作業放棄、隔離区画への移動開始。総員起こし』
『体制完了、現時点よりコントロールを解放。CIC以下情報各部署、艦内各所ターミナル、全情報機器、各自動兵装をオンライン。有線通信通常を確認、無線通信帯域の優先確保開始。データチェック開始』
『艦長より関係部署。偵察班以外の陸戦隊は対人戦A装備! 装脚戦車隊は全車起動準備、予備弾倉は全弾榴弾で用意! 双方、戦闘準備待機移行を命じる。これより一〇分で体勢完了せよ。ハンガーはES301を一〇分で用意しろ。運用はBA第二小隊、人選は任せるから小隊長は報告せよ。目標は追って伝える。以上!』
『現時を持って全艦、戦闘準備待機に入ります。観測班、索敵班は現時より周囲の観測を開始して下さい。艦内全部署に戦闘準備待機が発令されました、乗組員は総員配置について下さい。繰り返します。総員、直ちに配置についてください』
故障を抱えてるとは言えナミブが走ってる限りは、偵察部隊が先行して進路を直接確認してる。というのは知ってる。
なにしろ現状は半分しか治ってないから、最大時速18キロ。平均ではさらに5キロくらい落ちる。
本物の砂の深い砂漠でないなら、自転車だって先行することはできるけど。
でも、進路上にゲリラ部隊でも見つけたんだとして。
BA隊に
となりにいたはずのローラは、いつの間にか近所の情報端末に取りついている。
状況に応じて臨機応変に即対応。
怒られてるとこしか見てないけどやっぱ、やたら優秀なんだよ。アイツ。
「ブリッジ! こちらはハンガーのハーベイ特務少尉だ、何があった!」
『コントロール、アジュンワ兵長です。……良かった、こっちからローラに呼び出しかけようとしてたの。キサラギくんもそこにいる?』
「ご苦労、キサラギもたまたまここに居るぞ。……ところでソニア。あまり慌てている様子でもないが、いきなりフェーズ3とはなにごとだ?」
昨日、一緒にランチした効果。こういうところででるんだね。
相手の顔を覚えて、出来れば名前で呼ぶのが管理職の基本、とは姐さんが言ってたが。
……管理職なのか? ルビィズ。
『艦長から伝言。状況を説明するので二人共、至急ブリッジに上がってくれ。だそうよ』
「了解、すぐにいく。ハーベイからは以上。――キサラギ」
「うん、行ってみよう」
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