第105話 優秀なのは間違いないな。

 格納庫。

 ローラが自分で点検をしているのに付き合って、データ端末を抱えて041の機首附近にいる。

 新協和の識別マークの隣、通常部隊章がつく場所にはオーロラのマーク。

 機体番号以外でローラの機体を示すマークだ。

 シンプルなのに結構カッコいい。


 確かに。こうして見るとルビィズのマークは要らないな。

 普通に顔が映りこむぐらいにグロスの効いたブライトレッドに、ショッキングピンクのライン。そんな戦闘兵器なんか、連邦含めてほかの部隊の何処にある、って話だ。


「ハーベイ特尉、午前中でマルチスティックのデータ更新と、それと例のベクトルコンバータの調整、両方終わっていますので空いた時間でチェックを願います!」

「急いでくれてありがとう。助かる」


 メカニックのお兄さんと二言三言。

 コミュニケーション。できるかどうかでいえば、問題なく話はできるんだよな。


「こちらからもひとつ。頼まれていたデータについては、昨日作って今朝データベースに入れたので確認を。あとでも良いが、チーフにも今日中には必ず確認するように言ってくれ」

「イエス・マム」


「ちなみにボクのシミュレーション結果では、試験1,000回中、破断が27%、実用化には精度も強度もお話にならない。本体ではなく接続部の折損が10%以上含まれているなど論外だ」

「事前の演算まで? ありがとうございます、助かります!」


「気にしないでいい。我々はこの船の運用に関しては共存関係、できるものができることをする。当然だろう」

「そう言っていただけると助かります! では!」


 メカマンのお兄さんは敬礼するとそのまま倉庫の方へ歩いていく。

 むしろナミブ内部でのコミュニケーションは、最近はスムーズでさえあるんだけれど。姐さんの基準だとこの程度では駄目であるらしい。

 相変わらず、ローラにはキビしいなぁ。



「今の話、BAバトルアーマーのパーツじゃないよな?」

「ナミブ駆動部の部品だ。消耗品の補給が間に合わないので、初めから壊れる前提なら内製にしてしまおう。という腹らしい」

「もうなんなら、ナミブウチのメカマンとエンジニアだけで回せるんじゃないの? この船」

「量産は効かないまでも、精度だけなら本部そら工廠こうしょうより数字を出せるらしい。……センパイも言っていたが優秀なのは間違いないな。特技専全般の話だが」


 そもそも人を見る目にたけた司令と艦長が、部隊設立のときにユーロ、アフリカ問わず各部署トップの人材を一本釣りしてきたのが現在、特技専に所属する部下たちなわけで。

 メカやエンジニアが無能なわけはない。


「しかし全般に補給が遅いな。食料や小火器、弾薬ががふんだんにあるのが、違和感をいや増すところだ」

「その辺は防衛軍とは別口だからね。普通がどうだか知らないけど、さすがに俺も現状は普通じゃないと思う」


 食料や、拳銃ライフルなどの小火器とその弾薬、汎用部品関連は、デザートピークで襲撃されてから三日後。デザートピーク市とその自警団から、とんでもない量を提供された。

 さすがに事前に打診があった時点で、艦長だけでなく司令も出てきて断ったんだけど。


 市長と自警団団長が、ヘリで直接ナミブに乗り込んできたうえ、

 ――受け取っていただけない場合、我々含めた自治領と自警団の幹部10名、全員自決します。

 と、食料を押し付けるために自分を人質に取って脅迫を始めた。

 自治領の行政官や、駐屯している新協和防衛軍からも、自治領の運営がままならなくなっているので、ぜひ受けって欲しい。と、泣きが入った。


 結果、BAバトルアーマーが輸送できる大型軍用コンテナ2本分の食材を、悪くしないように片付ける。

 結局その作業には、主計科に研究員やオペレーターの人たちまで加わった総動員体制で三日かかった。


 最近ナミブで一番負荷がかかっているのは、駆動系以外なら冷蔵庫だ。なんて冗談が流行るくらいに量が多い。 


 通常倉庫も、温度ではあまり傷まないものが山のように積んである 

 弾薬を冷やす必要は無いだろうけれど、この船は特技専の所属。

 特殊なものを回収した時用に倉庫にも空調が装備されているんだが、普段使っていないその空調が回っている。


 武器弾薬、汎用機器についても陸戦隊全員の他、砲撃科やミサイルの管制官、BA隊や装脚戦車隊のパイロットまで動員されて、こちらも完全に整理がつくまで丸三日かかった。

 駆動系に負担をかけているのは武器弾薬の重量だ。とエンジニアからぶつぶつ言われてる。


 と言うことで。もはや冷蔵倉庫にも一般倉庫にも、空きはまるで無い状態。

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