第104話 ちょっと問題アリ

「それに、“おっさん”としか話せない、と言うのは年頃の女子としてはどうなのよ? と言う危惧を感じざるを得ないのです。……まぁセンパイ、なんて呼んでくれてるからますます」


 本人は時間がかかる。と言っていたが、わりと簡単にいろんな人と話せるようになった。

 事務的な用事が絡まないと話せない。とは言え、そこは全く問題がない。むしろ好ましい。


 但し、普通に話のできる相手が技師長メカマンチーフ機関長エンジニアチーフ、サロン中隊長に陸戦隊のサレさん……。見事にゴツいおっさんばかり。

 居るよね? 各部署に女の人も、若い人も。



「なるほどぉ、ちょっと問題アリ。かなぁ」

「ミドルティーンでオヤジ趣味と言うのはちょっと。もしくはファザコンとか……?」

 

 そこだけは大丈夫。

 ローラは父親を概念しか知らないから父親にコンプレックスは抱きようがない。

 ……でも。知らないからこそ、ってこともあるのかな?


「今みたいに冗談なら良いけどね。悪意を持ってそういう風に言われちゃう、っていうのが心配なのよ」


 ローラが用事のある相手、とすれば。ラインナップは自然とそうなるのかも知れないが。

 姐さんでなくても多少不安には感じる。複数の意味で。



「ほっといたって色々、言われる立場だもんね。――私も、マニィに合うまでルビィズってなんか印象、悪かったし」

「ね? ソニアもそう思うでしょ? ホント、ドコ行ってもそうなのよ……」


「特にローラは美人と言うよりかわいい系だからなぁ、変な噂なんか、勿論無い方が良いよねぇ」

「レイラだって、会う前から印象が悪い。なんてイヤでしょ?」



 姐さんだけ見てると忘れそうだが、ルビィズを揶揄する“一人戦闘隊ワンマンカンパニー”。は決して良い意味で使われているわけでは無い。

 異様なまでの技量は当然として、それを前提に与えられたとんでもない権限。


 ルビィズの制服を着ているだけで、話をしたことも無い人から陰口をたたかれる。

 確かにイヤだな、それは。



「基本的に“特務官”って、みんなと仲良くできない人には勤まらない立場だからさ。心配なのよね、真面目に」

 

 軍曹の階級章をつけたブリッジクルーが、姐さんの前まで歩いて来て敬礼する。


「特佐、艦長がお呼びです。予定より少し早いとは艦長も言っておりましたが、艦長室まで。よろしいですか?」


「ありがとう、今行く。……じゃ、そう言うことで。――ラギ君も」

「お昼は、みんなと行くように俺からも言うよ」


「さすがにキミから言われれば、逃げないでしょ。――みんなも、よろしくね?」

「気にしないで良いよぉ」

「私もランチくらい、一度一緒に行きたかったし」


 逃げるの前提だったんだな……。

 そりゃそうだ、俺もそう思うもん。




 3分後。

 やや慌ててブリッジに上がってきたローラに、

「お疲れ、ローラ。みんなで飯食いにいこうぜ?」

 と声をかけたところ。


 この世の終わり、みたいな顔でこちらを見返したのだった。

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