第六章 ローラの任務とお嬢様

第128話 無政府地帯だからね。

 モニターの右側には三角に編隊を組んだ一小隊、正面やや左には真っ赤な機体のブースターと【三日月と魔女】のマークと【RB037】とかかれた尾翼が見える。

 【作戦空域まであと約 148 秒です】

 の文字がモニターの端に出ている。


 今日は一番最初に使った実弾とレーザーの混合ハイブリットライフルが機体の下についている。

 同軸から別種の弾が出る以上、簡単にバリアではじけないのは良いんだけど。


 もとよりかなり軽くなったとはいえ、重量は通常のライフルよりもまだ重いし弾数も半分。

 実弾の予備弾倉もないし、レーザーも撃てば撃つほど本体の稼働時間が短くなる。

 ついでに銃口には、スナイプライフルのときに使ったバヨネットもついてる。

 これもやたら重い。


 なんで超高機動型に重たい武器を載せたがるんだよ、しかももともと悪い燃費まで悪くなるし……。



『コントロールより各部署。敵戦闘機はAA106、グングニルmk3が3個小隊6機、その他機種不明のものを4機確認中。不明機のうち3機は戦闘機で確定、1機はBA(バトルアーマー)の可能性72%。作戦各機は敵戦闘機に警戒せよ』


「事前情報から数が増えてない?」

『まぁ、このあたりは新共和領とは言え事実上の無政府地帯だからね。情報を取るにも限度があるって言う事よ』



 ナミブが通過する近所の、戦闘機の実験をしている基地から緊急援助要請が入った。

 地上部隊だけで無く、結構な数の戦闘機も飛来したらしい。

 実験部隊なのでほとんど打撃力がない、というアナウンスがブリーフィングであった。

 人の少ないところで実験する、と言うのはわかるけど。

 ……護衛のこととか、少しは考えろよ。


 近所、とは言えナミブごと移動すると時間がかかる。具体的には丸二日ぐらい。

 いまだ最大速度15キロ、休憩12時間のナミブである。

 よって、1小隊とITSが援護に向かうことになったんだけど。

 

『コントロールから2小隊。状況急変を鑑み、スクランブル待機』

『122よりコントロール、123とともに出撃準備待機に入る』


 状況に応じて援軍を出す、というのは普通の対応だよな。

 BAで戦闘機と空戦、と考えれば倍の数で対処するしかない。とは戦術の教科書に書いてある。

 いくら定石破りの戦闘機キラーである中尉がいるとはいえ、相手が戦闘機となるとBAでは分が悪いというのが普通。


 援軍がカタパルトで待機してるなら心強い。


『CICより緊急、地上を本艦に向けて接近中の、BAバトルアーマー移動形態とみられる物体を補足、総数4。戦闘可能と想定されるエリアへの到着まで約900秒を見込む。各部署に予定進行位置を送る』


『コントロールより緊急、コンディションフェーズ5に変更! 繰り返す、これよりコンデション5!』

『コンディション5が宣言されました、全乗組員は直ちに……』


 どうやら介入がバレた。

 進行ルートを見ると基地へ向かうはずのルートから外れて、矢印の向きがナミブへの最短距離に変わってる。

 おそらくはオストリッチだな、これ。

 進行図の地形を見る限りでは直接ナミブを叩きたいように見える、砲撃型ではないみたいだ。


『甲板長より関係各部署、カタパルトはクリアだ、そのままエレベーター上げろ!』

『こちら123! 2番エレベーター、あげてくれっ!』

『モタモタすんな、甲板待たせんじゃねぇ! 次は1番、122だ! 移動床のセット急げ! 122はエンジン始動、メカは退避っ!』


『122、移動床接続確認、異常なし。移動開始を乞う。メインエンジン始動します、翼を通常位置に。メカマンは退避を』

『整備3班、移動床の接続を確認、退避します!』


 ナミブ自体はセンサーはすごいが、空母なので戦艦としての打撃力はない。

 さっきの戦術の教科書にはBA戦は、単純に数の多い方が有利。とある。

 姐さんや中尉がおかしいだけで教科書自体は間違っていないはずだ、とはローラも言っていた。


 ともあれ、これで2小隊は動けなくなったけど。



『副長ハキームより各部署、索敵班は地上の未確認車両の精査を急げ。全砲門開け、ミサイル発射管は全弾時限榴弾装填。艦載機部隊は特尉の命令に従え』


 本日、艦長は方面軍にお呼ばれ。

 艦長席には副長のハキーム大尉が座って指揮を執り、姐さんのシートにはローラが座ってサポートをする、という特殊な体制。


 この際なので、艦長不在を前提にした練習をしよう。

 ということで訓練が始まった直後に、そのまま実戦に突入した。

 だからこれ以上イレギュラーが増えるとマジでみんな、困る。

 多少タイムロスがあっても、姐さんとローラだけは逆にするべきだったよな。


『ミサイル管制からコントロール、全発射管、初弾は時限榴弾で装填完了』

『こちら砲術長、主砲一番二番、及び全速射砲の射撃準備よろし、全対空砲座のマイナスロック解除許可を要請』

『索敵班コピ―、接近する物体の確認、急ぎます』



 さらには索敵用のES301も艦長が副操縦コパイロット席に乗って出かけてるし、第2小隊も小隊長機ES121がその護衛で不在。


『ブリッジのハーベイ特尉より全作戦参加機。発艦したBA隊は状況継続。1小隊は基地上空で敵機の迎撃、ITSは機種不明機の確認、牽制に回ってください』


 補佐である以上、副長が指揮を取るブリッジからローラは離れられない、つまりRB041はでられない。

 ナミブを守るBAは2機しかいない、ということになる。


 ホントにヤバくなればローラは出るだろうけど。

 アイツの頭の中で、ヤバいの定義がどうなってるかは微妙なところ。

 そしてローラが不在になってのち、ブリッジの指揮がどうなるか。なんてもっとわからない。


 まぁ、司令はいつも通りブリッジに居るんだけど。

 あの人は……。この状況下だとハマるポジション無いんだよ、優秀な人なんだけど。

 でも。実戦向きで無い高級士官、ってどうなんだろう……。

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