第71話 壊れない程度にな。

『コントロールより関係各員、最終落着予定座標を送った。位置は初期値より東南東に約四〇キロ、再計算後からも南南東12キロのずれが生じている。間もなく落着。各部署は監視警戒継続せよ。BA2小隊はスクランブル待機に入れ』


 ……思ったよりも近い。

 ナミブのエンジンと一緒に降りてきた人は、かなり頑張ったらしい。

 


『コピー、CICはデータ監視を継続』

『イエッサー、観測1,及び3は目視で目標を探索する』

『索敵2、コピー。周囲警戒を継続』


『ES121コピー。2小隊は全機スクランブル対応体制に入る』

『たぶんエレベーターはもう動かねぇ、サイドドア開けろ! スクランブル準備!』


 パワー不足でカタパルトどころか、エレベーターも使えないらしい。

 横のハッチ、開くんだろうか。あれだってけっこう重そうだけども。


『バカ野郎! 動かねぇなら手動で開けろ! 二班から三人回れ!』

『コピー、手動に切り換えます!』


 あ、やっぱり。

 エンジン爆発して平気なわけは無いよな……。



『BA1小隊は状況整い次第、現地へ向かえ』

『111コピー、BA1小隊はこれより現場へ向かう』

 

 小隊長の無線と共に、【For BA platoon 01】のタグが付いた第一小隊機向けのデータが着信、戦術画面に展開される。


『コントロールからCP612』

「こちら612、コントロールどうぞ」

『現時をもって待機解除、以降は1小隊第二分隊としてES112の指示に従え』

「は? い、イエッサー。612コピー。以降は112に従います」


 カヌテ中尉の指示に従う、って事は第1小隊の4番機って事になるんだな。

 当然小隊長の命令だって回ってくる。

 当たり前と言えば当たり前だった。


『112から612。さっそくだが編隊を組む、自分の左後ろにつけ』

「コピー。112の後ろにつきます」


『111から小隊各機、当機先頭で編隊組みつつ現地へ向かう。現着予定約六九〇秒。全機、我に続け』

『コピー、編隊組む』

「……イエッサ」



 フルパワーで飛ばなくたって、アールブなら時速で三〇〇キロ以上は普通に出る。

 十分で到着する場所は、ナミブが走ってくると何時間かかるんだろう……。


『27ブロックの火災は鎮圧状態、25ブロックへの延焼の恐れも無くなった』

『2番の燃料ポンプは爆発、物理的に完全破壊。再使用不可を確認!』

『15、28,29ブロックの一部機器に熱による変形、損傷あり。動作確認中』


『爆発の恐れは無くなった、至急Aバイパスの圧力バルブ4,5,7を取り替えろ』

『無理に決まってんだろ! 火がみえねぇだけで300℃以上あるんだぞ!』

『コントロールからエンジニア各部署、現在全体出力は42%、さらに低下中』

『艦長より関係部署。速度は現在毎時一七キロ、最低一二キロの維持を厳命する』


『動力連携リレーが死んだ、このままじゃ後方四軸のまともなデフまでイカレる!』

『いったん協調制御は全面カット、2番系統はフリーに。システム出力は無視だ』

『速度を維持する、全ての出力を駆動系に振れ! 艦内は予備電源に切り換え』

『コントロール了解、艦内電源を予備電源に移行……二五〇分の動作を保証』

『ダメだ! 2番だけで無く3番もコントローラーがイカレた!』

『リアルタイムの計算が間に合わねぇ、脈動が出てる、3番もいったん止めろ!』 


 ……かなりかかりそう。と言うのだけは確定だな。



『112からロスマンズ、【荷物】は捨てていいぞ』

「武装は無くて良いんですか?」

『今積んでるのは全部ダミーだろ? スナイパーライフルでぶん殴るのは、いかにも絵面が悪いぜ。……本当に必要なら自分のライフルを貸す。隊長達だって居る』


「了解、試験機材をパージします。――612、編隊から一時離脱」

『ま。気持ちはわかるが、壊れない程度にな。……チーフの大事なおもちゃだからな。あの人にへそ曲げられたらお互い、それはそれで困るぜ?』


 一旦高度と速度をぎりぎりまで落として、デッドウェイトでしかない追加装備数点と増槽タンクをパージ、砂の上に落とす。

 機体が一気に軽くなる。


『612、編隊復帰します』

『111了解、引き続き112に従え』

『コピー、112に従います』



 空中には道もないし、岩場も砂丘もない。

 何が言いたいかというと。すでに4回、編隊ごと向きを変え目標地点に対してジグザクに向かっている。

 そしてさっき、大尉の言った現着時間はこの動きがどうやら含まれている。


 新人イジメじゃ無いのか? これ!

 まぁ、コンテナが地上に着いて直後は、熱の関係で近寄れないのだけど。

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