第68話 もちろん比喩、ってヤツよ。

 何か無線聞いてる限り、確かに緊急事態っぽくはあるんだけど。


『こちら甲板長、一番、二番ともカタパルトの動作正常を確認』

『111、メカマン待避を確認。エンジン始動開始!』

『エレベータ1番、2番稼働開始、ハッチ開放。飛行甲板の進路確認急げ!』

『艦長からCIC、位置の算出を最優先!』

『CICコピー、最優先を落着位置の計算に変更』

『ES113は111のあと2番エレベーターで上げる、準備急げ!』


 なんだろう、もう一つ緊迫感は無い。

 最大5まであるコンディションも1のままだし。



 そうこうしているうちに、主翼を開きながら1小隊のアールブが左のエレベーターから、さっき俺が降りた甲板に横に滑り出て、発進位置につく。


『ES112カヌテからコントロール、主翼最大展張、最終チェック継続中』

『甲板長からコントロール、カタパルト射出経路、クリア!』

『ES111、発進準備よろし!』

『コントロールよりカタパルト管制。ES111,並びに112の射出準備、最優先』

『111サロン大尉よりコントロール。進路目視にて確認、クリア』



 カヌテ中尉や小隊長のサロン大尉には悪いけど、やっぱり緊張感が足りない気がするなぁ。


「おい、ランパス! 聞こえてんだろ? 何があった!?」

《すぐに少佐から連絡がく》


 答えたランパスの声が突然途切れ。

 通信モニターに【Limited reception : [from Platoon leader "RB037"]】、の表示が出る。


 いつもタイミングを見計い、みんなが通信を入れないタイミングで話しかけてくるランパスなんだけど。

 その行動予測を裏切って彼女の言葉を遮るのはだいたい、教導小隊ウチPlatoon leaderしょうたいちょうなんだよな。



『教導小隊長クレセント特務少佐から小隊2番機に緊急、特務士長!』

 画面には Sound Only の文字だけ。……歩いてる感じだけど?

「612、ラウド&クリア。どうぞ」


「データグラスで見ては居たけど。私、CICに向かってて、調度電波が飛ばなかった。無理と無茶は違う、キミはわかってるはずだよね? ……端的に、危ないことはやめなさい? 見てるこっちの寿命が縮むわよ!」


「まぁ、その。やりたくてやったわけでは」

 出来る! とは直感的に思ったし。だから続行したんだけれど。


『うーん,教えるってむつかしいなぁ。ジャストタイムで怒れないとこんなもんか……』

「犬とか猫の躾みたいに言わないでください。あと,そう言うのは聞こえないように言って欲しいんですが。――それよりスクランブルって、何かあったんすか?」


 エンジンの爆発じゃ無さそうだけど。



宇宙そらでね。ロープが切れたみたい……』

「は?」

 新共和軍は、低軌道上でなにしてんの?


「えーと、真面目にロープで、軌道上から荷物を下ろす気だったの?」

『もちろん比喩、ってヤツよ。投下位置最終調整の微妙なタイミングで敵襲をくらったみたい。お陰で予定が大幅に早まっちゃった上に、落着地点が50キロ以上ズレた』


 

 “陸上戦艦”の中でも史上最大、超重量級であるのに時速は50キロを超える。と言う、ナミブご自慢の最大速度は見る影もなく、今やよろよろ砂漠を走っている。


 確かにここまでも調子は悪かったんだけど。先日、デザートピークでもらった部品で走るのに問題がない程度に、いったんはなおった。

 ホントに直しちゃう整備班長メカチーフ機関士長エンジニアチーフ達がおかしい。とは姐さんも言っていた。


 で、本気で走り始めて半日。4機あるメインエンジンの内、ノーマークだったエンジンが。突如、爆発して、……死んだ。

 メカニックやエンジニアの人達曰く、


 ――あいつは、一番手のかからない良いだったのになぁ。


 だ、そうだけれど。ともあれ。

 エンジンが吹っ飛んだことで機関士数名が結構な怪我を負い、動力系や駆動系の大事な機械や部品も大ダメージを負った。


 エンジンが一機、動作不能。それでも時速10キロであろうと走れているのは、奇跡に近かったのだそうだ。

 そして、つい今さっき。さらに何かが暴走して爆発したのだけども。

 もう歩くのと変わらないスピードになっちゃったけど、それでもナミブは頑張って走ってる。


 ……残った エンジン 達もあぁ見えて結構、健気な良いヤツらだよな、と思う。

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