第131話 追い込むから、よろしく。

『副長。敵機は恐らく、観測のみで戦闘への介入はしないとクレセントは判断します』


『了解だ、判断は現場の特佐に任せる。BAはいったん無視して良いが、上空からの射撃を十分配慮し彼我の位置関係は常に意識して欲しい。そのうえで、偵察機部隊はできうる限りで基地から遠ざけられたい』


『ITS了解、いったん終わる。――7rsこの子のロケット最大で、加速かけて一気に追い込む。ジェットじゃ付いてこれないから、ラギ君は逆に最大限小回りで右から。アタマ、押さえて』


 真っ赤な機体の後ろから、長々と噴射炎が伸びて徐々に加速を始める。


「イエスマム、612はウェポンロック解除。目標、グンニグル3機編隊」

『できるなら撃墜してしまっていいわ。ファーストコンタクトで全機は無理でしょうけど』


 ――全機なんて、ファーストコンタクトに限定しなくても絶対無理でしょ。

 一機だって堕ちる方がおかしい。むしろ堕とされる側だ。

 BAで戦闘機とドッグファイト上等、なんて真顔で言う中尉がおかしいだけ。


 でもまぁ、おかしいというなら、姐さんもローラも十二分におかしいわけで。

 上層部に直接意見を言える司令も、方面軍全体に顔の効く艦長もやっぱりおかしいし。

 特技専は、おかしい人だけよってくる様なフェロモンでも出てるのかな。

 そして、その人達に生活全てを委ねてる俺も。十分におかしいんだろうな。



『ポイント6-a-4から7、高度300前後に追い込むから、よろしく。予定より100以上高度、あげておいてね?』


 そんなことを考えている間にも、ねえさんの037が一息で敵の編隊に追いついて。

 ベクターノズル角度最大、移動モードでは使わないはずの各種姿勢制御ブースターも全開で、あからさまに飛行機じゃない曲がり方をしながら後ろに付く。


 なんでアレで墜落しないんだよ……。


『……037、エンゲージ!』


 確かに、ああなっちゃ。敵は待ち伏せてるのがわかってても、俺の目の前に来るしかないよな。 

 だからさ、特技専ウチのひとたちは大なり小なりおかしいんだよ、みんな。


「来た……! 612もエンゲージ!」



 視線の先、下の方に三機編隊の戦闘機が見える。


 一機だけおかしな装備がついてるのがいる。

 翼の下に爆弾のようにぶら下げてる筒が2本、胴体の下にも太いのがもう一つ。

 コクピットの後ろにも変なとさかみたいなのが生えてるが、あれもレーダーかな。

 胴体も一部、不自然に膨らんでるがあそこも索敵機器なんだろう。

 機種の、マシンガンの位置が一瞬光を跳ね返して光る。あそこ、カメラになってんの?


 偵察機、とすればナミブの301しか知らないが、アレは強引に加工したヤツで。

 もともと偵察機としてつくるとこうなるんだろうな。

 データ取りの効率はすごくよさそうだ。



 こちらに気が付いた一機が機首を上げてこちらへ、もう一機は姐さんが後ろに憑いてる関係上、偵察機の後ろについてそのまま行きすぎようとする。

 ただ、こっちはBAなんだぜ? さすがにちょっと甘くないか? 


 チキンレースよろしく、こちらは機首を下げて4秒後に正面衝突コース。

 お互いバリアがあるので、この短時間で打ち合っても全弾弾かれて意味がない。

 実は、今の612このきたいならそこにも勝ち筋はあるんだけど。

 さすがに今は時間がなさ過ぎる。


 バリアがある。とはいえ、さすがに衝突したらお互いバラバラ。どこかで回避しなくちゃいけない。

 向こうは俺のコースを変えれば良いだけなので、早めに回避するだろうけど。


 ――でも、そうはいかない。


 こっちはBA《バトルアーマー》なんだぜ? 戦闘機に出来ない事が出来る。

 【3"78 to collision】の表示を見ながら変形を開始、落ちながら姿勢を制御。あえて回避コースに機首を向けたグンニグルに近づく。

 そう、マシンガンは弾かれる。


「だったら、……ぶった切る!」

 

 銃剣バヨネットがレーザーの刃を纏いながら展開を終えた瞬間、気が付いたグンニグルがさらに身をよじるように角度を変える。


 胴体を切り裂く予定だった銃剣は翼の一部を切り飛ばしただけで終わるが。不安定になったその機体は、積んでいたミサイルをパージしエンジン全開。

 一気に離脱していく。


「護衛するんじゃ無かったのかよ! 偵察機が丸見えだぞ!」


 俺から丸見えになった偵察機マチェット、その上に被さるようにもう一機のグンニグルが位置を変える。

 バリアがあるから短時間なら耐えられる?


「それは大間違いだっ!」


 612このきたいのことは、アールブ地上型の派生機種だと思っているはずで、だったら実弾のライフルだと思ってるはず。

 何故そこが問題になるか。


 BAのパッシブバリアなら。

 パワーがあるので、弾種がなんでも角度と距離に問題がなければとりあえずは弾ける。

 どうしようも無い場合はアクティブバリアを起動して凌ぐ、と言う事になる。


 但し、戦闘機に積んでいるバリアはかなりパワーが低い。だから始めから想定された攻撃しか弾けない。

 想定外の攻撃には設定を再変更して対応するしか無い。

 そして、ナーバスなんか当然積んでいないし、それならコンマ数秒で設定変更できたりはしない。

 つまり。


「当たれ!」


 複合ハイブリッドライフルが撃ち出した実弾はとりあえず弾いたが。

 レーザーに切り換えて三発目が胴体を撃ち抜き、その次が翼に抱えたミサイルごと貫通し、爆発する。


 片翼を失ってきりもみを始めた機体は意識から追い出して再変型。地上すれすれで空力制御が回復。即座に機首を上に。

 上方のグンニグルに巻き込まれないように、慌てて軌道を変えたため、スピードの落ちたマチェットの後ろ。

 既に037が付いている。


 

「037進行方向正面! -25、左ズレ3度くらいっ!」

 レーザーと実弾を全力射撃フルバースト、マチェットは真っ赤な037の前に出るしかない。

【了解!】

 

 結局、マチェットは037がリリースしたミサイルの餌食になった。

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