第132話 立て続けで悪いが


『……敵索敵部隊は2機撃墜、一機後退。BAバトルアーマーはエンゲージ直後に戦域離脱、記録は残っていないがクレセントが一瞬視認。スパロゥベースの何らかの試作機であると推察。ITSは現在、戦域外周を周回中』


 状況報告をしながら、基地上空の外周を大きく回っている。

 敵の戦闘機部隊も撃退が出来たようで、既に1小隊はBA形態で基地に降りて警戒している。



『コントロール了解』

『副長だ。ITSには立て続けで悪いがBA2小隊の増援に回ってくれ』


『ITS了解。コントロール、現状どうなってるか。知らせて?』

『敵の規模はオストリッチ5、うち砲撃型1を確認。現在の距離約9,000。既に砲撃型の射程には入っているが、現在攻撃無し。人型に変型した上でなお接近中』


 事前の索敵から、さらに砲撃型が増えている。

 こちらが撃退された報告が入ったのかどうか、まだナミブへの接近を試みているようだ。

 諦めてくれたら良いのに……。


 ナミブなのを確認したので“妖精ランパス”狙いに切り替わった。

 みたいなことなのかも知れないけど。



『増えてるね……。2小隊の現在位置は?』

『カタパルトでスタンバイ継続中』


 もしもオストリッチが砲撃しても、確実にたたき落とせる。

 と言う自信があるからこそ、カタパルトで待機させてるんだろうな。

 戦術的には正しいのかも知れないが、待機させられてる2小隊としてはたまったもんじゃない。


 その他、回ってきたデータ画面では。

 既に装脚戦車全車と陸戦隊が配置を完了している。


『了解。――副長、砲撃回避、並びに状況変更への即時対応のため、2小隊両機の即時発艦を進言します』

『わかった、2小隊はただちに射出、ナミブ艦上で上空待機』

『イエッサー、122、123ただちに発進します』


 で、むき出しのまま待機させられてるパイロットの気持ちは、同じくパイロットでもある姐さんにはわかる。と。

 鼻持ちならないトップエリートでは無く、“頭の良い仲間”としてみんなが認めてくれる由縁ゆえんがこの辺だな。


『ITS2機は指定ポイントまで急行されたい。コントロール一旦終わる』

『コピー、ITSは指定ポイントに向かう、到着後再度連絡する。RB037からも以上』


 わりと状況は悪い? だからこそ急行しろ、って言われたんだろうけど。



『037から612。……まさか実戦でホントにやるとは』

「うん? なんのこと?」


 別に“コブラ"なんかしなかったけど。


『空中変型から攻撃した上で再度変型。あんな低空で出来る人は、地上軍全体でもカヌテ中尉しか居ない。って聞いてるよ?』

「そんなに大変なことなの?」


 中尉しかやらない、というのは始めて聞いた。

 まぁ、その中尉からBAの操縦を教わっているわけだけど。


『人型になったら飛べないし、そこから再変型となったら始めから失速状態。何度か言ったけれど高度500以下で変型したら普通は降りるしか無いの』

「推力で無理やり、とか」


『理屈がわかってても私もローラもムリ。それが出来るのはカヌテ中尉だけよ』

 

 出来ないんだ、意外。

 100%の行動以外はやらないから、なのかも知れないけど結果は同じか。


『中尉はその辺が考えなくてもわかる。いわゆる天才、と言うヤツよね』


 姐さんはこう見えて実は努力家の秀才肌。バリバリの体育会系、脳筋の人。

 天才とは対極の位置にある人だからね。


「なら、俺も天才?」

『ナーバスの同調率が通常の倍以上になってるの、忘れないでね? 多分揚力やら翼の失速状態やらがその、人より多いデータで直感的にわかっちゃうんだね。それが理屈抜きで理解できる、という言う意味では天才かも、だけど』


「まぁ、その辺は」

『キミが出来る、と思った以上は出来るんだろうけど。……でも、人の数倍の情報が見えてるからこそ、逆に気をつけなさい。データのスキマから攻撃されたら対処ができなくなるからね』


 “データ"の外から攻撃される、なんて事もあるか知れないからね。

 例えばウォータークラウンのナミブは、そのせいで対応が致命的に遅れた。


『それはそれとして。指定ポイントの位置、なんか中途半端じゃない?』


 それは俺も思う。

 相手にオストリッチの砲撃型がいるんだし、ルビィズのウルトラエースも出てるんだから、一息で距離をつめた方が良いようなモンだけど。

 戦術論の第一人者も違和感を感じるらしい。


「その辺は俺にはなんとも」

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