第40話 お気の毒なことですね
エレベーターはごく普通に、いきなりブリッジの一番高いところに到着。
姐さんは、ドアが開くと同時に敬礼する。
エライ人が乗った時だけ動く様な設定かなにか、あるんだろうな。
(普段は階段を使わせられるので)姐さんが一緒じゃない時だけエレベーターを使うんだけれど、そのときはブリッジの一番下にしか到着しない。
でも今日は、いつもの終点の通常階、そしてデータを処理する人達が集まる中層階を通過して。司令と艦長、二つの椅子しか無いブリッジの最上階に到着する。
階段の横のエレベーターは、確かに普段からなるべく使わないようにいわれてるんだけど。
結構大きなブリッジの中。
空いてる席も結構あるが、一〇人以上が仕事をしている。
その後方、ブリッジ全体を見渡せるように高くなっているところに椅子が二つ。
やや左、少し高くなって、デスクとディスプレイに囲まれた艦長席。
改めて見ると、真ん中にある司令の席の方が低いんだね。
その艦長席の横まで行って姐さんが改めて、もう一度敬礼する。
「クレセント特務少佐、他一名。出頭しました」
「ただでさえ遅れているのに、進路上でまたしても砂嵐と磁気嵐を検知したのでさらに速度を落とした。困ったもんだよ。――早かったな、特佐」
持っていた書類をデスクにおいて、椅子ごと振り返るのは
いかにも軍人。という均整の取れた体型で、ナミブのマークが付いた帽子を被った無精ヒゲのおっさん、マッカーシー少佐である。
「呼出は司令、ですよね? ……艦長、司令はどちらに?」
ちなみに俺は軍人じゃないので、――むしろ敬礼はしないように。といわれているので気をつけ、の姿勢でほんのちょっとだけ頭を下げる。
これはこれでなんか据わりが悪い。
――ちわっす。って訳には、そりゃ行かないだろうけど。
「呼び出した本人が、つい今ほど。“うえ”から呼出を受けて、
何時も司令の座る席には書類が置かれ、ディスプレイにも数字が流れて複数の画像が出ている。仮想ディスプレイも二枚、展開されたまま。
いかにも仕事中に突然何処かに呼び出された、と言う感じではある。
「時間的にも丁度ティータイム、ですか。……お気の毒なことですね」
司令のスペンサー中佐は軍人ではあるけれど、基本的には
始めて見た時の、他の軍人とちょっと違う感じ。
それはその辺にあったんだな。と最近ようやく気がついた。
制服の肩章の色が違うのは、エラいから。では無くて技術系の人だから。らしい。
言われてみると船の中で、たまに同じ色の肩章の人とすれ違う。
おかしくない様な気もするが、本人が好んでそうなった。
と言うわけではどうやらなさそうで。他にエライ人が居なかったのかな。
まさか“妖精の一人”が本当に発掘されるとは思ってなかったから。
だから司令の仕事だってうけたんだろうけど。
但し、本当に妖精を手にしてしまったお陰で、ガチの戦闘にも発展したし。
その時の戦闘自体は、ベテランでもある艦長に任せている。
こないだ、姐さんが敵の偵察部隊を潰しに言った時もそう。
でもまぁ、あの人が悪いわけじゃ無い。
だって軍人だけど基本的な立ち位置は、実は博士だし。
部下の人の一部は“司令”とか“中佐”ではなく、“教授”。って呼んでるくらいだ。
「少しもそう聞こえないところがとても良いぞ特佐、もう少し言っても良い。許す」
この部隊の中では書類上、司令と艦長は姐さんの仮の上司にあたる。
大佐相当官云々と言うのは、姐さんに言わせると、
――文句を言う権利があるかないかよ。
と言うことになる。
司令は中佐で艦長は先任少佐、その下に少佐である姐さんが付く。
と言うのは、普通の階級ならばそれで収まりは良いらしいと聞いた。
「冗談なら良いですが、陰口になっちゃうと陰湿です」
「はっはっは……。それをしれっと言うのが特佐らしいな」
司令は見た目通りに、上層部とバチバチやり合う。なんて仕事が得意なわけは無く。
さらにはこうやって、現場組から影でバカにされる始末。
とは言え嫌われているわけでも、軽く見られてるわけでも無い。
尊敬されてる感じさえあって、なんか世の中ってめんどくさい。
まぁなにしろ、ネタにしてイジっても大丈夫なエライ人。
みんなそのくらいに思ってるから、命令は素直に聞くんだけど。
それに部隊の人達も全員、――優秀な人だ。とは思ってるんだよ、話聞くと。
当人はかえって大変そうだよな、そう言うの。
普通に嫌われてる方が楽なんじゃ無いの?
「……原因が生意気な口をきいてもアレですし」
「全く。わかってやっている、というのはなかなかにタチが悪くて良いな」
――もう少しやっても良いぞ、俺が許す。艦長はそう言って、ははは。と笑った。
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