第121話 フォイヤ!
『612の特尉より大佐、ラムパートバズーカ、間もなく射撃位置』
ラムパートバズーカ? なんてもんを実戦投入してんの!?
支援機も無しなのに……。
「ヤヴォール、速やかに射撃体制に移行」
『612。射撃体勢に入る』
「大佐! なにをするつもりだ!」
CP612専用実験装備の一つ、
名前はバズーカと付いているが、要は小型弾道ミサイルの発射機を束ねて、
――デカいミサイルを|
と言う子供じみた理屈で作った様な試作兵器。
小型、とは言え弾道ミサイルなので、地上の基地以外なら海上の大型艦や専用の潜水艦以外では発射機の装備が出来ない大きさ、単純に長さが10mあるミサイルだ。
もちろん陸上戦艦だけど、俺が知る一番デカい船。ナミブでさえ、弾道ミサイルなんか装備してるわけがない。
本当は中型弾道弾四発を撃てるようにしたかったらしいが、さすがに重量オーバーで断念。
それでもめげずに小型弾道弾二発用で再設計。出来うる限り軽量化した、発射筒二本を束ねて、バカでかいショットガンにグリップが付いているような見た目の、トンデモ兵器である。
重量がありすぎて他の武器は積載量オーバー。HFナイフさえ装備できない。
だから運用計画の時点で単機での運用は不可、と言う評定だったんだけど。
それに。あれはまだ開発中で、俺は実物では試験飛行さえしてないぞ?
『発射タイミングはそちらに。発射可能域までカウントダウン、3,2、1……』
「フォイヤ!」
『発射成功、最大加速まで2秒。マーカーの追尾良好。着弾まで7秒。本機も現場へ急行中』
なので、ラムパートバズーカが打ち出すのは、実は弾道ミサイルそのもの。
ローラは7秒と言ったが、普通そんな時間では到着しない。当然撃ち出すのにデカい機械が必要になる。だから、直接反撃を受けない為に遠くから撃つからだ。
空中から撃つこともあるらしいが、その場合は大型爆撃機が必要になる。
いずれ、撃つ前に用意を始めた時点で発射位置は大まかにではあろうと、バレるわけだ。
普通は。
当然、ミサイル接近を検知した対空防護システムにランプが付いて動き始めるが。
アールブみたいな“小さい”機体が、弾道ミサイルを発射することなど想定していない。
もちろん自動で動いているんだろうけれど、初動で完璧に出遅れた。
普通のミサイルはともかく、弾道ミサイルを打ち落とすとなれば。多少時間が必要になる。普通なら撃ち出す場所は最低でも500キロは距離があるし、加速するまでにも時間がかかる。
あとでチーフに聞いたら、低空を直進で来る弾道ミサイルなんか想定してるわけが無いんだそうで。
本来は何処かで発射に気が付いて迎撃の態勢を取るんだけど。
ローラは姐さんに7秒、と報告した。今回、そんな時間は一切与えられない。
機関砲は即座に射撃を始めたけれど、ほぼ意味は無いだろうな。あれ。
アールブが飛行形態で撃ち出すなら始めから、近いだけでなく早い。
弾道ミサイルは本来1,000キロ先の目標に当てる兵器。
デカくて重い分、ゼロからの加速に時間はかかるけど、最大速度は時速に直すと10,000キロを越えるスピードになる。ゆっくりなんか飛ぶわけ無い。
そしてそれを撃ち出す612にもとんでもない反動が来る。
ラムパートバズーカ射撃時、移動形態ではほぼ最大速度で無いと、失速して重量バランスの影響で立て直せずにそのまま墜落する。
結果。
「来た。……少尉、データバイザー下ろして伏せて!」
空気を切り裂く爆撃の、――ヒュルル……という独特の音が、一瞬だけ聞こえ。
動きを止めた旧型アールブ、それに、
――ゴキーン!
身長とほぼ同じ長さの巨大なミサイルが突き刺さって、くの字に折れ曲がったのが見えた。
次の瞬間、それを積んでいたトレーラーごと巨大な火の玉に変わり、ヘッドホンをつけているのを無視するような爆音と、身体が吹き飛ばされるような衝撃波が来る。
地上に膨れ上がった火の玉は徐々に大きくなりつつ、中心がドーム側にズレていき。
ドームにめり込んだ瞬間に最大限膨れ上がる。
ドームの窓という窓が一瞬明るく輝くが、火の玉の中心がそのままドームへと突入して、その輝きも消える。
その間、一秒以下。ヤバいと思うと、時間がゆっくりに思える。なんて話は聞いた事があるけど、こう言うことか。
「なんだ、……なんなんだ、あれは!」
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