第122話 銃を使うだけが能じゃない

「なんだ。と言われればSB-60系の弾道ミサイル、だと思うんだけど。……私も詳細は教えてもらってないんだよね。でも、通常弾頭じゃ無い様な……」


 その会話が終わるか、終わらないかのうちに爆発音が轟き、ドームの中央から屋根を吹き飛ばしつつ火柱が上がる。



 昨日、あのウィルという少年や、周りの人達と話をする機会があった。

 それによれば、あのドームは気温の上下から人々を守っただけでなく、ミサイルや迫撃砲の直撃にもある程度耐えるほどの強度があったのだという。



 そのドームの壁が窓やつなぎ目から火を吹きだし、バラバラと内側に倒れていく。

 ……ドームの中の爆心地が、クレーターになってるのか?

 置いてあった武器が誘爆したのはそうだろうけど、どんだけ破壊力のあるミサイルなんだよ……。


 壁の回りに展開しているご自慢の対空防御システムも為す術無く、炎に炙られ次々爆発炎上し、ドームがあった位置のクレーターへとおちていく。


「ω1からα1、こちらの作戦は完了した。繰り返す、こちらの作戦は完了した」

『α1ラウドアンドクリア。ω1の作戦完了を確認』

「なお拉致監禁被害者の位置は送信したデータ通り、ωⅠオーヴァー」


『協力感謝する、α1からはおわり。――全部隊、状況開始! 全速前進、抵抗するそぶりをみせたものは全て排除しろ! 降伏勧告は不要、武器を携帯したものは全て強制排除の対象である!!』


 なんかこの辺は、合法的な無法者、なんて言われて自警団が嫌われてる理由が透けて見えるとこだな。

 降伏勧告はカタチだけでもした方が良いってば。 


「全部隊って、……裏で何してやがる、情報屋の分際で!」

「情報屋には情報屋の戦い方があるって言う話でしょ? 一口に戦闘と言っても、銃を使うだけが能じゃないのよ?」


 男に正面から向き合った姐さんは、銃をホルスターに戻す。


「傭兵団で探しても出てこないはずよね。強盗団【夜明けのサソリ】。デザートピークとその周辺から、だぁいぶ恨みを買ってたみたいで。デザートピークを筆頭に、三市自警団が連合組んでここに来るってよ?」


 姐さんは艦長の名前でデザートピークに連絡を取ったが、向こうは向こうで連邦に繋がりがあって無駄に装備が良い上に、構成員の質も侮れないので手を出しあぐねていたらしい。


 特にデザートピークは七大自治区に数えられる一つであるのに、自警団は定数を揃えることも出来ないでいたので、街の外まで遠征なんて悪い冗談でしか無かった。

 来るものを迎撃する、それしか出来なかったのだ。


 その武装強盗団を、アジトごと潰せるチャンスをやる。と言われたデザートピーク自警団は、あっという間に近隣市町の自警団を傘下に連合軍を組織した。

 その規模たるや、準備の時間はたった半日だったのに、戦闘ヘリ四機、装甲戦闘車一〇両、普通の車両も三〇台以上からなる大部隊。


 姐さんのゴーがかかるまで、地平線の向こうに伏せていたのだった。


 この辺には砂丘とか無いからそうなったんだけど。

 ……でも、実はそんなに遠くないしね、地平線。

 コールサインと声からすると、デザートピークの団長さんも来てる?


「その前にテメェだけでも、この……!」


 男の台詞は甲高いエンジン音で遮られ、頭の上を無骨な戦闘機のようなシルエットが飛び抜ける。

 巨大な長い筒を機体の下に取付け、なによりその幅の狭い刃のような翼。普通の飛行機とは逆、前に向かって延びている。


 ……こないだから失速対策のために翼を完全に新規で起こして“前進翼”(※)にしてるのは知ってる。なにしろ、俺が自分でテストしてるから。

 ただ、いつもは自分で操縦してるけど、外から飛んでいるのを見るとあんな感じなんだ。

 カッコいい、わるい。と言うより、なんか普通と違うというのは見るモノに不安を与えるんだな。


 端的に言うと、怖い……?


「なんだ、ありゃ……。アールブⅡ、なのか……?」


 反転して変型、ごく自然に着地すると巨大な“バズーカ”を小脇に抱えて、しかしその筒先はあきらかに男を捕らえている。



「残った連中は武装放棄させなさい。無駄死にを増やす必要は無いでしょ?」

「ここで撃たれたらお前らも巻き添えだろうが!」

「気にしちゃくれないわよ、あなたが殺せればそれで良いんだろうからね。――まぁ、私も死にたくは無いので武装解除、してくれる?」


「何故だ、どう言うことなんだよ……!」

「あのアールブのマークを見たらわかるでしょ」


 CP612自体は塗装や見た目は変わっていない。

 通常、部隊章の付いている位置には、真っ赤なルビィズのエンブレム。

 それはいつも通り。


「あのエンブレム、あかの機体でこそないが、RB’zルビィズ……。新共和本国のエリート部隊、特務隊、の実験機だと言うのか!? さっきのミサイルはアイツが!!」


 エンブレムをみた男が、ナイフを取り落として顔面蒼白になる。


ルビィズかれらが興味を持った以上、何故。なんて言葉は無意味よ。人質ごと全員抹殺のプランを押しとどめたんだから、私に感謝してほしいくらいだわ。――良いから黙って一〇秒以内に武装解除を指示しなさい! 私はあなたと心中なんてまっぴらよっ!」  


 崩れるように膝立ちになった男が、無線のスイッチを入れる。


「……この無線が聞こえたヤツは総員、武装解除。無条件で自警団の指示に従え。夜明けのサソリは、……現時をもって、解散する」


「CP612、目標集団の武装解除が指示された。作戦は中断されたい」

『コピー、殲滅作戦は一時中断。大佐より報告あるまで現状待機。一〇分以内の報告を乞う』

「ヤヴォール。情報収集、特尉への報告急ぐ。アウト」



 俺は普段、あんな恐ろしい機体に乗ってるんだな。

 ローラが乗っているはずのCP612は、自警団のヘリが来るまで。

 ただ黙って佇んでいた。


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 ※前進翼

  胴体から見て前方に向け、斜めに取り付けられた飛行機の主翼。


  文章だけ見ると何だそれ。ではありますが、要は

  【サ〇ダーバード2号の主翼】

  ですね。一般的な飛行機のイメージとは逆の向きに付いてる羽根です。

  逆に普通のジェット機などの翼は、進行方向後ろ向きに

  角度がついているので呼び方としては後退翼、となります。

  (飛行機の翼については、実は用途に応じてもの凄く種類があります。

   弐逸自身はそこまで詳しくないので、突っ込みの際は優しくお願いします)


  個人的には上記2号のイメージが強かったのですが、調べてみると

  高速で飛ぶ飛行機にこそ有効な翼の形状、なのだそうですが

  安定性が損なわれるので採用例が少ない、と言うことのようです。

  ついでに言うと、形状的にステルス性能も低くなってしまうのだそうで

  ますます最近の軍用機では採用される可能性が下がる。

  よって一般的ではない。ということみたいです。


  ひねた作者としては、一般的で無いモノほど使ってみたいわけです。

  BAバトルアーマー、特に612はステルス性とか

  あんまり要らなそうですし。

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