第120話 殺されても仕方が無い。

「ジャンクパーツを寄せ集めて組んだガラクタか、やっぱりそんなもんよね。――301、Rifle Ready, Target Error Correction。Left 0.2 up/down +0.3」


 ガシャン、ブーン。ロックが外れてライフルの銃身がごくわずかに左に向きを変える。 

 駐機位置と向きの指示が細かかったのは、この為か。


 トレーラーから完全に立ち上がったアールブが、右手のライフルをあげつつ、ゆっくりと一歩目を踏み出すが。


「301、フォイヤ!」


 とてつもない爆音と砂ぼこりが舞い上がり、薄れた視界の中。

 直撃弾を喰らってコクピットに穴の開いたアールブが、一歩目を踏み出したカタチで動きを止める。


「BAを一撃、だと……!?」

「ライフル撃つだけなら。別に変型する必要、無いのよね、……特尉、聞こえてる?」


『612、ラウドアンドクリア。どうぞ』 


 ローラとの無線はオープンで聞こえる。

 ……って言うか聞かせてるのか。

  

「発信器稼働開始、射撃用意! 発信位置への侵入角、絶対座標3時12分13秒、グランドライン+6.2m」

『発信位置確認、32秒で体制完了』

「体制完了後、直ちに射撃態勢」

『コピー、体制完了後、直ちに射撃態勢』


 ……射撃って、今回の612あのきたい

 装備は何つけてよこしたんだ? チーフは。

 ウルトラスナイプライフルはここにあるんだぞ……?



「徹甲弾……? アールブのEWACはデータライフルだけしか装備できねぇって……」


 情報は間違って無いよ、今の301このきたいがどうかしてるだけ。

 もっと言えば、ライフルも完全に規格外だけどな、

 パッシヴバリアを展開しているはずのBAバトルアーマーに、何事も無く普通に穴を開けるようなそんなライフルは無い。……標準では、ね。

 まぁ5キロ先のBAを打ち抜くライフルなんで、これ。


 それにパイロットも非道い。

 データ射出用のデータ弾だとしても、直撃を避けることくらいは出来たはず。

 なんでそう思うかと言えば、ナーバスの関与ゼロでは動かすことが出来ないから。

 一応姐さんは、ロックオン警報を警戒して手動で照準していたんだけど。

 いくらジャンクの寄せ集めでも、この距離で銃口が向いていたら、ナーバスからは射撃警報が上がったはず。



「くそぅ! ふざけんな! デッドマンスイッチなんてブラフこきやがってっ! 攻める気マンマンじゃねぇか! 構わねぇ、やれっ!」

 目の前で立つ三人の男の内一人が、アサルトライフルの先につけた銃剣を構えて姐さんに突っ込む。


「片腕死んでりゃ格闘戦なら!」

「自信もなしにこんな所に来ると、……思う!?」

 それを受けて姐さんはむしろ軽く足を開いて腰を下ろす。



 リーダー以外のもう一人もアサルトライフルを捨てると、拳銃を抜いてこちらに向かってくる。

「へ、しょせんはゴム弾銃しか持たせられねぇ半端者だろ、死ね!」


 そう、俺が持っているのは暴徒鎮圧用として、基地内や特に艦艇内などで保安隊やMPの人達用に開発されたものだ。

 発砲する相手が内部の者であることが想定されるので、事情聴取のために相手を殺さないため。そしてなにより、まわりの機器を極力損傷しないための特殊な銃。


 銃のカタチは同じだが、打ち出す機構は電動、名前の通りに先端も丸く加工され、極力跳弾しないようにゴムの材質まで特殊な調整をされた銃弾。

 それを一発づつ撃つ、と言うのが基本になる。


 但し。

 相手との距離が一〇mで、この銃に連発フルバーストモードが付いていたとしたら。

 ――ポポポポポ……

 多少気の抜けるような音と共にゴムの弾丸が飛び出していく。


「たかがゴム弾の……!」

 男は拳銃を握った右腕をこちらに向けるが。


 飛び出す弾丸の大きさ、重さと初速が、ほぼ通常型のライフルと同じだとしたら。

 その状態で人間を狙うなら、ゴムでも鉄でも関係無い。


 違いは貫通するかどうか、と言うことくらいで着弾時の衝撃はほぼ同じ。

 普段は必要がないから連発で撃たないだけ。


 ボディアーマーを着込んでいようが、あばらも折れれば内蔵も傷つく。

 致命的なケガだって何発に一回かは間違い無くある。

 当たり前だがそうで無ければ暴徒の鎮圧なんか出来ない。




 一秒で六発、三〇発を五秒で撃ち尽くし、空になったマガジンを落として腰から取り出し、付け替える。装弾数が少ないな。

 サレさんのいってた通りだ、常にやってれば動作が自然にできる。

 練習って大事だ。


「もしかして、鉄の弾で死にたかったとか? ないね。あんたみたいな卑怯者はさ、ゴム弾で死ぬのが似合いだよ」

「が、は……」


「俺に銃を向けた以上、あんたは俺に殺されても仕方が無い。……ゴム弾だから大丈夫だと思った。そうだろ? 原因はあんたがマヌケだから、にしかなんないじゃん。あんたが死ぬのは最初から最後まで全部、あんた自身のせいだ」

「て、め……」


 三〇発全部をまともに喰らった男は、ナイフを足元に落として、口から血の泡を吹きながらそれだけ言って倒れた。

 手が動いて砂を掴む動きをしたので、さらに一〇発ほど。後頭部に距離30cmで叩き込んでおく。


 なるべく死にづらいように作ってあるだけで。死なないわけでは無い。

 少し考えりゃわかるだろ……。


 今まで人を殺す立場になったことが無いだけで、どうせ生きるか死ぬかなんだし、 だったら俺は、死にたくない以上。生きる方に立つしかない。

 自分でもここまでキレイに割り切れるって、少し驚きだけど。


 

 ――ぱかーんっ!


 隣で良い音が響いたので横を向くと、姐さんが縦に一八〇度開脚して、その前にはクビがおかしな角度で曲がったまま、空中に舞い上がる男。

 右手に大型拳銃、左腕を三角巾で吊ってる状態で真上に足を上げ、姿勢には一切のブレもない。

 もう一つ。俺が言うことでも無いんだけど、スカートでそれは……。


 もちろん横にいるので、俺には思い切ってのびたスカートの生地しか見えないが。

 そのスカートはまくれも破れもせず、足を下ろすと元通りになる。

 蹴りもスゴいけど、あのスカートの生地がすげぇ、なんなんだよアレ……。

 

 空中で縦に二回転して、うつ伏せに落ちた男はその後ピクリとも動かなかった。

 人を殺せる蹴り、なるほどね。

 まぁアレ喰らって、生きてたら逆に不思議だよな。



「一瞬であの二人を。お前ら、一体何者なんだ……」

「さっきも言ったでしょ? 傭兵、……情報屋よ」

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