第4話 避難なんか間に合わないじゃん!!

「間もなく憲兵隊が来る、パスは無いんだろ? お前。……憲兵隊アイツら、民間人、しかもガキにはやたら高圧的で容赦ねぇからさ。早く帰れよ?」

 曹長さんはそう言うと、カートを押して船の方へと歩いて行く。

「ありがとうございました!」


 ……思いのほか懐が温かくなった。持ってきた分全部がハケるなんて初めてだ。

 明日、おっちゃんとこに仕入れに行っても2/3以上残る。

 と言うことは。


 ハイスクールの学費をいれても来週いっぱい、その気になれば再来週まで食いつなげる。

 大儲け、女神様だな。あの人。




 突然、船から甲高いサイレンの音が響き渡ると、唐突に止まる。

『艦長より全艦に通達、コンディションフェーズ5! オールウェポンズフリー! 全艦載機スクランブル!』


 サイレンの音が戻り、複数の女性のアナウンスがそれに被る。

『コンディションフェーズ5が宣言されました。総員戦闘配置、総員戦闘配置』

『対空戦闘用意、主砲、対空砲、射撃用意』

『機関緊急始動、外部出入り口閉鎖まで30秒』


 腹に響くエンジン音がなり始めると同時、街の方からも低いサイレンの音が上がり始める。


『空襲警報が、発令、されました、全市民は、建物内部、もしくは、指定避難所へ、大至急、避難して下さい。繰り返します、空襲警報が、発令、されました……』


「空襲警報が、出た? いったい何が……」

 

 連邦領と国境を接しているわけでは無いし、なにより。

 こんな砂漠のど真ん中にある街を墜としたところで。連邦側には、何もメリットが無いじゃないか!


 ――キュゥ、キュキュキュキュイーン!

 頭の上、船の甲板? モーターの音が響き直後。

 ――ブゥウウン、ズドドドドドド……!

 鼓膜をつんざき、腹に響く音が鳴り響く。


「速射砲! もうなんか仕掛けてきた!? 避難なんか間に合わないじゃん!!」

 自分の声さえ良く聞こえない。

 視界の上、白く尾を引いて飛んでくるものが七個。

「ミサイル! 非常識にも程がある! 街の目の前だぞ!!」



 速射砲の音が止んで次の瞬間、白い尾の先端が丸く膨れ上がり、爆発する。

「当たった……? けど、近すぎんだろっ!」


 粉々になったミサイルの破片が。カートを投げ出して船へと走っていた、さっきまで俺と話していた曹長さんの真上に降り注ぎ、砂埃でなにも見えなくなる。

「曹長さんっ!!」


 一瞬遅れてなにも聞こえなくなるような爆発音が響き、一拍おいて衝撃波で吹き飛ばされる。

 地面に叩きつけられた、――ぐえ。変な音がした、と思ったら俺の声だった。

 砂埃が収まったときには、もう。

 曹長さんの居た辺りにはに人が居た痕跡など、何も残っていなかった。


「……次は、俺か」

 まぁこんな最期ってのも、あるかな。

 特に可も不可も無しの人生だったなぁ、ある意味幸せだったのかも。

 幸せがどんなカタチをしてるのか、考えてことなんか無かったけれど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る