第2話 このところ嵐だらけだよ

 街に横付けで“入港”している船、その裏側に回ってみた。

 陸上戦艦でも一番の大型、“サハラ級”って言うんだっけ。

 こうして改めて見るとやたらにデカいな。


 砂漠を走り回る移動基地、新共和は地上に拠点が少ない上砂漠ばっかり。と言うアフリカならではの発想だな。


 船の近所まで上手く近づければ。

 その日一日、街に行けない人達がいるから意外と売れるときがあるんだ。

 それに船に近ければエラい人達も多いし。

 今のところ果物売る以外、他に仕事が有るで無し。出来る事はヤラないと。



「昔、連邦のバラまいたレディオジャマーが一部、暴走していてな」

「電池切れならともかく、暴走。ですか?」

「あと十年は暴走し続けるそうだ。暴走した方が正常よりも電池が持つらしい」


「わかんない理屈ですね……。そのせいで不定期に電波妨害と不規則磁界が非道くなってレーダーもセンサーも効かなくなる、とは聞きましたが」

「昨日までの砂嵐もあったしな、砂に電波に磁気、仕事の方も含めてこのところ嵐だらけだよ。……戦闘も何度かあった上に強烈な磁気嵐。交換部品が心配だよ。既に予備が無い部品も出始めてる。できれば一度基地に戻りたいところだが」


「そこまでモロい構造でしたっけ、サハラ級」

「このところの磁気嵐がシールドの想定を遙かに超えてるんだ。昨日も駆動系の制御回り、その半分がおシャカだ」


「だから甲板に“アールブ”を出してないと?」

「シールドは船よりよほどしっかりしてるが、電子機器の固まりだからな。それにここは砂漠のど真ん中だ。スクランブルをかける時は視認できるんだよ」


 おっさんと女の人が、ずらりと並んだコンテナの日陰で立ち話をしている。

 服装は両方同じ。腰のマントみたいなヤツ、オ-バースカートって言うんだっけ。

 前に名前が気になって、同じクラスのヤツに聞いた事がある。


 制服の一部なんだから、見た目以外にもなにか意味はあるんだろうけど。

 ケツだけ日よけになっても、なぁ。


「そこまでパワフルな暴走なんですか?」

「非常に燃費も良い。回収、解析して装備にすべきだな」


 その腰のマントみたいなヤツ。

 街で見かける正規の新共和防衛軍はみんな、ひざより短い。

 ふくらはぎまで来るようなヤツ付けてる以上は尉官以上、かなりエライ人だ。

 制服なんだろうけど。……邪魔じゃ無いのかな、アレ。




「司令、コンテナはアレで全部、ですか? あとは積み込みだけ、と?」

「細かい整理は移動しながらで構わんだろう。事実上スピードは車より数段遅い。人目にさらすよりはナミブに乗せてしまった方が良い。――そもそもサハラ砂漠の西の外れから、わざわざイスタンブールまで急いで持ってこい、と言ったのは、ルビィズそちらだぞ」



 あの船はどうやら【ナミブ】と言うらしい。

 ……でもなんだろう、あの女の人の制服だけ色が違う。帽子まで真っ赤だ。



「マスドライバーがありますからね、イスタンブールには。モガディシオのエレベーターで良いとも思うんですけど。防衛軍上層部がタワー経由での移送を嫌がってるようで」


「どちらも変わらんよ。時間距離で行けばイスタンブールの方が近いくらいだ。モガディシオのアフリカタワー、利便性は良いだろうが南はもう連邦領だ。アレを人目にさらしたくない、と言うのもわからんでもないが」


「一番の理由としてはそのようですけど。でも、実は軌道エレベーターあそこの運用が防衛局でなく技術振興開発局だというのも、ウチのエライ人の中では大きいんですけどね」

「中で揉めている場合でもあるまいに。――だいたい、キミもそのエライ人の一人だろうが……」


「ルビィズの現場組と言うなら上から四番目、なんでしょうけど、ね。でも、ホントのエラい人達は本国そらでスーツ着て、中央委員会で“領土争い”してますよ」

「派閥、な。面倒なこった。ま、ルビィズは防衛局長直轄の実働部隊。と成れば。……敵は多いのだろうとは思うが」



 おっさんはやたら見た目も話し方も紳士的だがエラそうでもある。

 この船で一番エライ人なんだろうか。

 でもまぁ、そんなことより。


 あの女の人、やたらに美人。というか可愛い、というか。

 歳上なのは間違い無いけど、俺とそこまでは変わらない気がする。

 絶対、二十歳はたちまで行ってない、二つか三つ上ってとこ。

 ――でも、背は俺より明らかに一〇センチは高いな……。


 

「移送に関しては機密事項のこともありますしね。……それにあくまで身内なのであって敵では無いですよ。全力で足を引っ張ってきますけど」


 ……もう、それは普通に敵じゃ無いのかな?


 彼女の帽子から零れた金色の髪。

 肩に付くかどうかくらいの長さのそれが、砂漠の太陽を跳ね返し、身じろぎする度にサラサラと流れてフワフワ揺れる。



「マスドライバーで打ち上げるというなら、宇宙港の大きさから言っても私なんかはいっそ、一気にアイルランドまで空輸しちゃえば早いのに、なんて思うんですが」

「空輸は無理だな、今回は出土品が多すぎる。輸送のペイロードが足りん。新共和領の大型輸送機を全機集めるつもりかね?」


「このコンテナの数だと、ざっと見る限り。アフリカと南ヨーロッパ配備の超大型、全部集めないと、ですね。護衛の“アールブ”、何機要りますかね」


 学術調査の出土品輸送なのに戦闘機で無くて、アールブを護衛につける?


「なにしろ、本当に“妖精”が出るなどとは。誰も思っていなかったからな」

宇宙そらでも予断があったのでしょうね。……状況的に、事前の準備が十全でない。とは認めざるを得ません」


 妖精? あのコンテナ、いったい何が入ってるんだ?



「それに。いくら新共和領内とは言え、そんな派手な編隊を連邦が見逃してくれるとでも? 現状。完全に制空権を確保した、と言えるのは北部の一部のみだ」

「確かに。……ところで。専門家に対して、意外と言ったらアレですが。今回は特に早かったですよね?」

「専門家、ね。……以前に盗掘に入った連中がいたようでな。今回は入り口を発見するための穴を掘らずに済んだ」


 なんで軍人が砂漠で穴掘りしてんだ? しかも専門家? ……わけわからん。


「但しロックの解除まではできなかったようでな、ひと手間減った」 

「入り口まで到達できれば司令と、この部隊なら。前世紀の遺物であろうと、ロックの解除はお手の物。ですものね」


 しかも専門は盗掘? なんなんだこの人達。

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