SSV! ~Super Sonic Velocity!~ 妖精は砂漠に舞う

弐逸 玖

第一章 砂漠の少年と謎の荷物

第1話 なにもありゃしない

 新共和防衛軍の暗い赤の制服は、砂漠に映える。……とは言いがたいかな。

 でもまぁ。自警団の迷彩服ほどでは無いけれど、意外と保護色っぽい感じにはなる。

 砂って実は結構赤っぽいんだな、なんて。


 先週から。この街に新共和地上軍ご自慢のバカでかい陸上戦艦が来ている関係上、街中そこかしこで見かけるわけだが。

 陸上戦艦、とは言え見た目はバカデカくて平べったい戦車だけど。



 連邦と新共和が第三次の戦争状態に入ってからだけで二〇年強。

 最近はなぜ敵対しているのかさえ、みんな分からなくなってきたらしい。

 だったら戦争なんか辞めりゃ良いのに。



 ここは砂漠に強引に作られた実験都市、ウォータークラウン。

 本来ここには、小さな井戸が一本あっただけ。

 砂漠のど真ん中に農業都市を作る。そう言う実験のために作った街だ。


 作ってまだ5年目ではあるが、農業に従事する人の他、自警団や技術者達。そして農業や研究に直接は関係のない、俺のようなヤツまで含めて。

 たくさんの人がここへとやってきた。。

 今や人口は優に一万を越えている。


 街の真ん中にはシンボルとして緑にいろどられた大きな公園、そして真ん中に大噴水が設置されている。

 この四六時中吹き出している噴水は実は機械を使っていない。パスカルの原理なのかそれとも水圧なのか、自然に吹き出しているらしい。


 近所(と言っても数百キロ先ではあるが)の山から街に水用のパイプラインを引いており、この噴水もなぜか、はおいて水を空気にさらす。そのためにわざと流しているのだ、と聞いた。

 砂漠で水は貴重品、もちろん噴水用なんかのために無駄に使うなんてあり得ない。と、そこは俺でもわかる。



 宇宙そらに本拠地のある新共和にとって、地上の領土は砂漠であっても大事。

 だからここが上手く行けば、同じような街をいくつか作る計画がある。と聞いた。

 そしてそうなら砂漠を移動するために陸上戦艦も作る、と言うことだ。

 でもまぁ、言葉はともかく。アレは空母みたいなモン、なんだけど。




 アフリカ大陸の新共和領には砂漠が多い。そしてオアシスの近所にしか街は無い。

 その砂漠に人が住むところを強引に作ろう、と言う。一見、無謀な話ではあるのだが。

 今のところ、それはそこそこ上手くいっている様にも見える。

 俺がこうやって普通に生きてるからな。


 と言うことで。

 明日も生きるために果物や野菜を積んだカートを押しつつ、船のすぐ横まで来てみたが。

 仕事中の軍人にはなかなか売れないんだな、当たり前と言えばそうだけど。

 特に、今回来た部隊はホントに買う人が少ない。お堅い人が多いらしい。


「果物以外に、なにか売れるものがあると良いんだけどなぁ。なにもありゃしないんだから。……トマト、今日中に何とかしないと、明日はもう売り物にならないな」


 今週はヤバい。昨日と一緒じゃ、週末はパン一本と水一本。それしか買えない。

 先月みたいに噴水の水を夜中に汲みに行く、とか勘弁だ。

 最悪明日だけは、トマトが八個あるけど。


 相手は軍人、外に出てるのは男が多い。だったら女の子だったら売上が上がるかも、とも思うし。実際に女子の方が売上は安定してあがってるのは本当。

 だからといって俺が女装したところで、かえって売上が落ちるだろうしなぁ。


 ……今日は船の方まで行ってみようか。近所に行くと追い払われる可能性も高いけど。でもエライ人に会えると結構買ってくれるんだよ。

 エラくなると、財布にも気持ちにも余裕がでるもんなんだろう。

 

 出してみてぇなぁ、余裕。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る