第113話 私は本気よ?



 ――ムゥウウン、カシャン。ジャコン。

 ビームライフルは格納状態に戻り、固定用ロックがかかる。


 と。そのタイミングで、

「What would you have us do?」

 格納庫にやたらにきれいなインタフェイス言語が響く。


 ――ねぇ、ランパス。……あなた、私たちに何をやらせたいの?


 姐さんはランパスのモニター装置に右手をついて、じっとその表示画面を見つめている。

 わざと、俺の正面とモニターと同じ表示を出してるんだな。

 なんで姐さんとケンカになるんだよ、毎回々々。


 姐さんは顔も見た目も普通に見えるが、あれは。めちゃくちゃ怒ってるな……。


 姐さんに目をやったローラも気が付いたようで、いきなり顔が青ざめる。

 ……さすがに、お前は過剰反応しすぎだろ。

 まわりからメンタルモンスターみたいに言われてるが。わりと精神的には弱いよな、こいつ。


「私を嫌っていようが、これには答えてもらうわよ? 答えないというなら、お互いそれなりにリスクを取る覚悟ができた、と理解する。あなたにはそれを認識できる能力があって、そして。私にもリスクを受け入れるだけの覚悟がある。……これ以上は何も言わなくてもわかるわよね?」

 

 姐さんの取るリスク、それはすなわち

 ――ランパスをぶっ壊す。

 だな。


 そのために自分が殺されることになっても構わない、とランパスに言い放ったことになる。

 お前なんかに壊されねぇよ。とランパスが思えば、知らんぷりを決め込んでもいいところだが。


 そしてあえて標準語でそれを話すのはあくまで独り言、ランパスに脅しをかけてるわけじゃない。ってところか。


「無回答もまた答えの一つと取る。私は本気よ? ……Answer me.」


【Special Task Maj. please prevent the situation from spreading.For my safety.】


「保身のための事態拡散防止……? この人たちがこうなった原因をつぶせ、と?」


 姐さんの呼びかけに名指しで答えただけでなく、あえて特務少佐を無理やり訳しやがった。

 通常、特務隊の階級はインタフェイス言語に訳さないし、必要があるときも階級の略称に Sp. を付けるだけ。

 例えばローラの特務少尉なら【SP.Lt】になる。

 ランパスはナミブのライブラリ、どころか全てのデータにあたれるはずだから、その法則自体は知ってるはず。


 階級を表現して見せることで、きちんと話の理解はできているし、ケンカするつもりもない。ということを伝えた、というところかな。

 なんで腹の探り合いになってんだろ……。


「センパイ、恐らくは”彼女“の計算上、その組織が今後、脅威となる可能性がある。ということでは?」

「多分、解釈はそれでいいんでしょうね。……I understand your thoughts. ……Thanks.」

【you are welcome】





 いつの間にかランパスのアバターが、俺の肩の上に乗っている。

「なんでこんなめんどくさいことをする? ここに居ると決めたから、とでもいうつもりか?」

【半分はその通りです。私は当面、マスターとともにあると決めました.】

「それはわかった。……でも、今はもういいだろ? 全部元に戻して本体の電源を切れ」

【了解いたしました】



【Advise to a superior The “Captain of a namib”】

 俺の肩からアバターが消えると同時に、モニターが艦長を名指しする。


「え、俺? あぁ、おほん。……あえて自分に進言とはな、いったい何か?」

【No problem disarming and detaining. All but the detained ones should be set free.】


 子供や女性、怪我人まで。格納庫中で頭に手を置いて座ってる。

 ランパスで無くても気にはなるんだけれど。


「まぁ女性や子供も多いからそうしたいところではあるが。……武装しているものがいない、という根拠は?」

【No one in sensor range.】


「まぁセンサー自体はもともと、我が艦のものだろうしな。良いだろう、信じよう。――陸戦隊サレ最先任!」

「はっ!」

「全員の上着を取ってボディチェックをやり直し! その後は当初の予定通り、休んでもらう。急ぎ準備を始めろ」

「イエッサ―!」


「陸戦隊長タヒル少尉!」

「は、はいっ!」

「あとで話があるからそのつもりで。陸戦隊は総員、大至急作業に戻れ!」

「サー、イエッサ―! ――全員、ボディチェックと誘導を再開! サレ曹長はちょっと来てくれ!」



「クレメンテ憲兵少尉。憲兵隊は拘束したものを、まずは全員懲罰房に連行、あとでゆっくり話を聞く」

「イエッサ―。……さぁ、立て」


「と、こんな感じで良かったのかね?」

【Thank you, sir, “Captain of a namib”.】


 少佐とか名前では呼ばない、あくまでナミブ艦長。

 すべての通信を見聞きして、全部のデータにあたってるくせに知らんぷりか。

 AIのくせにいい根性してやがる。

 艦長もその辺、察したうえであえて”ランパス“とは呼ばないんだから、その辺はおたがいさま。なんだろうけど。


「ブリッジ、艦長だ! コンディションを2にダウン。ハンガーの隔壁閉鎖、ロックを解除! 通路を通常状態に復旧!」


【現時を持ってコンディションがフェーズ2に緩和されました、非戦闘員は……】

【1番ハンガーから全艦内通路のドア、隔壁開放、ロック解除】

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