第46話 わりとせせこましいんすね

 あまり整備されている、とも言えない滑走路が見える。

『コントロールより特技専所属アールブスカウト、ES301。クレセント特佐へ。着陸を許可する。滑走路へは北側から侵入されたい』


「ES301コピー。着陸許可を確認。これより滑走路北側より着陸態勢に入る」

 駐屯地の飛行場にこのまま降りるらしい。

 当たり前だな。無駄に変型するわけが無いし、地面がしっかりしてないと、足の形に地面が凹む。



 機体ナンバーES301。色は他のアールブと同じだがラインだけは赤でなく黒。

 尾翼のナンバリングも一回り小さくて、機首に新共和のマークは書いてあるけど、これもつや消し黒で少し小さい。羽根にあるはずの特技専の部隊章は無い。


 ナミブに一機だけあるアールブ偵察型アールブスカウト地上仕様。

 名前の通りに偵察型、なのだけれど。



 特技専という部隊の性格上、偵察飛行なんてそうそう無いのでこうやって連絡機として使われることも度々。とはメカマンから聞いた。

 基本二人乗りだけど、実はもう一人荷物の扱いでのる事が出来るらしい。

 乗ることができるのであって、乗るようには作ってない。と言う話なんだけど。



「いったん左から大きく回り込む。……ちょっと角度が深いかな。+0,5°」

「コピー、+0,5°」

「地上の通常着陸は初めてだけど。……結構横風が有るけど大丈夫かな、必要なデータはもう揃った。ヤバかったら勝手にオートが介入するんだろうしね」


 着陸でオートを介入させるのは、パイロットとしては恥ずべき事なんだろうな。


「見る限り、μミューが想定よりだいぶ低いみたい。制動距離は通常よりだいぶ長くなりそうだね。ブレーキの効きが悪い。横滑りはもちろん、オーバーランにも気をつけないと」

「普段はVTOLでは降りないの?」


「滑走路があるのに? 推進剤が勿体ない。一〇倍以上違うのよ、離陸ならなんと二五倍」

「わりとせせこましいんすね」

「地球に優しく。って旧時代からある標語だそうよ? ……着地の瞬間だけ、暴れないように気をつければ、あとは何とでもなる」



 以前姐さんが言っていた通りに本当の二人乗り。後ろの席に座ったが、今回は普通に前が見える。



「どう? ナーバス接続7%の感想」

「意外とすること多いんですね。でも、見えないし聞こえないのは不安。2%でも助かる」


 実は、カヌテ中尉の112とやり合ったシミュレーターでは5%だった。

 機体からのインフォメーションは、たった2%でもだいぶ違う。


「それが普通。……キミは出来るからこそ、普通を知っておく必要があるのよ」


 本当はナミブにも連絡機としてヘリコプターはあるし、軍用輸送車もある。

 単にクルマは時間がかかるからイヤ、と言いながら。ヘリは自分でそう言った人が操縦できない。

 だからアールブ、と言うわかったようなわからない理由で今、ES301は着陸態勢に入っている。



 つうか。姐さんは左腕が動かないから、当たり前だが改造した自分の037せんようき以外操縦できない。

 実は現状、俺が操縦“させられてる”のであるが。


「着陸準備。ランディングギア、展開」

「イエスマム(※)。ランディングギア、展開」



 二人乗りの分、銅体が長い。これ、変型したら足が短く見えるんじゃないんだろうか。もちろん実用的には問題、無いから実戦配備されてるんだろうけど。

 動作は鈍い気がするけど、かえって昨日のe2Dより動かしやすい。

 アレはシミュレーターだったけど。




『コントロールからES301。着地、減速終了を確認した。駐機位置は誘導に従われたい』

「301コピー、地上の誘導員に従う。――ラギ君、普通に走るよ。メインエンジンは出力をアイドル+1まで落として。誘導員、よく見てね。……サインの見方は覚えてるよね?」



 普通の制服にデータグラスの付いたヘッドセット、なんて。ここまでBAに乗るには、なんか落ち着かないカッコだったわけだけど。

 何かあったらこのまま戦闘に入るんだろうか。


「ナーバスもあるし、ゴーグルは邪魔だったらもうあげて良いよ。でも結構うるさいからヘッドホンはまだ外さないでね。会話が成り立たないし、しばらく耳が聞こえなくなっちゃうから」


 ランパスに乗った時は、俺は普段着。

 姐さんなんか上はブラジャー以外、つけてなかったけどさ……。



『コントロールよりES301。機体の停止を確認した。現時1314を持って降機を許可するので速やかに機外へ。……特佐、機体は当方の整備が引き継ぎしますので、エンジンはそのままで願います』


「降機許可を確認、エンジンは切らない。ここまでの誘導、感謝する、……機体はよろしく。301、クレセント特務少佐からは以上」

『ようこそ当駐屯地へ。コントロールも以上。――コントロールから設備隊第二。定期貨物が14分早着、32分後に到着予定。受け入れ準備開始。整備が格納庫2へ特技専ES301の移動を行う。環境班は滑走路の整備、安全確認急げ。なお……』


 前のシートから、――外せ。と言うジェスチャーが見えたので、ヘッドセットを外して、コントロールスティックにかける。


「ナーバスオールカット。――準備良い? さっきも言ったけど、“特士”だからね? 行くよ。……下部コクピットハッチオープン、シートダウン」

「イエスマム、シートダウン」



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※マム

 知ってる人の方が多いと思いますが一応。

 実はちょっと前まで自分は勘違いしてました。


 マム、はお母さん(Mom)では無く目上の女性を呼ぶ敬称の

 マダム(Madam)、その略称のマム(ma'am)なのだそうです。

 ちょっと力加減がわからないんですけど奥様、とか御令嬢。

 みたいな感じなんですかね。


 男性の敬称はもちろんサー(Sir)になりますが

 だからイエスサー。はそう言う意味では軍隊用語ではない。

 例えば映画なんかでも、執事の人がかしこまって

 目上の人に返事をする時とか普通に使ってますね。

 海外渡航歴なんかほぼ無いのでソースは映画になるわけですが。


 ただの軍隊用語としての返事なので男女問わず『 Yes.Sir! 』でも

 良いかなぁ、とも思ったのですが今回は原則に従いました。

 新共和内では機械だけで無く、半端に旧文明の流儀や文化

 言葉も生きのこっている、と言うことで。


 もっともマム、に関しては『おばさん』の意味も多分に含まれるらしく

 若い女性だと『マムってどう言うことよ!』なんて事もあるそうです。

 この場面だと、軍隊用語としての返事なのでマニィの側に

 拒否する選択肢は無いのですが。


 ちなみにCICやブリッジオペレーター、半分は女性の設定ですが

 それにイエッサーで返しているのは命令者が艦長か司令だから。

 と言うことにしないと、ここまでに既にたくさんの矛盾が……。

 オペレーターも別に上官、と言う訳でも無いし。と誤魔化してみたり。

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