第五章 空の軍隊と砂漠の廃墟

第99話 帰投を指示する。

 ディスプレイの端や椅子の背中に【control OP04】と書かれたナミブブリッジのオペレーター席。

 普段、612から呼び掛けると答えてくれるのが、この席に座る人たち。

 何故だか今日は、ヘッドセットをつけて俺が座っている。


 ディスプレイには【NOW Online - ITS02 RB041】の文字。

 要するにローラが戦闘中で、その管制を俺がやっているという状況。

 ……なんでこうなった。


『RB041からコントロール、敵部隊は完全に沈黙、初期目的は達したと判断する』

「コントロール了解。RB041は現状で待機、周囲の警戒をそのまま継続されたい」

『RB041コピー。現状待機しつつ警戒を厳となす』

『索敵2は041のフォローを継続する。索敵ドローンをさらに三機追加』


「索敵2も引き続き監視よろしく。――コントロール、オペレーター4よりCIC。データよりRB041の作戦完了の確認、並びに遂行率の計算を依頼する」

『CIC了解』

「コントロールから第2小隊、RB041の援護を要請する」

「第2小隊長了解、全機RB041の座標へ向かう」


 オストリッチの砲戦仕様四機が相手、とは言え護衛にターミガンが二機、ついていたはず。

 さらにはローラのレーダー範囲内に入る前には、向こうには位置がバレた。

 当然、ナミブがその位置を知ることはないので情報での援護もできない。

 その状態で。 


 ――二分半で敵が完全沈黙!?


 悪い冗談だよこんなの。

 ローラと模擬戦やってよく生きてたな、俺。


 ヘッドセットのスイッチをいったん切って、オペレータ-席からふり返る。

 珍しくベレー帽まで被った完全正装で。ヘッドセットを付けた真っ赤な制服が、気を付け。で立っている。


 自由な右手で口と鼻を覆った姐さんが、珍しく不機嫌そうに、

 ――うぅむ。

 唸りながら難しい顔で一つ頷いてみせる。


「ローラには2小隊へ状況引き継ぎ後、帰投を指示する。――で良いんだよね?」

「ふむ、よろしい。そのように伝えて」


 既にBA六機を墜としたのに状況続行、ね。……こっちはこっちで鬼だな。


「ナミブコントロールから041、BA2小隊が二〇秒で現着する。状況維持と周囲哨戒は2小隊に引き継ぎ、一度帰投せよ」

『イエッサー。RB041コピー、現行任務を第2小隊に引き継ぎ後、帰投する、以上』


 状況がどうなっているかと言えば、ほぼ先日の演習の時の焼き直し。

 砲戦型オストリッチの潜伏場所をローラの041が強襲したところ。



『CICシライからオペ4。キサラギ特士、RB041については作戦の初期目標達成を認める』

「オペ4了解」


『なおRB041の目標達成率は速報値で276%』

「に、276、……ですか?」

『計算値とともにデータをブリッジへ送る。特佐にも確認を乞う、CIC終わり」


 計算方法なんか理解ができないし、他の部隊がどうなってるか。なんて話も知らないけど。

 ナミブで言われる達成率は二割でまぁまぁ、四割なら成功扱い。

 100%の設定が間違ってるとも思うけど、でも。

 その達成率が、事実上成功の七倍……?

 もう何かが完全にオカシイだろ。

 

「ラギ君、今の数字は041には伝えなくて良い、聞かれても確認中だといっておいて」

「……イエス・マム」



 但し、状況が前回とまるで同じかと言えばそうでは無く。

 援護に加わってくれるはずの一小隊がまだカタパルトにいたり、俺がここにいるのでローラが単機だったり。

 さらにローラの位置情報が事前に敵にバレていたし、普通は手ぶらのはずの砲戦型オストリッチが通常型ライフルを持っていたし、護衛に速射型レーザーライフルを構えたターミガンが二機居たりした。


 しかも敵のパイロットは全員、ウォータークラウンを襲ったターミガンのクラスのパイロット。

 簡単に言えばエース級。


 こないだと比べても、完全にハードモードは越えてヘルモード。

 こう言う表現を使うと、本人は興味を持つだろうか。

 ゲームがわかんないかな、もしかすると。

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