友人との再会 1
無事にグレール学園を卒業した後、午前中は各分野の第一人者に家庭教師の先生として来て頂いて色々な講義を受け、午後は日によっては福祉施設への慰問を始めとする王族としての公務に当たるなどして、私は毎日をそれなりに忙しく過ごしていた。
それは私の成人祝賀会が三日後に迫ったある日のことだった。
最新の海外情勢について家庭教師の先生として説明しに来てくれたクロードが、今日辺りにニーグレン国のキャリーナが到着するはずだと言ったのだ。
「え、本当? 今日?」
「ああ。予定では今日だと。午前中に到着予定だったのだけど、まだみたいだね。どこかで時間が掛かっているのかな?」
新米ながら、クロードは優秀な外交官として道を歩み始めた。私の成人祝賀会の事務方としての仕事は、彼にとっての最初の大仕事のようだ。
クロードは立ち上がって窓の外から城の入口方向を眺める。見える範囲には王族が乗るような馬車はなかったようで、振り返ると首を振り、肘を折って両手を上げる。
「ニーグレン国が最初の到着かしら?」
「予定ではそうだね。だけど、他の国も明日には到着予定だよ。今日明日はゆっくりしてもらって、明後日は魔術研究所を見学してもらう予定だよ」
「ふーん」
我がナジール国は世界でも類を見ないほどの魔法が発達した国だ。
つまり、ナジール国の直轄である魔術研究所は世界最高峰の魔術の研究所であると言っても過言ではなく、他国の王族達が興味を持つのもわかる。
それに、我が国としても高い魔法技術を世界に知らしめるいい機会になるだろう。
「三日後のベルの成人祝賀会に参加して頂いたあとは、一日か二日をナジール国で過ごして頂いて帰国する感じかな」
「私がサンルータ王国に行ったときと同じような日程ね」
「そうだね。わざわざ遠い国に来ているから、帰国途中で観光される国もあるし、内々の会談を入れている国もあるよ」
「ふうん」
クロードの講義はいつもこんな砕けた雰囲気の中、雑談を交えて行われるのでとても楽しい。たまにオリーフィアも交えてお茶会形式にしたりもして、私の息抜きの時間になっていたりもする。
この日、来たる成人祝賀会に備え、クロードは各国の特産品や最近おきたニュース──例えば、王族の一人が出産しただとか、伝統的なお祭りが行われたとか、そんなことを要点を掻い摘まんで教えてくれた。
他国の王族と会話をするとき、これらを知っているのと知っていないのでは話の膨らみ方が全く違う。
ふとしたときに会話にこの知識を混ぜ込むことで、『ナジール国はあなたの国を大切に思い、注意して見ています』ということを伝えることができるのだ。
濃い内容の講義を終えた私は昼食を終えると、今日メモしたノートをもう一度見返した。うろ覚えでは間違えた情報を口走って、かえって悪印象を与えかねない。
どれくらいそうしていただろう。
ふと甘い香りが鼻孔をくすぐり顔を上げると、エリーがサイドテーブルにティーセットを用意してくれていた。紅茶と、クルミの入った焼き菓子だ。
「あまり根を詰めては疲れてしまいます。休憩になさいませ」
「うん、ありがとう」
私は微笑んでティーカップを手に取る。
芳醇な味わいと共に、体の中に優しさが浸み渡った気がした。
外を見上げると、澄んだ青空が広がっている。最近寒さも和らいできたので、こんな日は庭園を少し散歩したら気持ちがよいだろう。
(エドに会いに行ってみようかしら?)
エドとは魔法の講義で週に一回、その他にも手紙をやり取りして会うようにしているけれど、誕生日以降デートのようなことはできていない。一緒に庭園を散歩したいなと思った。
私はメモを取ると、これから庭園に行くのだけれど一緒にいけないかという内容をしたためる。それを手のひらに載せて意識を集中させる。小さく唱えた空間転移の呪文と共に、手紙は忽然と消えた。
私の魔法が失敗していなければ、今頃エドのところに届いているはずだ。
鏡の前で身だしなみがおかしくないかを確認して、お兄様から誕生日に贈られた帽子を被ると私はエリーと共に庭園へと向かった。
噴水の前にある芝生広場にはちょっとした休憩ができるガゼボがある。広い王宮の庭園を散歩してエリーとそこで休憩していると、黒いケープ姿の長身の男性が宮殿の魔術研究所がある方向から庭園へと向かって歩いているのが見えた。
「エド!」
片手を上げて手を振ると、すぐに私に気付いたエドは笑顔で方向を変えて近づいてくる。
「姫様、お散歩ですか?」
「ええ。エドは休憩?」
「はい。気分転換に庭園でも歩いて一息つこうかと思いまして。よろしければ、エスコートいたしましょうか?」
あたかも偶然のように私達は言葉を交わすと、エドは私に手を差し出す。
「お願いしようかしら。休憩時間はどれくらい?」
「少し仕事が溜まっているので、十五分ほどで戻ろうかと」
「わかったわ。エリー、エドと少し歩いてきても?」
私がガゼボで一緒に休憩していたエリーの方を振り返ると、エリーは「では、ここでお待ちしておりますね」と笑顔を見せる。
私はエドの手を取ると、庭園内をゆっくりと歩き始めた。
「少し仕事が溜まっているって、悪いことをしたかしら?」
私はエドの仕事の邪魔をしてしまったかもしれないと心配になり、その横顔を見上げる。目が合ったエドは心配ないと首を横に振る。
「大丈夫です。そろそろ休憩を取ろうと思っていたところなので、ちょうどよかったですよ。それに、姫様の顔も見たかったですし」
エドはエスコートとして重ねている手を持ち上げると、その甲に口づけた。
触れられた場所から熱が広がるのを感じる。
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