素敵な贈り物 1


 家族と楽しいひとときを過ごした私は部屋へ戻ると、早速届いていた封筒の差出人を確認してゆく。


「あ、オリーフィアからだわ」


 私はその中に仲良しのオリーフィアのものを見つけて手を止める。

 封を開けて中身を確認すると、お祝いの言葉と共に今日会えるのを楽しみにしていると書かれていた。今日の午前中は私の誕生日のお祝いのために国内貴族達が謁見する時間が一時間ほど設けられているので、その後にお茶会をする約束をしていたのだ。


 他には、クロードを始めとする学生時代の友人達や、お茶会に参加して知り合った国内貴族の令嬢のもの、それに、ダニエル殿下やニーグレン国のキャリーナからも届いていた。

 キャリーナは最近、随分と記憶が戻ってきたようで公務にも復帰しているようだ。以前のような明るい性格が文面から窺い見られるようになってきて、とても嬉しく思っている。

 

(エドからの、ないわね。最近忙しいからかしら……)


 一番お祝いを言ってほしい人からの手紙がないことにがっかりしたものの、すぐに私は考え込む。

 エドの性格的に、多忙で私の誕生日を忘れてるということはない気がした。


(もしかしてっ!)


 私は立ち上がると、今日届いたプレゼントの山をじっくりと眺める。その中にラプラシュリ公爵家の紋章を見つけた。白いリボンがかかった、水色の小さな箱だ。

 私はそれを、少しドキドキしながら開ける。


「これは、バラの蕾?」


 中には一輪の赤いバラの蕾が入っていた。

 意図がわからずにじっと眺めていると、蕾が徐々に花開き、やがて大輪を咲かせる。見事に咲いたバラから煌めく粒子が舞い上がり、線のような形を作る。


『お誕生日おめでとうございます。本日午後に、お祝いに伺います』


 空中に輝く文字で、そう綴られていた。


(すごいわ!)


 新しい魔法だろうか。

 こんなの、初めて見る。

 エドからの特別なプレゼントに、今年も素敵な誕生日になりそうな予感がした。

 


    ◇ ◇ ◇



 およそ一カ月ぶりに会うオリーフィアとの時間はとても楽しく、あっという間に過ぎてしまった。


「準備は順調なの?」

「ええ。今は、持っていくドレスや宝石を揃えているの。ウエディングドレスも作っているわ」


 オリーフィアは少し照れたように、はにかむ。


「でも、覚えることがたくさんで大変だわ。外国の方がいらしたときに一緒に晩餐会に参加することもあるから、頑張らないと」


 クロードと婚約中のオリーフィアは挙式を数ヶ月後に控えている。

 外交官一族であるクロードの実家──ジュディオン侯爵家に嫁ぐにあたり覚えなければならない独特の知識も多いようで、今は毎日勉強中のようだ。

 ただ、オリーフィアは終始笑顔で、とても幸せそうに見えた。幸せそうな友人を見ていると、私まで幸せな気持ちになる。


 そのとき、私はふとオリーフィアが付けていたネックレスに目を留める。白金のチェーンには、水色の丸い石がぶら下がっていた。その水色の丸い石を引き立てるように、アクセントとなる小粒のダイヤモンドの装飾がされている。


「もしかして、それがクロードの魔法珠?」

「え?」


 空を思わせるような水色は、クロードの瞳の色だ。


 ナジール国では、結婚の約束をする際にお互いの魔法珠を贈り合うことが多い。魔法珠はひとつしか作ることができない上に、常に作った人の魔力を供給し続ける特別なものだからだ。


「とても素敵ね」

「ありがとう」


 私の言葉に、オリーフィアは自分の胸元にぶら下がるその石に手を添えると花が綻ぶかのような笑顔を浮かべた。


「挙式には、ベルも来てね?」

「もちろんよ。絶対に参加するわ」


 私はにっこりと頷いた。 




 二時間ほどお茶をしてオリーフィアを見送った後、私は部屋の窓から外を眺める。


「天気がいいから、庭園の散歩にでも行こうかしら」


 窓からはどこまでも続く青い空と、所々に浮かぶ白い雲が見える。温かいし風もなく、絶好の散歩日和だ。


(エドと歩きたかったけど……)


 午後に会いに来ると言ったけれど、午後の何時なのかが書かれていない。もしかすると、今日も仕事で忙しいのだろうか。

 

「エリー、少しの間お散歩に行こうかしら」

「はい。かしこまりました」


 エリーは壁際の時計を確認する。


「少し髪とお化粧を整えましょう」

「庭園に行くだけよ?」

「でも、今日は特別な日ですわ。さあ、座ってくださいませ」


 特に崩れてもいないし庭園に行くだけだからという私を、エリーは鏡台の前に座らせる。誕生日だから綺麗に着飾ったほうがいいということだろうか。

 エリーに任せて、私は好きにしてもらうことにした。


「とても可愛くしてくれたのね。ありがとう」


 顔を撫でる化粧筆が離れるのを感じ、私は目を開ける。

 鏡を覗き込むと、決して濃くはないけれど美しく化粧を施された自分の顔が映っていた。


「では、参りましょう」


 エリーは化粧道具を手早くしまうと、ドアのほうへと向かう。

 部屋の外に控えていたヘンドリックに何かを話しており、ヘンドリックが頷くのが見えた。


「どうしたの?」


 私は不思議に思ってエリーとヘンドリックに尋ねる。


「庭園に行くと伝えただけですわ」


 エリーは口元に片手を添えると、ふふっと微笑んだ。


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