十三歳の誕生日 2
「──姫様、今日が誕生日なのですか?」
「そうよ。これはお兄様からのプレゼント」
私は笑顔で髪の毛に飾ってある、今日貰ったばかりのリボンを指さす。
エドはそれを見つめながら、口許を押さえた。
「……しまった」
「何が?」
「プレゼントが……」
しどろもどろになるエドを見て、すぐになにが言いたいかわかった。多分、私の誕生日を知らなくて、プレゼントを用意していないので狼狽えているのだろう。
「プレゼントはなくて平気よ。気持ちだけで十分」
「そういうわけには……」
「エドの誕生日はいつなの?」
「ついこの間です。二ヶ月ほど前」
「そのときにわたくしは何もお祝いしていないわ。お祝いの言葉すらかけていない」
「俺のは別に構わないんです」
エドはきっぱりとそう言ったけれど、そんなのおかしいわ。
本当に気にしなくていいのに、エドは未だにしまったと言いたげに眉を寄せている。そのとき、私はいいことを思いついた。
「じゃあ、誕生日プレゼントに魔法を見せて」
「魔法?」
「うん。エドは学年一、魔法が得意だってお兄様がよく言っているから、何か見せてくれたら嬉しいわ」
「そんなことでいいのですか?」
エドは拍子抜けしたような顔をしたが、すぐに「少々お待ちください」と言って真面目な顔つきになった。
「姫様、好きな花はありますか?」
「花? ダリアが好きだわ」
「かしこまりました」
エドが何かをぶつぶつと呟く。
折り曲げた片腕の手のひらを天に向け暫くすると、そこが鈍く光った。
青白く光る手のひらをじっと見つめていると、白い粒子が円を描くように集まり徐々に固まってゆく。そして、輝きが収まったとき、そこにはクリスタルのダリアが乗っていた。
「わあ! 凄いわ!」
「物質組成魔法のひとつです」
「凄い!」
物質組成魔法とは、その周囲にある物質を強制的に組成して別の物質を作り出す極めて高度な魔法だ。小さな花火を起こすとか、それくらいの魔法を見せてくれるのだと思っていた私は、思いの外本格的な魔法に興奮した。
「姫様、どうぞ」
「わたくしに、くれるの?」
「その場しのぎで申し訳ありませんが、よろしければ。姫様、お誕生日おめでとうございます」
エドが今作ったばかりのクリスタルのダリアを差し出す。
両手で受け取ると、それは窓からの光を浴びてキラキラと輝いた。本当に、なんて美しいのかしら。
「その場しのぎだなんて。とても素敵! どうもありがとう。大切にするわね。エドは本当に凄いわ。次のエドの誕生日には、わたくしがお祝いするわね」
満面に笑みを浮かべてお礼を言うと、エドは僅かに目を見開く。
褒められて照れたのか、戸惑うように視線をさ迷わせると「どうも」と言った。黒髪から覗く耳が、ほんのりとピンク色に色づいていた。
その日の晩、私はとても幸せな気分で自室に戻った。
皆にお祝いされて、本当に素敵な誕生日だったわ。
「それは枕もとのサイドテーブルに置いてくれる? 他のプレゼントも、近くに置いてほしいの。お兄様のくれたリボンここに置いて──。本当にとっても素敵な誕生日だったわ。エリーもありがとう。今日はいい夢が見られそうな気がするの」
「それはようございました」
喜ぶ私を見て、エリーも嬉しそうに微笑む。私に見えるようにプレゼントをサイドテーブルに並べ、最後にエドがくれたクリスタルのダリアを飾る。室内灯を浴びたそれは、昼間とは違う煌めきを放って美しく輝いていた。
「おやすみなさいませ、アナベル様」
「おやすみ、エリー」
肩まで布団をしっかりかけると、エリーは『消灯』と呪文を唱えて魔法の灯りを消す。間もなく、私は深い眠りへと誘われたのだった。
夢を見た。
前世で幸せだった頃の夢を。
あれは今から一年後、十四歳の誕生日のことだった……。
──
────
────────
十四歳の誕生日の日、私はいつものように王宮の自室で過ごしていた。部屋で刺繡の練習をしていると、ドアをノックする音がしてお兄様が顔を出した。
「ベル、少しいいかい?」
「ええ、もちろん」
「もう何回か会ったことがあるから覚えていると思うけれど、私の友人のエドワールだ。今日はベルの誕生日だろう? だから、彼も是非お祝いしたいと」
「まあ、わざわざありがとうございます」
お兄様は後ろに控えていたエドを紹介する。エドは私と目が合うと、にこりと笑って手に持っていた大きな花束を差し出した。
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