家族との再会 2
「誰だと思う?」
「わからないわ」
お兄様に顔を覗き込まれて、私は首を傾げる。
記憶力は悪い方ではないと思うけれど、残念ながらお兄様のクラスメイトの名前まで一人ひとり覚えていないわ。だって、会ったこともない人達だもの。
「エドだよ。エドワール=リヒト=ラブラシュリ。ラブラシュリ公爵家の次男の。前に王宮に遊びにきたときにベルにもちらっと紹介したんだけど、覚えていない?」
その名前を聞いた瞬間、衝撃で時間が止まったような気がした。
エドワール=リヒト=ラブラシュリ。
忘れるわけがない。十八歳だった私を最後まで守った、護衛騎士のエドのフルネームだ。
「……。よく覚えていないわ」
ポケットにいれた魔法珠を無意識に触れた。コロンとした少しだけ温かい感触が指先に触れる。私は表情を取り繕い、首を振って見せた。
「そっか。まあ、ちょっと挨拶しただけだしな。──エドはね、クラスで一番魔法が上手いんだよ。飛び抜けている」
「ふうん。凄い人なのね」
「本当に、実際に見たら
お兄様は神妙な面持ちで話を聞く私を見て、慌てて付け加えるようにそう言った。きっと、私が未だに簡単な魔法すら使えないことを気にしていると思ったのだろう。
私は曖昧に微笑んだ。
慰めてくれるお兄様には悪いと思うけれど、残念ながら私が死ぬまで魔法を使うことができないということは、わかっているの。
あら、これは少し語弊があったわ。
正確に言えば、力尽きる直前で使ったかしら。派手にサンルータ王国の宮殿の一部を破壊したもの。
──でも、遅すぎた。
サンルータ国王に『魔法を使えない王女を寄越すなんて──』と侮辱されたことを思い出し、ぎゅっと胸元を押さえる。私はまた、あの未来を辿るのだろうか?
と、そこまで考えてふと立ち止まる。
前回は遅すぎたけれど、今はまだ十二歳だ。もしも私の魔力がもっと早く解放されれば、歴史は変えられるのではないかしら?
でも、できるだろうか?
前回の人生でも、何も努力しなかったわけではない。魔力を解放するために、自分なりに色々と試したのだ。家庭教師も付けたし、自分なりに練習もした。けれど、できなかったのだ。
だから、前回と同じことをしたのではきっと意味がないわ。
考え込んでいると、お父様とお兄様の会話が聞こえてきた。
「身近に同じ年頃の秀でた者がいると、刺激になるだろう?」
「ええ、そうですね。よきライバルに恵まれて幸せ者です」
笑顔でお兄様が頷くのを見て、閃いた。
身近に同じ年頃の秀でた者がいると、刺激になる?
これだと思った。学園には一学年につき何十人もの学生がいるはずだ。その中には、きっと優秀な人間もたくさんいるはずだ。もしかすると、私の魔力解放を促すような刺激を与える者もいるかもしれない。
「お父様、お願いがあるの」
善は急げ。私はお父様に向き直ると、勢いよく身を乗り出した。お父様は飲んでいたモーニングティーのカップをゆったりとした動作でソーサーに戻すと、不思議そうにこちらを見つめた。
「どうした、ベル。改まって、なんだい?」
「わたくしも学園に通いたいわ。お兄様と同じ、グレール学園よ」
グレール学園は男女共学の国立学校だ。ナジール国で最高の教育を受けられると評判で、国内各地から貴族はもちろんのこと、優秀な子供達がたくさん集まってくる。
かつての私は家庭教師をつけるだけで学園には通っていなかった。けれど、学園に通えばなにか魔力解放のきっかけが摑めるかもしれない。
それに、学園に行けば自然な流れでエドに会える。
そうすれば、これからどうすればいいのかを相談できるかもしれないわ。
「「「ベルが学園に?」」」
お父様とお母様、そしてお兄様の三人は揃いも揃って、豆鉄砲をくらった鳩のように目を丸くした。
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